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個性と障害の違いとは それってホントにダメなこと?

2018年度に学研発行・実践障害児教育にて10回に渡り連載させていただいたコラムを、編集長に許可をいただきこちらへ掲載いたします。

ADHDうっかり元教師 雨野千晴のいつもココロは雨のち晴れ <第2回 2018年5月号掲載>
個性と障害の違いとは それってホントにダメなこと?

うっかりママの息子は数字がお好きな自閉っ子。

私には子どもが2人いる。長男ハル6歳と、次男ヒロ4歳。ハルは自分が出会った人の誕生日を全て記憶している。幼稚園の先生のことを「3月20日の先生!」とか言ったりする。一方私は数字が大の苦手で、驚かれるかもしれないが自分の母親の誕生日を未だに正確に覚えることができない(2月の14か15か16のどれかだよなーという認識)ので、そんな自分からやたら数字が世界の中心であるこの息子が生まれてきたということが不思議でならない。

彼の初語は「ママ」でも「パパ」でもなく、電気の「で」だった。抱っこしているといつも電気のある方をじいっと見ているので、のけぞったような体勢になり、よく道行くおばちゃんたちに「赤ちゃん首が曲がっちゃうわよ!」とか「もっとしっかり抱いてあげて!」とか言われたものだ。抱っこひもの背あての部分からはみ出さんばかりにのけぞってイナバウアー状態だったハル。今思えばおばちゃんたちが心配するのも無理はないという感じだ。このうっかりママにイナバウアー赤子の組み合わせ。あの頃は、ハルをごろりと抱っこひもから落としはしないかと自分でもひやひやの毎日であった。


障害と個性の違いってなんだろう?

▲幼稚園時代の運動会 徒競走にて


彼には首の座りが遅い、言葉が遅い、その他にも気になるところがいくつかあって、2歳前には「この人発達障害あるかもなぁ。」と私は薄々感じていた。

「個性と障害の違いってなんだろう。ハルのこの、電気やドアを閉めることへの執着、同じ道を好むといった特性は、障害なのだろうか?それとも個性の範疇なのだろうか??」

そんなことを感じながら大学病院へ相談に行ったところ、「広汎性発達障害・自閉症スペクトラム」と診断されたのだった。(※当時の診断名。今は「自閉スペクトラム症」となっている。)ハルが2歳になったばかりの頃の話だ。


私は正直、ちょっとびっくりした。「まだ小さいからわかりません」とか、「様子を見ましょう」とか言われるんじゃないかなぁと内心思っていたのである。もしかしたら私は、「個性の範疇」の太鼓判が欲しくて大学病院に行ったのかもしれないなぁと今振り返って感じている。


さて、学校には様々なお子さんがいる。中には発達障害の診断のある子もいれば、診断はないけれど、そういった傾向のある子もいるだろう。そのような子どもたちに対するとき、大切なのは障害と個性の境目を探すことではないと私は思っている。個性と障害ってどこかでピシッと線が引けたり、これは個性、これは障害、と分類できたりするものではないんじゃないだろうか。そこに明確な境目はないし、視点が変われば同じ特徴だって、個性にもなれば障害にもなる。そして、環境が整って困り感がなくなれば、障害は障害でなくなるとも思っている。


それってホントにダメなこと?

ある年、私は教科担任として理科を受け持っていた。その中に、なかなか全体の授業に意識が向かず、自分のやりたいことにパッと手を出してしまうことが多いお子さんがいた。

ある日の授業、みんなが問題を解いているときに、その子は一人はさみを取り出し、何やら黙々と工作を始めた。「それはあとでやってね。」と何度か声をかけてみたが、気が付けばまた熱心に何かを作っている。それで、何を作っているのか尋ねてみた。すると、その日みんなで読んだ教科書の「やってみよう」というコーナーの「電磁石でメトロノームを作ろう!」に挑戦しているというのだった。

私は感激してしまった。だって、この「やってみよう」を読んで、自発的にやってみるお子さんがどれだけいるだろう?もしかしたら今日実際に行動に移したのは、このクラスで彼1人だけかもしれなかった。そんなことを考えながら、今はみんなで問題に取り組む時間であることを彼に伝えつつ、彼の探求心をクラスみんなで称えたのだった。


短所は長所にもなりうる。

一般的に「ダメ」と言われていることは、本当の本当にダメなことなのだろうか?「ダメ」と言っている側の都合で勝手にジャッジしてはいないだろうか。先生が「始めてください」という前についつい手を出してしまうお子さんは、それだけ対象に興味関心が強いということ。一歩踏み出して、やってみたい行動を起こすことが得意なのだとも言える。それって視点を変えれば素敵なことなんじゃないかな、と思う。
 
【短所は長所にもなりうる。きっとやりようはある。】ハルの診断時に医師が紹介してくださった、吉田友子先生の著書「その子らしさを生かす子育て」にある私が大好きな一節。障害の有無に関わらず、どんな特性も視点を変えれば長所にもなり得る。あなたにも、私にも、ハルにも、あの子にも、本当の意味で「ダメ」は一個もないと私は思っている。


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▼理科の教科担任をやっていたときの記事



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