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メモは人生を凌駕する。

前田裕二先生の「メモの魔力」、2019年のビジネス書年間ベストセラー第1位に輝いていたことは知っていたのですが、あまりにもみんなが読みすぎていて、「有名すぎるビジネス書はちょっと・・・」と敬遠していたのですが、内心ではずっと気になっていたらしく、BOOK-OFFで中古で売られているのを発見して一にも二にもなく飛びついて買ってしまいました。ステマ感が強いビジネス書ってガッカリすることも多かったのですが、この本は本当に読み応えがありました。本当に「魔力」が備わっているのかと思うくらい、序章を読んだだけですぐにメモを取りたくなりました。元々私は人に比べて、メモや日記を取る方だと自負していたのですが、この本を読んで「全くメモに対する努力が足りなかったんだな」と思い絶望したくらいです。そのくらい前田先生はほとんど狂気とも言えるくらいにメモを取っていらっしゃいました。素晴らしいことばかり書かれていたので、この思いを分かち合ってくださる皆様と共有するべく、ほんの要約をシェアします。

「メモはあらゆる日常の出来事をアイデアに変えられる魔法のツールである。
対象を自分自身に向けることで「自分とはどういう人間なのか」も見えてくる。今の時代、自分を知ることはすごく大切である。なぜかと言うと今後は内在的な価値が評価対象になる「価値経済」が勃興することは間違いなく、人の共感を集められることが何より大きな価値となるからだ。自分を知ることで、人生のコンパスを、人生の軸を手に入れることができる。そのためのツールがメモなのである。

メモは自分を客観視するための重要なツールであり、自分のことを深く理解することができる。自分のことを理解できるようになると夢を実現させることもできる。そして人生をより良いものにすることができる。だから、これからは世の中全てのことを言語化する勢いでメモを取ろう。」

「メモの魔力」はこのような序章から始まります。前田先生は「量が質を生む」と仰っていますが、これはトライアンドエラーや実践の繰り返しで製品を形にするデザイン思考に通じるところがあります。
メモを取って、気づきを得て、PDCAサイクルを高速で回すことが仕事はもちろんのこと、プライベートでも大事になってくるとのことです。

まずは普通に今日あった出来事や忘れたくないことをメモしましょう。ファクト(事実)をメモしておくことで、創造力を要することに脳の容量を空けておくことができます。メモをすると否応なしに言語化の必要性が出てくるので、単純に言語化能力が向上しますし、どこの階層の話をしているのかという構造化能力も向上します。では具体的にどうやってメモを取るのかというと、ノートのページを見開きで使い、左側に左脳的な事実、右側に右脳的な発想という風に脳の使い方によってページを切り分けます。また、メモのタイトルをつけることも大切で、書いたメモを要素ごとにグルーピングします。そうしてファクト→抽象化→転用のプロセスを経ることで、他の分野にも応用可能な気づきを得ることができます。

抽象化の3類型として、What・How・Whyがあります。
What:概念に名前をつける(言語化①)。
思考を深める=抽象化すると、再現性、汎用性が生まれます。
What型抽象化の訓練によって、自分が紡いだ「生きた言葉」で話せるようになると、共感者が自然と集まってくるようになります。
次に、その概念の特徴をHowで深掘りしてみる(言語化②)。
さらに自分の「言語化されていない深層意識」に目を向けてみる。この思考プロセスを「意識の抽象化」(言語化③)と呼んでいます。抽象化の3類型の中ではWhy型(なぜ自分に刺さったのか、本質的になぜそう思ったのか)に分類されますが、要は自分の意識に対して「なぜその意識を持ったのか」と“Why”を向けて、そこから滲み出てくる思いを逃げずに言葉に変えていく、という作業です。

また、前田先生は「自分を一歩引いて客観視する癖をつける」ことが抽象化能力を引き上げるにあたって身に付けておくべき重要なものと述べています。
世阿弥が能楽論書「花鏡」で述べた言葉に「我見」と「離見」というものがあります。
芸の世界には当然ながら良い演者と悪い演者がいる。それらを分けるものは何か。それは目である。悪い演者というのは自分自身(我)が周りを見つめる目、すなわち「我見」しかない。一方で良い演者は自らの体を離れたところから自分を客観視する「離見」の目を持っている、といいます。幽体離脱してあらゆる方向から自身の演技を見る目。要は観客の目です。この離見の目、すなわち「離見の見」を持つこと、そして自分側の「我見」を「離見」
と一致させていくことが、芸に秀でる上で重要だと世阿弥は述べています。
普段私たちは意識しないと自分の目線や主観、つまり「我見」によりがちです。そうすると何が起こるかと言うと、物事を単眼的にしか捉えられなくなります。社会や人間は様々な側面で成り立っていて、複雑な様相をなしているのに、単眼的にしか捉えられないと、思い込みや誤解の可能性を大きく引き上げてしまいます。しばしばそういったことは人間間のトラブルの種になりますので、抽象化するにあたっては、主観と客観のバランスを取ることが非常に重要になります。

