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ひとりで占める

弟子:「マスター、悟ったら苦しみから解放されるんですよね?」
師匠:「誰が言ったの?」
弟子:「トオルくんとこの師匠です」
師匠:「あー、山田さんか」
弟子:「はい、山田師匠です」
師匠:「それで、“山田さん自身が悟った”って言ったの?」
弟子:「え?悟ったから言ってんでしょ?」
師匠:「山田さん、先日あった時、持病の腰痛が悪化したって苦しんでいたけど」
弟子:「えー!そうなんですか?!ってことは、山田師匠は悟ってないんですか?」
師匠「……」
弟子:「こらっ!無言すなっ!」
師匠「悟りと苦しみって関係なくない?」
弟子:「いやいや、関係なかったらダメでしょ」
師匠:「もはや、悟りってなんだろうねw」
弟子:「笑っちゃダメだから。悟れば苦しみから解放されるって、みんな必死なんですから」
師匠:「それは苦しいね」
弟子:「そうですよ!苦しみから解放されたいから悟りたいのに、全然悟れなくて苦しんですよ」
師匠:「ステップ多いね。複雑化してる」
弟子:「逆を言えば、悟れば幸せになれるってことです」
師匠:「え?そうなの?!」
弟子:「こらこら、アンタのところに来た弟子は、今大きく後悔の渦に飲み込まれそうよ。発言には気をつけて」
師匠:「条件いらないって話じゃなかった?」
弟子:「条件?」
師匠:「悟れば、瞑想すれば、マントラ唱えれば、何かを獲得すれば、何かになれば、何かを克服すれば」
弟子:「あー…あ?」
師匠:「条件を満たす(「〜する」行為者)が必要ないって話じゃなかった?」
弟子:「(全然意味わかんないけど)であれば、山田師匠が言ったことはどうなるんですか?」
師匠:「山田さんの不在」
弟子:「山田師匠の不在…そうなると、トオルくんに語った人は誰かという問題が残るのですが」
師匠:「いや、言ったのは山田さんでしょ」
弟子:「不在っていったじゃん!」
師匠:「苦しみも幸せも、個人的なものかな」
弟子:「え?山田師匠の腰痛は個人的なものに思えますけど」
師匠:「個人的かぁ」
弟子:「ん?そういえばボクも腰痛はないけど…片頭痛の時は苦しいなぁ」
師匠:「身体的な苦痛も、精神的な苦痛も、ひとりでかかえるべきことなんだろうか」
弟子:「かかえる?べき?は?」
師匠:「ひとり占めってどういうことなんだろうねぇ」
弟子:「アンタの話が“どういうことなんだろうね”だよ」

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