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「因果関係っぽい主張」に振り回されなくなるために(仮説を確かめるロジックチェック)CLR連載⑨

「○○だから、××しないと大変なことになる!」こんな、因果関係っぽい主張で誰かに強く迫られて、乗り気でないのに受け入れてしまって、モヤモヤしたことはありませんか? 今回は、そんなときに役立つロジックチェックのコツを、図解しながらお話します。


はじめに

こんにちは。ゴール・システム・コンサルティングの但田(たじた)です。言葉で意思疎通するための「7つのCLR(※)」の、考え方と使い方についての連載9回目です。長い連載ですが、いよいよ残りわずかになりました。このシリーズは、TOC(制約理論)の知識の有無に関係なく、お仕事や日頃のコミュニケーションに役立つ内容なので、多くの方にお読みいただけたら嬉しいです。

今回もレベル3のCLR表現をより良くするためのCLRです。今回は7つめの「予測される原因のCLR」を詳しく見ていきます。これで、7種類のCLRすべてを押さえたということになります!(CLRのレベルについて詳しく知りたい方は連載4回目をご覧ください)

CLR(シーエルアール)とは…「Categories of Legitimate Reservations」という英語の略称で「言っていることが妥当で、筋が通っているかどうか」を検証するための7種類のチェックポイントのことです。
詳しくは連載1回目をご覧ください。

▼これまでの連載は、但田のマガジンからまとめてご覧いただけます。

CLR⑦予測される結果についての懸念
( predicted effect reservation )

目に見えない因果関係を検証する

7つめのCLRは「予測される結果( predicted effect )についての懸念」です(※ここからは「予測される結果のCLR」と記します)。

「予測される結果のCLR」は、「因果関係で何かを説明されたけれども、その原因を目で見て確かめることはできない」という状況で使います。
もしも、その原因が本当だとしたら、当然起こるはずの「他の結果」が存在するかどうか?という観点から、因果関係をチェックするのです。

はい、ちょっと何を言っているかわからないですよね…。(私は最初、このCLRがややこしすぎて、さっぱりわかりませんでした。でも、わかるとすごく便利ですので、ぜひ読み進めてください!)

ということで、まずは、私たちが日常生活のなかで自然にやっている「予測されるCLR」の例を図解します。

私たちが日常でやっている「予測される結果のCLRの例①-1」(筆者作成)

私たちが住んでいる日本では、地震が頻繁に起きています。ですので「あれ?いま揺れてる?地震かな?」と思うことは珍しくありません。
けれども、揺れ具合が微妙な時は、本当に地震が起きているのかよくわかりません。

そんな時、私たちはどうしているでしょうか?
おそらく「コップの水が揺れていること」や「電球のヒモが揺れていること」を確かめて、「あ、やっぱり本当に揺れているな」と確認していることでしょう。さらに、ネットやテレビを見て「地震速報が出ているから、やっぱり地震だったんだな」と確認する方も多いでしょう。

私たちが日常でやっている「予測される結果のCLRの例①-2」(筆者作成)

このようなふるまいが「予測される結果のCLR」で説明していることです。「地震が起きているかどうか」は目で見て確かめられません。けれども、本当に地震が起きて地面が揺れているならば、体感だけでなく、コップの水や他のものも揺れますし、地震速報でも報じられるので、目に見えない原因でも、「本当にそうだな」と思えるのです。

「予測される結果のCLR」の質問の例:どんな結果があれば、その仮説が正しいと考えられますか?

「予測される結果のCLR」について、相手に質問をする時の基本形は「どのような結果があれば、その仮説は正しい( or 誤っている)と考えられますか?」です。

ただ、正直なところ、「予測される結果のCLR」を、上記の質問で相手にぶつける場面は、私には思いつきません。そんな質問を突然されたら、相手はビックリしちゃいますからね・・・。

「予測される結果のCLR」は、相手に型通りに質問するというよりは、自分の中で「この原因が本当なら、他にどんな結果が起きるかな?」という風に考えて、仮説を磨くためのCLRであろうと思います。

「予測される結果のCLR」は何のために使うのか?

皆さんは、他の人から「よくわからない因果関係」で何かを強く推奨されて、不安な気持ちになったことはありませんか?

たとえば、しばらく体調不良が続いた時などです。体調不良が長く続くと、どうしても気持ちも弱りがちです。さらに、周りの方々は良かれと思って様々なアドバイスをくれるでしょうし、自分でネットを使って情報収集をする人も多いでしょう。

そうすると、なんとなく説得力のありそうな因果関係を山ほど目にすることになります。「今のあなたは○○だ、今すぐ××をやらないと、大変なことになる!」そんな強い警告を見ると、ますます不安になってしまうかもしれません。

因果関係っぽいことの例(筆者作成)

そういう時に、「予測される結果のCLR」の観点を押さえておくと、もう少し冷静に考えられるはずです。「その因果関係が本当だったら、こういう結果も起きるはずだよな?」と、立ち止まって考えられるからです。

よくわからない因果関係に振り回されないために、「予測される結果のCLR」はとても有用です。

「予測される結果のCLR」でチェックする項目:検証のためには「知見」も大切!

