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信州読書会に提出した読書感想文を掲載

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信州読書会によるYouTubeLive&ツイキャス読書会に提出した読書感想文を掲載しています。
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2021年2月の記事一覧

ユゴー著『レ・ミゼラブル 第一部 ファンチーヌ』読書感想文

ユゴー著『レ・ミゼラブル 第一部 ファンチーヌ』読書感想文

正義と悪、この最も手垢にまみれた二項対立を人間は超えることができるのだろうか。

正義と悪、一口に言っても様々なグラデーションがある。ささやかな正義が人を救うこともあれば、絶対的な正義が人をこれ以上なく損なうこともある。ささやかな悪が人をこれ以上なく損なうこともあれば、絶対的な悪が人を救うこともある。

子供を置き去りにし、髪を売り、歯を売り、そして体を売る哀れなファンチーヌ。彼女はどこで道を踏み

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中島敦著『名人伝』読書感想文

中島敦著『名人伝』読書感想文

主人公の紀昌は弓の名人を目指すべく、常軌を逸した修行に身を費やす。その結果、人知を超えた能力を手に入れ、師である飛衛に並ぶほどの弓の腕前を身につける。この時点において、確かに彼の弓の腕前は名人と呼ばれるに相応しいものかも知れない。だが、行き過ぎた修行の果てに、瞼の筋肉の使用法を忘れ常に目は大きく見開かれ、蚤を馬の様な大きさで見ることができる彼は、私の目には名人ではなく、まるで化け物の様に映った。

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サミュエル・ベケット著『ゴドーを待ちながら』読書感想文

サミュエル・ベケット著『ゴドーを待ちながら』読書感想文

時代も国籍も明かされないまま二人の浮浪者がゴドーと呼ばれる何者かを待ち続ける話。二人の他に数人の人物が登場するが、さして事件らしい事件も起こらず、結局ゴドーなる者は現れないまま物語は一貫して独特な浮遊感を醸しながら幕を閉じる。シュールで不思議な物語だ。

シュールで不思議な物語、私は何故そう思ったのか?

それは小説や物語に、私は無意識的に"いわゆる物語的な起承転結"や、共感を見出すことを求めてい

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深沢七郎著『東京のプリンスたち』読書感想文

深沢七郎著『東京のプリンスたち』読書感想文

1950年代後半の東京を、音楽を拠り所にして生きるプリンス達。"煙草の煙が靄のようにこもっているから音が逃げない"場所で、彼らは10代という、人生においてある種の貴重さを秘めた時代を、煙草の煙とロックンロールと共に無為に過ごす。彼らはロックンロールを聴きながら天文学の本を読み、親と学校の文句を言いながらエルビスの食生活と包皮事情について語る。若さに一貫性というものはない。あるのは、有り余る自意識で

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