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年齢による差別~エイジズム~


1.エイジズムとは


1995年に出版された「エイジズム:優遇と偏見・差別でパルモア・アードマンは、エイジズム(年齢差別)とはある年齢グループに対する否定的、肯定的偏見、ないし差別であると定義しています。

私たちは老化を何かを失っていく過程として思い描きやすく、そのためアンチエイジングが世の注目を集めています。若者にとっては「子ども扱い」されることを嫌がる傾向がこれを表していると言えます。

今回は社会の中でどのようにエイジズムが起こっているのか、そしてエイジズムをなくすために何が必要なのか、考えてみたいと思います。

2.高齢者へのエイジズム

①高齢者はマイノリティか?

アードマンは、高齢者はマイノリティ(差別の対象になったり、社会、経済、政治、文化、健康面で社会から取り残されてしまった人々のこと)か、という問いに対しては、数人の著名な老年学者の見解から以下のように示しています。

・高齢になることで、退職や虚弱化する地位・役割が予期される
・多数集団は高齢者に対して否定的なステレオタイプ、偏見を抱いている
・高齢者は雇用、教育、政府によるサービス、家庭内といった領域で差別されている

一方で、市民権、政治力の領域では力を持っている、経済的に貧しいわけではないなどの理由で、準マイノリティという概念が適切な表現ではないかと結論付けています。

②偏見が社会への参加を妨げている

「エイジズムを乗り越える:自分と人を年齢で差別しないために」の中でアシュトン・アップルホワイトは、歳をとる、内面化された、恐怖と不安が、否定、過補償(劣等感を過度に克服しようとする心理)、スティグマ(社会的烙印)、さらには、差別を正当化する軽蔑までの、多くの不健康な行動パターンの下地を作り上げる。さらに社会の主流から取り残されると自己嫌悪と消極性という特徴を示すようになる、と語っています。

そして、生活上の様々な障害、困難よりも厄介なのは高齢者に機会を閉ざし、自立を妨げている基本的な政策と社会の偏見であるにもかかわらず、人々はそれを責めずに、自分自身の老いを責める傾向にあるとも指摘しています。

③肯定的なステレオタイプ

アードマンは、親切、知恵がある、頼りになる、裕福、政治力を持つ、自由であるなどの、高齢者への肯定的なステレオタイプも、ネガティブなイメージを払しょくする一面があるかもしれませんが、逆の意味でのエイジズムにつながってしまう可能性もあると言えます。

誰もが自由に考え行動してよい社会で、年齢相応のふるまいや期待を人に押し付けてしまうことにもなりかねません。価値観や人格は年齢に関係なく多様であることを私たちは改めて認識する必要があるのだと思います。

④高齢者虐待

アップルホワイトは著書の中で、エイジズムは虐待を正当化すると語ります。そして高齢者虐待が表面化しずらいのは、例えば病院や警察などについてもドメスティックバイオレンス(夫婦や恋人、親密な関係にある人からの虐待)よりも知られていないこと、また、当事者が高齢者虐待に関する知識を持たないために、自分だけに起こっていることだと考え、恥ずかしいと感じ、口を閉ざしてしまうからだと語っています。こうした気づかない個人の非であるような捉え方が、高齢者虐待を正当化することにつながるのだとも言っています。

3.若者へのエイジズム

民族学者の及川祥平氏は「生きづらさの民俗学ー日常の中の差別・排除をとらえるー」で、若者への偏見が語られるとき、世相や文化が彼らに有害に作用しているのではないかという議論が現れることを指摘しています。

若者は「心の闇」を抱えていると言われ、食生活や家庭環境が関連づけられ、ゲーム、スマートフォン、SNSが害悪視されるのを私たちも目にしてきました。

若者をめぐるエイジズムについては、年長世代による若い人々の支配と搾取が行われ続けている現実があります。親子心中や子殺し、また毒親に見られる生き方の支配などがその例にあたります。また、社会では各種のハラスメントにつながるとも指摘されています。

4.エイジズムをなくすために

①世代間の分断をなくすために企業ができること

ハーバード・ビジネス・レビュー(2022年9月)「エイジダイバーシティの価値を最大限に引き出す方法」(メーガン W. ゲルハート、ジョセフィン・ナッケムソン=エクウォール、ブランドン・フォーゲル)の中で、多くの組織が、世代間の問題に対処していないことで、機会の損失を招いていると指摘しています。

多様な世代で構成されるチームは、相補的な能力、スキル、情報、ネットワークを持つ人々の集まりで、優れた意思決定や生産的なコラボレーションを実現できるというのです。

そして、各世代に対する具体的な偏見に気づき、対立を食い止めることが必要だと主張しています。「違いは年齢に起因する」という勘違いに気づき、チーム内の多様な視点を受け入れ、尊重し、互いの有益な違いをうまく活かしていくことが必要だと語ります。

②社会で何ができるか

ロバート・モリスは老年学の新しい役割について訴えた論文の中で、以下のようないくつかの提唱をしています。

・退職後も事業を起こしたり、ボランティア活動などに関心を持つ活動的な高齢者が果たしうるような新しい役割について、もっと探求が必要
・高齢者を社会活動や経済活動の中心からはずすような過去のやり方を逆転して社会の中に再統合するべき

また、アップルホワイトは、高齢者の多くが身体に障がいを持つにいたる現実から、障がい者差別とエイジズム(年齢差別)が重複する領域を持つことに触れ、このことがコレクティブアドボカシー(同様の経験を持つグループの人々が共に問題提起をし、状況を変えるために連帯すること)につながり、双方への差別の解消につながる可能性を秘めているとも語っています。

③個人ができること

アップルホワイトはさらに、エイジズムを乗り越えるには、「現状」を変えると決断した、すべての年齢の人々を必要とする、と語ります。そしていつ、なぜ、人を大事にしなくなるのかについて話し合いをしていくことが必要なのだと。

それは私たちが、エイジズム社会で生きるから、そしてこの世界を、人生のすべての段階に、意味と目的を見つけられる場としたいなら、必要な闘いなのだとも主張するのです。

世代による分断や敵対は様々な場面で目にし、自身も体験しているのではないでしょうか?自分自身の生きる場所で、差別によって、隔ての壁を作るのではなく、世代を超えて互いを尊重し、協働しあう機会を作るものとなりたいと願います。

※参考文献


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