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プロトタイプ、検証、失敗......の繰り返し、ピボットの末にたどり着いた事業の形:LocalQuest・高橋新汰

秋田在住の起業家、高橋新汰(たかはし・あらた)さんは、企業向けのインターンシップコーディネート事業などを運営する「LocalQuest(ローカルクエスト)」の代表です。

前回の記事では、「アイアンマンを作りたい」との思いから入学した大学で、周囲との熱量の差を感じたこと、その違和感が就活時期にさらに大きくなったことが事業立ち上げの原点だったことを振り返ってもらいました。今回は、本格的な事業立ち上げの一歩目を踏み出したあとの奮闘ぶりに迫ります。

LocalQuestを企業の「社内事業」として育てる

高橋新汰:さて前回の記事の最後では、個人的にメンタリングをお願いしていたGOB Incubation Partners代表の山口高弘さんの誘いを受けて、同社の客員起業家制度(Entrepreneur in Residence、EIR)を利用することを話しました。これが2020年1月の話です。

「客員起業家制度」とは、起業志望者を会社の中に迎え入れ、報酬を支払いながら事業実証を進めてもらう仕組み。起業家は最低限の安定した生活を確保した上で、純粋に価値を探求できる。

EIRとして参画してからは、代表である山口さんと副代表である高岡泰仁さんから毎週交互にメンタリングを受けることになりました。

ただし、コーチのように1から10までノウハウを教わるわけではなくて、まずは僕から現状を共有して、それに対して適宜フィードバックをもらうスタイルでした。特に何か指示されたり、僕がやろうとすることに反対されたりすることはありません。落ち込んでいるからといって励まされるわけでもなく、淡々とフィードバックをもらうだけです。

事業を立ち上げていると、それなりに苦しい時もたくさんあります。というか、苦しい時ばかりです。でもメンタリングで「今〇〇に悩んでて、本当にしんどいです」といっても、「そうか、あるある」「僕もあったから大丈夫だよ」なんて返事が返ってくるだけです。

そのたびに、起業の厳しさを感じると同時に、自分がどれだけ甘えてきたのかを思い知らされます。

僕がEIRに参画した頃から、EIRの在籍期間が2年と定まりました。事業の検証に必要な期間は決まっているので、その期間で区切ることで、覚悟とスピード感を持って事業の立ち上げを進めてほしいというメッセージです。

でも、期限が決まってからも、特に「こうしなさい」といった誘導はありませんでした。あくまでも僕自身が「これじゃダメそうだ」と体感してわかるまで、基本的に見守ってくれます。

今振り返ると、この「教えない」という姿勢が起業家を育てる上で大事な要素なのだと思います。あくまで僕が行動したことに対する「フィードバック」なんです。

教えられたり、やるべきことを指示されたりしてしまうと、起業家は自分の頭で考えなくなるし、何より失敗できません。それでは自分の糧にもなりません。自分で動いて初めて体感できること、それを1つずつ地道に積み上げていくことで、起業家に必要な目や感覚を養えるのだと思います。常に僕に対して答えを求めてくるので、結果的に「僕の事業」になっていきます。「起業家の世界観に投資する」ことを重視しているGOBらしいスタンスだなと感じます。

指示をしない代わりに、僕の手が止まらないように、動き続けるように背中を押してもらっていると感じます。先が見えない時や初めての経験でわからない時はどうしても手が止まりがちです。でも動くことでしか本当の「事実」はつかめないし、自分の行くべき道は見えてきません。

手が止まっていた時に、「動け」と言われて動いてみたら、「なるほどこういうことか!」とわかることが、今でもたくさんあります。

受注件数は順調に増えたものの......

さて、前回の記事で紹介した通り、僕は「LocalQuest」というボランティアの事業を立ち上げ、運営を進めていました。前述のようなメンタリングを受けながら、「やっと自分の理想を形にできた」と充実の思いで事業を推進していたのです。

しかしEIRに参画して半年ほどが経った2020年夏ごろ、壁にぶつかります。順調に案件が増えていったものの、サービス提供するためのコストが想定以上にかさんでしまうことがわかりました。

当時一番頭を悩ませていたのが営業コストです。農家の方から依頼を受けることが多かったのですが、お年を召しているとオンラインでのやりとりが難しいため、打ち合わせのためには農家さんに直接足を運ぶ必要があり、交通費や時間がかかってしまいます。

加えて、サービスの性質上、継続ではなく単発の案件が多いため、案件を増やしていくには、毎回農家さんたちと一から関係を構築する必要があります。そこにもリソースを大きく割かねばなりませんでした。

結果的に、1回のボランティアのサービス価格とコストが見合わず、利益を生み出しにくいビジネスモデルになっていたのです。

外から見ていれば、「それくらい最初から計算しておけよ」と思われるかもしれませんが、これはやはり、ある程度サービスのサイクルを回さないとわからなかった貴重な学びだと思います。

メンターの山口さんや高岡さんはそこで行き詰まることには気づいていたと思います。でもそれを止めずに、学びの機会をもらえたことに感謝していますし、この当時の経験が現在に至るまでサービスやビジネスモデルを考える際の重要な知見になっています。