✔ 仮説の正しさを考える上で、「知見」が必要なことが多い

以下の事例を見てみましょう。あなたは車のエンジンをかけようとしましたが、かかりません。そこで「バッテリーの充電量が減っているのかな?」と考えたとします。

予測される結果のCLRの例 ②-1
(TOCICO dictionary 2nd edition 93ページの記述を参照し、筆者作成)

そこで、「バッテリーが減っているなら、車のライトが付かないはずだ」とあなたは考えます。そこで実際にライトが付かないのであれば、バッテリーのせいである可能性が高まります。

予測される結果のCLRの例 ②-2
(TOCICO dictionary 2nd edition 93ページの記述を参照し、筆者作成)

しかし、ここで、全員が「バッテリーの充電が減っているせいだな」とか、「車のライトを確認しよう」という発想ができるでしょうか?少なくとも、車に詳しくない筆者では、そもそもそういう発想が出てきません。

これはつまり、論理力だけで「予測される結果のCLR」を使いこなせるわけではないということです。仮説を検証するためには、知見が必要なケースが多く出てきます。もしも、扱う領域の知見が足りないのであれば、その領域に詳しい人に聞きに行くなど、検証する上で必要な「知見」を集めてくることが、このCLRを実践する上で大切です。

✔ 「予測される結果のCLR」の質問の観点は、大きく2つある

1.どのような結果があれば、仮説は《正しい》と考えられるか?
今まで見てきた「予測される結果のCLR」はこのパターンでした。
仮説の正しさを検証する結果が、本当に存在するなら、その仮説は正しいと考えられます。一方、その結果が存在しないなら、仮説が正しくない可能性が高まります。

2.どのような結果があれば、仮説は《誤っている》と考えられるか?
「予測される結果のCLR」には、仮説の誤りを検証する結果が存在するかどうかをチェックするパターンもあります。

以下の例で見てみましょう。先ほども出てきた地震ネタの、別の展開例です。地面が揺れていると感じても、地震速報でまったく取り扱われず、かつ、近所で工事の地響きをがしているならば、「地震が起きている」という仮説は誤りであると考えられます。

私たちが日常でやっている「予測される結果のCLRの例②」(筆者作成)

「仮説の正しさ」を検証するための結果をたくさん集めてくるよりも、「仮説の誤り」を検証する結果を集めてくる方が手っ取り早い、ということは多くありますので、実務上、両方を押さえておくと便利です。

「予測される結果のCLR」の、ビジネスでの活用:因果関係っぽさに冷静に対処する

「予測される結果のCLR」はビジネス上も非常に大切なCLRです。なぜかというと、ビジネスシーンのなかで「因果関係っぽい説明」は毎日のように使われているからです。

たとえば、以下の例でみてみましょう。「ウチの売上が落ちているのは、景気が悪いからだ」こんな風に言われると、なんとなく正しそうな気がしてきます。このように「なんとなく正しそうな因果関係」を判断する観点を持っていないと、あらゆる人の主張が正しそうに聞こえて、声が大きい人に流されてしまうのではないでしょうか。

「予測される結果のCLR」の観点を知っていると、「因果関係っぽい説明」を受けた時に、「あれ?ちょっと待って・・・」と立ち止まって、仮説の正しさを確認するための追加の質問をすることができるようになります。

下図の例では、もしも「競合他社の売上が落ちていない」のであれば、自社の売上低下の原因を、景気のせいにして片付けてしまうのは良くないということに気付くことができます。

予測される結果のCLRの実務適用の例(筆者作成)

「予測される結果のCLR」の私なりの使い方:因果関係っぽさに泣かされないために

こんなコラムを書いているのにお恥ずかしい話ですが、私はもともとは、論理よりも感情に流されやすいタイプです。さらに、外見も強そうには見えないので、これまで何回も「何かに誘われて苦労する」ということがありました。

身体に良さそうな商品や、何かの集いへのお誘いを受けることもあれば、自分の考え方や在り様に対してアドバイスをいただくなど、毎日暮らしているだけでも、お誘いの機会は数かぎりなく出てきます。

相手の方は、それが良いことだと信じているので、そこで発される因果関係っぽい主張も、強い語調になることも少なくありません。
「言う通りにしないと、大変なことになる」などと強い口調で言われると、その主張に乗り気でなくても、不安で心細く感じてしまうこともよくあります。

そんな時に、「予測される結果のCLR」を思い出して、「ちょっと待って」と自分を制止して、「本当に必ずそうなるの?」「それに当てはまらない結果がありそうじゃない?」などと、冷静に考えられることで、感情面でも落ち着きやすくなります。

心配性な自分を落ち着かせるためにも、CLRは役に立っていると思います。

ここまでご覧いただきありがとうございました!
7つのCLRをようやく網羅できました。次回はこれまでの連載の要点を振り返り、最終回にする予定です。引き続きよろしくお願いいたします。

▼CLR総まとめ記事も作成しました!

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