見出し画像

TOCの知識体系 - 人は、そもそも善良である

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティング&リ・デザイン研究所です。2021年7月より私たちの会社にジョインする、渡辺薫さんの連載第9回です。渡辺さんの連載は、毎週火曜日更新です。

これまでの連載は、以下のマガジンからご覧いただけます。

「人は、そもそも善良である」
これは、先に述べたように、「課題解決のための基本姿勢」であると私は考えています。

「人は、そもそも善良である」、そう考えないと…「人を責めてしまう」、そうしたら…「原因の究明が難しくなるので問題解決につながらない」。だから、私たちは問題解決にあたっては「人を責めてはいけない」という意味です。

とても分かりやすく、当然のことに思えます。でも実行するためには「言葉の使い方」に十分に注意する必要があります。なぜならば、「人のせいにするな」と「なぜ、この問題が起こったんだ?」は、両方とも責任を追及する言葉だからです。

部下 「すみません、製品の完成が遅れそうです」
上司 「なぜ、そうなったんだ」
部下 「設計図面の到着が遅れたので…」
上司 「人のせいにするな。なぜ、そうなったんだ」
部下 「さらに、業者による部品の納入も遅延していて…」
上司 「人のせいにするな」

「人のせいにするな」と言い続けると、相手は必ず「私の責任です」というところまで追い込まれます。そして、「私の責任です」と言ってしまったら、その先は「反省する」「謝罪する」「責任を取る」しかありません。問題解決にも、再発防止にも全く役に立ちません。

また、責任を取らされる可能性がある場合、追及された相手は真実を語るのではなく、「責任が追及されないよう」「とるべき責任がなるべく小さくなるよう」事実を歪曲して説明することも私たちは数多く見聞し、また経験しています。これも、問題解決や再発防止に全く役に立ちません。

「なぜ、〇〇〇〇?」は原因を聞いている質問に見えますが、「〇〇〇〇」のところが否定的な表現の場合、聞き手は責任を追及されているように感じます。

質問 「なぜ、納期が守れなかったんだ?」
質問 「なぜ、規定通りに検査しなかったんだ?」
質問 「なぜ、遅刻したんだ?」
質問 「なぜ、結婚しないの?」

ね、なんか責められているように聞こえるでしょ。

「人のせいにするな」と言ってはいけない…そして「なぜ、起こったんだ」と聞いてもいけない…じゃあ、どうしたら良いでしょう。改めて冒頭の表現を見てください。「人を責めてはいけない」と言っていますが、「人のせいにしてはいけない」とは言っていません。

課題解決(再発防止)のために必要なことは、

✔  正確な事実関係を明らかにすること
✔ 事実関係をもとに、「原因(行動)」と「問題(結果)」との間の因果関係を整理すること

です。

正確な事実関係を明らかにするためには「心理的安全性」を確保することが重要です。また因果関係の整理は最終的にはブランチ(もしくはCRT)のような、因果関係のつながりの形で整理されます。

※注記:「ブランチ」「CRT(Current Reality tree)」はTOC思考プロセスで用いられる、因果関係をつないで作成するツリーの名称です。

ということで、私は「人のせいにする」のではなく「人の行動のせいにする」という方法を採用しています。

1.問題が顕在化した時点の担当者(A氏)への質問

この問題が起こったことを、人の行動のせいにしてください。「誰々が悪い」で終わらせるのではなく、「B氏がこうした(orこうしてくれなかった)から、この問題が発生した」と表現してください。自分の行動を反省する必要はありません。

2.上記の質問で言及されたB氏への質問

この問題が起こった原因を、A氏は「B氏がこうした(orこうしてくれなかった)から」と言っています。あなたも「こうした(orこうしなかった)」ことを、人の行動のせいにしてください。「誰々が悪い」で終わらせるのではなく、「私がこうした(orこうしなかった)のは、「C氏がこうした(orこうしてくれなかった)からだ」と表現してください。自分の行動を反省する必要はありません。

3.繰り返し

B氏が言及したC氏、C氏が言及するD氏……同じ質問を繰り返していきます。そうすると自然に因果関係のつながりが見えてくると思います。解決や再発防止につながりそうな因果関係が見えてきたところで終了です。こうやってつなげていくと、A氏に戻ってくることも少なくありません。A氏に戻ってくる循環構造が見えたら、そこで終了にして良いと思います。「悪循環を脱却するインジェクションを考える」というのもTOCの課題解決手法の表現の一つです。

私は、この方法で「複数の部署をまたがる問題の構造(因果関係)を全員で共有すること」に何度も成功しています。どんな環境でも成功すると言うつもりはありませんが、皆様の役に立てば良いな~と思って紹介させていただきました。

渡辺 薫 (わたなべ かおる)
ゴール・システム・コンサルティング株式会社 
チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー(CCSO)※2021年7月より就任予定

プロフィール
ハイテク企業でR&D、経営企画、マーケティング等を経験したのち、90年代のデジタルマーケティングの黎明期にはエバンジェリスト&コンサルタントとして活動。その後、外資系ITサービス企業等でITサービスのマーケティング、コンサルティング等に従事し、2010年日立製作所に入社。超上流工程のコンサルティング手法の開発と指導にあたるとともに、日立グループ内でのTOC活用に尽力。2018年からは日立製作所社会イノベーション事業推進本部エグゼクティブSIBストラテジストとして、日立グループのデジタルトランスフォーメーションの戦略策定・実行のサポートと人財育成に注力し2021年3月に退任。
TOCICO認定Jonah(思考プロセス)
TOCICIOからThe TOC Company of the Year を受賞(2018年)
TOCICO理事(2018年~)
日本TOC推進協議会顧問(2018年から2021まで理事長を務める)
(TOCICO=Theory of Constraints International Certificate Organization)

▼当記事へのご意見ご感想や、サービス内容についてのお問い合わせなど、以下の問合せフォームより、お気軽にご連絡ください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?