もちろん、今だからこそきれいに「学び」といえますけど、こういう状況に直面するたびに「また来たよ。どうしたら良いんだ」とやるせなさを抱えています。これは今でも変わりません。

「ファクトを集めろ」

結果的に、ボランティアの事業は方向転換を余儀なくされました。しかし、ヒアリングを通じて顧客の課題や価値について“ファクト”を集める練習ができたことで、起業家としてかなり鍛えられたと思います。

メンタリングを受ける中で、よく「ファクトを集めろ」と言われます。つまりは「思い込み」ではなく現場の観察やヒアリングを通じて確かに確認できた事実に基づいて事業を組み立てることが重要だということです。しかしこれが本当に難しい。わかっているつもりなのに、どうしても自分の解釈や思い込みが混ざってしまうのです。お客さんに話を聞いていても、相手の発言を自分の思うように解釈してしまったり、相手の答えを誘導してしまったり......。その度に何度もツッコまれながら、少しずつファクトに基づいた意思決定ができるようになった気がします。

外から見ていると、思い込みを排除して事実に基づいて意思決定するということの難しさが理解しにくいかもしれません。でも当事者として渦中にいると、本当にわからないんですよ。知らず知らずのうちに思い込みが入ってきてしまうんです。鏡なしで髪をセットするのって難しいですよね。そういう感覚です。メンターの山口さんたちが鏡になってくれて初めて、自分の間違いに気づきます。

ボランティアからインターンへ

ボランティアの事業が暗礁に乗り上げた後も、徹底的にヒアリングを繰り返しました。お客さんたちの声の中にしか答えはないし、行動することでしか次のステップへは進めないからです。そうこうしているうちに「これはイケるのでは......」と思える事業が浮かんできました。それがインターンシップ事業です。結果的にこれが現在の主力事業になっています。

事業を転換する上でまず考えていたのは、LocalQuestの根幹にある学生への価値提供でした。もともとボランティアの事業だけでは、学生の行動変容につながる体験を提供しきれていないもどかしさがあり、よりリアルな実践の場を提供する必要性を感じていました。インターンシップであれば、よりその理想に近づけることができます。

一方で、起点は学生であっても、それがビジネスモデルとして成立するためには、企業にとっての価値も考えなくてはいけません。秋田県内の企業にヒアリングをしていると「学生にSNSの発信やイベントの企画を手伝ってほしい」といった声が多く聞かれました。

これらの業務はいずれも、企業にとって「重要度は高いものの緊急度が低いため、なかなか手が回らないもの」でした。企業にとっても価値を感じてもらえる手応えをつかむことができたのです。

学生の力で「過去最高の売上を記録」するなど大きな手応え

その後は早速つながりのあった企業に対してインターンシップの企画を持ち込み、プロトタイプのトライアルを開始。2021年1月から、株式会社せん、児玉冷菓、有限会社金圓、むつみ造園土木株式会社の秋田県内の4社で、インターンを開催しました。

この時は、就業経験のない学生による取り組みの成果が保証できないため、企業とは成功報酬の契約でした。

期間は約3ヶ月。学生が3人1チームとなり、企業の課題に取り組みます。

通常の企業におけるインターンと異なるのは、LocalQuestが企業と学生の間に立つ点です。学生チームに対しては週1回メンタリングの時間を設け、学生の意見や感性が最大限発揮できるように、言語化のお手伝いや、壁にぶつかった時のフォローなどを行っていきました。

その中で学生の声や課題解決に向けた過程での気づき、インサイトをLocalQuestが吸い上げて企業に対してフィードバックします。これにより企業は、社内での取り組みだけでは知り得なかった学生の多様な視点を得られるとともに、これまで手が回っていなかった課題に対する推進力がアップします。
例えば秋田県名物である「元祖ババヘラアイス」を製造する「児玉冷菓」さんでは、「社内でオンライン販売をスタートしたものの、マーケティングに手が回っていない」ことが課題でした。そこで学生とともに「ファンを増やす」というミッションのもと、Instagramを開設し、さまざまなアイデアで投稿や企画を行いました。

その結果、SNSでのリアクションが増えたことはもちろん、これまでまったく手をつけられていなかったオンラインで販売で368セットを売り上げました。実施した児玉冷菓さんからも「過去最高の売り上げて、ここまで成果が出るとは思っても見なかった」「SNSなどは自分たちでやるよりも、学生さんに任せた方が圧倒的にクオリティの高いものができると痛感した」との声をもらいました。

僕が大学生の頃、周りにいる友人たちは、「社会人になりたくない」と社会に対してマイナスイメージを持っていました。そこに僕は違和感を感じていたのですが、その原因は学校と社会の間にある大きなギャップ(=ルールの違い)だと思っています。学校では座学を受けて、受け身の姿勢が当たり前となっているのに対して、社会では自ら能動的に価値を発揮して対価をもらうということが前提です。そのため、学校教育で培われた受け身の姿勢が社会に出た途端に通用しなくなってしまいます。

ですからLocalQuestのインターンシップ事業では、学生を学生としては扱いません。メンタリングを通じて、その人の現在地をフィードバックしたり、学校と企業における常識の違いがあることを伝えたり「学校と社会にスロープをかける」ことこそが僕のやりたかったことなのです。(続きは近日公開予定です)

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