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博士がゆく 第11話「初めての研究発表会⑤」

前回のつづき)

珍しく残したカップラーメンのスープを流しに捨てて、テーブルを片付けてラップトップを開いた。

「メッセージを明らかにする。か…」

まずはスライド全体を眺めて全体から伝えたいメッセージを博士(ひろし)は考えてみた。PowerPointの全体表示機能を使うと簡単だ。

しかし見れば見るほど失敗した実験ばかりで気持ちが落ち込む。毎日朝から晩まで実験していたのは失敗を積み重ねるためだったのだろうか。そんなことを考えていると、ふと以前細胞に言われたことを思い出した。

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「最初から結果を出せるのは、よっぽどの天才か、結果が出ると分かってやっている実験をしている人だけだよ」

「まずは失敗を重ねるしかないんだ」

「1万回失敗しても、1万1回目に成功すれば君の勝ちだ」
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たしかに成功した実験が1つだけあった。

思い返してみればこの実験を成功させるために29回実験の条件を変えて失敗したんだな。単純に実験操作を失敗した日もあったし、論文の言う通りやったのに失敗したこともあった。あの失敗1つ1つが学びだったわけか。

そこでふと思いついた。

「メッセージは、この実験の正しいやり方だな」

最初に実験を確立したい目的を紹介して、どんな条件で失敗してきたかを紹介しよう。最後に成功した実験とその時の条件を発表すればよさそうだな。

反応時間
反応温度
反応時の試薬の濃度
試薬の量
遠心分離の速度・時間・温度
深夜に疲れいて失敗したデータ…はいらないか

メッセージを明らかにしておくと、どんなことをスライドに組み込むべきかの判断がスムーズだ。確かにこれはいいスライド作成法かもしれない。最後に成功した実験データを載せて、博士の初めての研究発表スライドは完成した。

「よし。あとは当日まで簡単に練習するだけだな」

今日は気分よく寝られそうだ。歯を磨いてベッドに入ると博士は自分が研究発表に成功するさまを思い浮かべたが、その妄想もすぐに消え、あっという間に眠りについた。

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