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いつもそばにコーヒーがあった。・5

焙煎と暗室

所謂「カフェを開業する人向けの学校」と云うところに通い、自分が将来持つ(であろう)店のイメージの解像度を約一年掛けて上げていく日々が始まって半年も過ぎた頃。
さて、自分の店のコーヒー豆をどうしようかと、ある時ふと考えた。

そう、店を作ろうと思った初期の頃は、まだ「自家焙煎の珈琲屋」をやろうとは考えてもいなかった。
(実は全然違うメニューの店を考えていた。それはまた。)

ある日、友人・甲斐さんの店、BLACKWELL COFFEEへ行って何となくコーヒー豆のことについて話していたら、突然甲斐さんが「GOさん、自分で焼けばいいんじゃない?」「え?いやいやそんな簡単に」「いや、焼けるよ、GOさんなら。GOさん淹れるコーヒー旨かったし、そもそもずっと前から何かと詳しかったでしょ。」「いやぁ...でも焼くってどれで?」「あぁ、これこれ」そう言って扉をガラガラっと開けて見せてくれたのが、手廻し式の焙煎機。

以前通っていた大坊珈琲店で、いつもカウンター越しに眺めていた大坊さんの焙煎機のことを思い出した。

「あ、そうだ、GOさん写真教えてよ。俺、焙煎教えるから。」「バーターで?」「そそ、バーターで(笑)」

僕が彼の店で気軽にやりやすい様、気を遣ってくれたことに心から感謝しつつ、甘えさせてもらうことにして、早速翌朝6:30、改めて店を訪ねた。

一通り作業の流れを見せてもらい、直ぐ僕の番。
欠陥豆をハンドソーティングした生豆(なままめ)を釜に投入し、火を点けけたら直ぐ火力を調整しながら手廻しのハンドルに手を添えて廻し始める。
シャンシャンシャンシャンと釜の中からリズム良く聞こえる「聲」に静かに耳を傾けながら、指先のハンドルの微妙な重さの変化、熱とともに漂い始める匂いに集中。暫くして一爆ぜが始まり、更に集中。

「GOさん、そこそこ、そのタイミング。ザルにあけてみて。」

焼き上がったそれを一気にザルにあけ、団扇で思いっきり扇いで冷ます。
焼き上がったばかりの豆から立ち昇る煙がだんだんとおさまっていくと同時に、豆の表面、その色味が、ギュッと落ち着いていく。

思いを熱量に変えて焼き付け、作品を仕上げていく。初めての筈のその工程は、僕にとっては長年慣れ親しんだ写真の暗室作業、正にそのものだった。

そしてこれは余談だけれど、その初めて焙煎したコーヒーが単純に旨かった。
初めての焙煎と云う感慨もあったとは思うけれど、それまで苦手だった(だと思い込んでいた)酸味系のコーヒーが、こんなにもすっきり旨い味に仕上がっていることに、正直驚いた。
そしてそれは自分がこれから作る「店」は珈琲屋にしようと決めるのに、充分満足出来る一杯だった。

スペシャルオリジナルブレンド

自分の店(珈琲屋)を思い描いた時、シングルオリジンとは別に、自分らしいブレンドも必要だと思った。

では僕の店には一体どんなブレンドが合うだろうか。
そこで先ずは自分にとって心地好い珈琲時間に、一杯と伴に在ったものたちについて思い出してみた。

音楽であったり、小説であったり、写真集であったり、もちろん何も無い、ただコーヒーだけをのんびり飲む時も多かったけれど、だいたいは何かしら「誰か」の「作品(表現物)」が伴に在ることが多いことに気付いた。
そして、その時、その場所で飲んでいた「一杯の記憶」とそれら「作品の記憶」が自分の奥底で様々な感覚を伴ってリンクしていた。

一杯一杯のコーヒーが持つキャラクター≒人物像の様なもの。そんなイメージが降りてきた。

そこで実在の人物から感じたイメージをソースとして、自身のスペシャルオリジナルブレンドとして焼き付けていこうと考えた。

そうして先ず2種のブレンド”Waltz(ワルツ)”と”Nocturne(ノクターン)”(現在の”Evans(エヴァンス)”と”Tabucchi(タブッキ)”)を作る。
同時進行で屋号を現在の「go café and coffee roastery」と決め、InstagramとTwitterにアカウントを作り、そのうち自身のウェブページも作ろうと一応ドメインを取ったり。
そんなタイミングで中央線沿線で開催された、とあるコーヒーフェスティバルに参加させて頂けることとなる。

そこで飲んでくださった方々の反応に少なからずの手応えを感じた後、別の友人の紹介で知ったシェアキッチンで活動をしながら、実店舗探しを本格的に始めることになる。

その時は、半年もせずに見つかるであろうと思っていた。

しかしそのタイミングで、世界はコロナ禍に突入。
物件探しが想像以上に難航することとなる。

(続く

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