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私らしく生きるすべてのひとへ伝えたい『Bの戦場』からのメッセージ!

私たちはいつも私らしく生きることを求め、そして求められています。それがどんなに幸せで、過酷な現実だとしても。『Bの戦場』は私らしい生き方を貫くひとりのウェディングプランナーのお話です。

彼女はただのブスじゃない。
ブスだけど、プロのウェディングプランナー

集英社ノベル大賞を受賞したゆきた志旗さんのデビュー作(全6巻)
いずれの表紙もヒロインの顔が隠れている

子どものころ、あなたはどんな仕事に憧れていましたか?わたしはご飯の時間も忘れるほど漫画が大好きで、夢中になって読んでいました。そして、将来は漫画家になりたいと思っていました。そんな風に好きなことを仕事にしたいと考えた人は多いのではないでしょうか。

この物語の主人公、北條香澄もそのひとりです。小さいころに参列した結婚式で夢のような世界を体験し、いつかきっと自分も……。そう思っていました。

しかし、香澄は気づいてしまいます。どんなに努力をしても自分には越えられないハードルがあることを。それは彼女が絶世の美女ならぬ、絶世のブスであるということでした。

お話の中で香澄の外見に関する具体的な描写はありませんが、熟練の美容師さえどうにもならないとお手上げしてしまうほどなのだとか(よくわからないけど、妙な説得力があると感じるのはわたしだけではないはず!)。そうした容姿から香澄は自分自身の結婚式をあきらめます。……が、結婚式への憧れを失うことはありませんでした。

そうだ、仕事にすればいい。そう考えた彼女は結婚式を全力でサポートするウェディングプランナーの道を進みます。しかし、結婚式にはたくさんの人生が絡みあっていて、一筋縄ではいかないものばかり。

ときに悪徳プランナーとののしられ、赤の他人には関係ないと突きはなされ……。それでも、この先の人生で二度と会うことのない関係だからこそ背負ってあげられるものがある、自分にできることがあると信じて真剣に向き合います。

香澄は失敗もします、周りの人間に振りまわされて嫌な思いもたくさんします。それでも、仕事に対しては納得できるまでとことん向き合う。ブレない自分の軸をしっかりもっています。

彼女はただのブスじゃない。ブスだけどプロのウェディングプランナー。どんなお客様が相手でも自分の仕事で喜んでもらいたいと奮闘する、そんなひたむきで前向きな香澄に励まされ、同時に応援したくなります。

仕事や好きなことを頑張っている人はもちろん、人間関係に疲れて帰ってきて何も考えたくない時にも。香澄と一緒に泣いたり笑ったりして、まだまだ「やれる自分」がいることを思い出させてくれます。

ブスと美男子(イケメン)のラブストーリーが始まりそうで始まらない?!

『Bの戦場』を語るうえで切りはなせない存在が久世課長です。香澄の上司であり、恋のお相手。外見描写が少ない香澄に対して久世課長の外見に関する描写はこれでもかというほどに豊富で、かつ直接的です。とにかくとんでもない美貌の持ち主だと伝わってきます。くわえて高学歴、将来有望。

そんな彼ですが実は、ブスこそ最高の女性というB専。小手先の非モテにはだまされないと意識の高いB専を自負するあたり、これまた一筋縄ではいかないタイプ。ブスを最高のほめ言葉だと信じて疑わない久世課長の一途な告白にはとにかく遠慮がありません。

ことあるごとにブスを連呼する彼にサンドバックのように打ちのめされ傷つく香澄ですが、目には目を歯には歯を。開き直った彼女も容赦ない言葉で打ちかえします。そんなふたりのかけ合いのテンポの良さは思わず声を出して笑ってしまうほど。

でも、久世課長が香澄の外見をほめることにも彼なりの理由があります。誰がどう見ても完璧なイケメンである彼はこれまで多くの女性から告白を受けてきたわけですが、いずれも外見ではなく内面に惹かれたことをさんざん強調されてきたのだとか。

課長は、まるで言いわけのようにも聞こえる告白をどうして自分がされなければならないのか。自分はそこまで必死にフォローしなければならないほど中身がからっぽなのか。そう思い悩んでしまったそうです(つまりはこじらせちゃったのね、課長)。

そんなむなしさを経験したからこそ、久世課長は香澄にブスだと言い続けます。美しかろうがブスだろうが外見も個性のひとつで、その人そのもの。それを好きだと言って何が悪いのか。そして、外見も中身も切りはなすことができない、香澄そのものを好きになってしまった、と。

ここまで言われてしまえばさすがの香澄も心が揺らぎます。……が、ブスだという事実はこの際おいておくとして、好きな人にはかわいいと言ってほしいのが乙女心。久世課長も香澄がかわいく見えて困る瞬間があるくせに、その一言がなかなか言えません(どんだけこじらせちゃったの、課長)。

ブスとイケメンという正反対の道を歩きながら、お互いに恋には無縁だったふたり。そんなふたりが仕事を通じてお互いの考え方を少しずつ理解し、心の距離は近づいていきます。まるで漫才のようだったふたりのかけ合いも、もうすぐ付き合いそうな雰囲気にだんだんと変わっていきます(会話の内容は変わらないんですけど)。

どうにかして気持ちを伝えたい久世課長に今度こそと期待しながら、「どうしてそうなる!」といつのまにか香澄と一緒にツッコミがとまりません。頑張れ、久世課長!

何かに夢中になっている人は美しい。
私もそう見えていたら、きっと嬉しい。

『Bの戦場』はシリーズ6巻からなります。結婚式と一言でまとめてしまえばそれまでですが、結婚式をする理由やそこにいたるまでのエピソードは、あたりまえかもしれませんが同じものはひとつとありません。

共感したり憤りを感じたりするたびに自分の価値観に気づき、自分が何を大切にしているかを知ることができます。また、知らなかった自分の意外な一面とも出会えるでしょう。

表と裏、本音と建前。いらない部分だけを切り取って捨てることができたら簡単なのに、都合よく進まないのが世の中というもの。抱えていくしかないのかと、私たちの悩みはつきません。

香澄のように外見にコンプレックスを抱えている人はたくさんいるでしょう。久世課長のように見えないからこそ自分の内面について思い悩む人も。どうして自分だけ……。そんなふうに思うこともきっとあるはず。

スタート地点は選べません。でも、だからこそゴールは理想の場所で終わりたい。そう信じて私らしい生き方をわたしたちは探しています。悩んでいる時間さえもったいないと感じてしまうような何かを。

香澄は自他ともに認める絶世のブスです。だけど、そのビジュアルはそう簡単には思い浮かびません。それよりも自分の仕事にプライドをもっている彼女が働いているとき、どんな顔をしているのだろうと想像する方がずっと簡単で楽しい。

何故なら、私たちは知っているからです。何かに夢中になっている人が、どんな顔をしているか。周囲からどんなふうに写るのかを。

『Bの戦場』の「B」が香澄の生き方にどんな意味があるのか。そして、あなたにとってどんな意味があるのか。探してみるのもいいかもしれません。

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