また、メモというツールは、自分を知るのにも強力な力を発揮します。徹底的に自己分析をすると次第に自分が持っている人生の軸が明確になるのです。
前田先生は紙に自分の夢を書いて言語化することでマインドシェアを増やし、夢が現実のものになりやすくなると述べています。
私はよく「ウィッシュリスト」を書いていますが、ウィッシュリストについて細かく触れると、それだけで1つの記事になりますのでここでは割愛させて頂きます。
さて、夢の優先度ですが、それは夢の「重要度」で決めます。重要度の決め方は「トップダウン型」と「ボトムアップ型」があり、トップダウン型は自分の最も大切な人生の軸が定まっている人に向いているアプローチです。一方ボトムアップ型のアプローチが向いているのは、自分がワクワクする度合いで重要度を決める人。自分はどちらの生き方に喜びを感じるか把握しておくことが大切です。

私が大学2年生の時、企業のインターンで将来の夢について書く課題がありました。その課題とは20代の自分、30代の自分、40代の自分、50代の自分、60代の自分の夢を書くというものだったのですが、この夢へのアプローチ方法はいかにも「終わり」や「ゴール」を意識するトップダウン型であり、生来ボトムアップ型の自分にはとても窮屈な人生設計に思えました。学校の学年制度ならいざ知らず、人生とは果たして先に終わりを決めるべきものなのでしょうか?どこまで長生きできるかは神のみぞ知るところであると私は思っています。これは「時間」という人類学的な概念とも通じるものなのですが、トップダウン型は「時間」を一直線の線として捉えることによって初めて形成される概念です。しかし、ロシアの文豪レフ・トルストイによると、「過去も未来も存在せず、あるのは「現在」という瞬間だけだ」として「時間は線である」という概念を真っ向から否定しています。確かに、過去も未来も変えることはできません。常に変えられるのは今だけだし、人間は心身ともに常に変化していく生き物だから、その時その時の意思決定を尊重すればいい。だから、ウィッシュリストを作成する時もボトムアップ型の方は「●月までに絶対達成するぞ!」とか「週●日は必ずこれをやるぞ!」と期限やノルマを設けないほうがいい。期限を設けるとプレッシャーや窮屈さを感じてしまうし、夢の実現は少なからずご縁の影響もあります。急いてはことを仕損じるという諺があるように、来たるべき時に備えて準備しておくことの方が大切です。

トップダウン型の方向けにゴール設計時に有効な「SMART」というフレームワークがあります。「S」は「Specific」、具体的であるということ。「M」は「Measurable」、測定可能であるということ。「A」は「Achievable」、達成可能であるということ。「R」は「Related」、関連性があるということ。そして「T」は「Time」、時間の制約があるということ。これらの5条件が成り立った時、夢は現実のものとして作用しやすくなります。

最後に、前田先生は「メモは生き方である」としてメモの哲学についてまとめられています。メモは創造の機会損失を減らすツールであり、習慣化できれば本当に強いです。習慣化するためには自分のお気に入りの文房具を揃えたりしてモチベーションを上げましょう。自分に厳しすぎるルールを課すことは厳禁です。あまり「こうでなくてはいけない」と型にはめすぎると自分が苦しくなり、継続が難しくなるからです。それよりもスモールステップで小さな成功体験を積んで、自分に自信をつけるようにしましょう。そしてメモを取ることが習慣化できたら、次はアイデア創出を習慣化していきましょう。メモ、そして抽象化という強力なツールを使って自分の人生の幸せを最大化するものを考えることが大切です。

さて、ここまで「メモの魔力」の内容の要約と私が感じたことについて書いてきましたが、最後にこの本を読んだことで私の中に起こった変化をお伝えしたいと思います。
冒頭でも書きましたが、私は日記をよく書く方で、人よりメモを取る量が多い方だと思っていたのですが、「メモの魔力」を読んでみて、自分はメモに対する努力が全く足りていなかったことを思い知らされました。そこで、心を入れ替えてこの世の中全てのことをメモするくらいの気持ちでメモに向き合ってみました。会社で義務付けられている動画学習のノート取りはもちろんのこと、毎朝行われる社長とのミーティングも社長が言ったことは全てメモする勢いでメモを取りました。すると何が起こったか。社長からくる質問に対して全て答えられるようになったのです。「あの仕事はどうなった?」「あれってどこまで進んでる?」など、仕事の進捗状況を伝えるのはもちろんのこと、社長の確認に先回りして仕事を終わらせられるようになったのです。そうすると自分はすごく仕事ができるようになったような感覚になれますし、仕事に対する達成感も大きいものになります。私の場合は社会人ですが、学生さんの場合でも前田社長のメモ術を活用して学校のノートをこれでもかという勢いでメモをすれば、勉強していることがよく分かるようになりますし、勉強がもっと楽しくなると思います。(私も学生時代にこんな本と出会いたかった。。。)

人間は理解できないものに対して不安を覚えますし、忌避感を感じます。ですがメモを取ることによって限りなくこの世界の真理に近づけますし、「分かるから好き、楽しい」というポジティブな感情を抱くことができるようになります。
まずは何事も理解から、そしてメモは人間の理解を助けてくれます。

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