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フォークナー著『熊』読書感想文


『野生のENERGY』


インディアン酋長の血をひく老人サムの元で、少年アイクが狩猟を通じて魂の成長を遂げる物語。作中では様々な興味深いエピソードが幾つも目についた。

アイクが初めて大熊"オールド・ベン"と遭遇する場面がある。その運命の遭遇に至るまでの経緯が面白い。

(引用始め)

彼はもう自分をハンターだと思わなかった。そんな傲った思いを捨てていた。なぜなら謙遜した平和な心にならねば出会えないと決心したからであり、その決心を後悔していなかった。(p.36)

(引用終わり)

もはや生きながらにして伝説と化した大熊に出会う為、アイクはその決心のみならず、時計と磁石をも"汚れ"と称しその身から取り去る。

(引用始め)

「人はそれを生き、それの一部になることによってのみ、それを知るようになるのである」

『ローリング・サンダー』ダグ・ボイド著 北山耕平 谷山大樹訳(p.145)

(引用終わり)

アメリカ・インディアンの指導者であるローリング・サンダー氏によるこの言葉の如く、アイクはこの儀式を通じて森の一部となり、本当の意味での森を知る事によって、オールド・ベアと遭遇するが出来たのかもしれない。

そして子犬ファイスと共にアイクが再び大熊と遭遇する場面。この時サムは銃を持っていたにも関わらず、それを使おうとしなかった。疑問に思ったアイクはサムを問いただすが、サムは聞いていない様子で、「誰かが、やるのさ - いつか、な。」(p.43)と意味深な言葉を残す。

(引用始め)

なににだって正しい時と場所というものがある。わしらはそう言う。われわれはそれを、つまり、なににであれ正しい時が存在するという真実を理解して、それと調和をとって生きる。
(前掲書 p.143)

(引用終わり)

インディアンの血をひくサムもまた、正しい時と場所を理解しており、今はその時ではないと判断したのだろう。そして、物語終盤で描かれる大熊との死闘こそが、正しい時であり、正しい場所だった。だからこそ、大熊を仕留め、登場人物達はそれぞれにこの出来事から様々な事を学び、成長できたのだ。

深い森と獣を通じて、呼び覚まされる人間の野生が描かれる様を見て、口の中の唾に真鍮の味を感じた。

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