Mikiko ISHIKAWA/石川美紀子
うちのスタジアムでイス壊して投げないでもらえますか。【レッドスター・ベオグラードvsレンジャーズ】
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うちのスタジアムでイス壊して投げないでもらえますか。【レッドスター・ベオグラードvsレンジャーズ】

Mikiko ISHIKAWA/石川美紀子

日本時間5月19日(木)未明、2021/22シーズンのヨーロッパリーグ(EL)決勝がスペインのセビリアで行われる。長谷部誠と鎌田大地が所属するドイツのフランクフルトと、昨シーズンのスコットランド王者レンジャーズの対戦となるが、このレンジャーズ、ELラウンド16での対戦相手はセルビアのレッドスター・ベオグラードであった。3月に現地ベオグラードでスタジアムの記者席からこの試合を観ていた唯一の日本人が、当日の様子を(今更ながら)振り返る。


レッドスター・ベオグラードのホームスタジアムである通称「マラカナ」には、これまでも記者席やピッチレベルでの撮影で何度か入っている。昨年は、ELラウンド32のレッドスター・ベオグラードvsACミランにもなぜか入れてしまった。

しかし、ELラウンド16ともなれば、取材申請は当然のことながら非常に困難を極める。私がフリーランスのサッカージャーナリストのような顔をしてこの現場に立ち合えてしまったのは、ひとえにレッドスターのレジェンドであるボスコ・ジュロヴスキー氏の御威光であることを、いつものように最初にことわっておきたい。所詮なんちゃってジャーナリストだろ!というご指摘は甘んじて受ける。ちなみに今シーズンのCL予選も記者席で観ていたので、そのときの記事もどうぞ。↓

そういうわけで、なんちゃってサッカージャーナリストなので試合展開や戦術等についてそれらしいことを述べるつもりは毛頭ない。しかし、このレベルの国際試合となると手ぶらで記者席に座るわけにもいかないのだ。今回はiPadとiPhone2台を使いこなしながら全力でガチのプレスを装うことにする。幸い、レッドスターの威信をかけて過去最高レベルにWi-Fiが増強されており、ネット環境はそれなりに快適であった。

この日の観客は公式記録で47,024人、超満員のマラカナを記者席から眺めるのは初めてである(4万人以上入ったベオグラードダービーをピッチレベルで撮影した強烈な経験は、また近いうちに書くつもり)。コレオはすばらしく壮観だった。

ハーフタイムにはサポーターが携帯電話のライトを照らしながらジョン・レノンの「Give Peace A Chance」を歌うというパフォーマンスがあった。現場ではあまり状況がわからず、綺麗だわーと思いながらビデオに撮ってツイートしたのだが、それがまわりまわってこのツイート↓になっているのを後日発見。すぐ近くで突然始まった戦争を受けてのパフォーマンスだったようで、ツイート主によると、過激さで有名なレッドスターサポーターに対する印象が変わったとのこと。

対するレンジャーズサポ。ずいぶん狭いところに押し込められ、全面をフェンスで覆われて結構な警戒ぶりだなと思って眺めていたところ、試合中、なにやら白い物体が宙を舞い始めた!えええ、ちょっと待って!何を投げてるの!イス壊して投げてるよ!(レッドスターサポたちの過去の蛮行についてはこの際もう棚に上げておく!)

なんというか、バルカン諸国とはまた質の違う本場のフーリガン文化を目の当たりにしてしまった…。うちのサポーターも余裕で燃やしてるけどね、こんなのかわいいもんよ(国内リーグの時のことは、それはまた別の話)。

試合は1stレグ3-0で負けているレッドスターが、この2ndレグは2-1で勝ったものの、ELはラウンド16で敗退。とはいえ、満足感も漂うスタジアムであった。さて帰ろうと記者席から立ち上がると、周りの記者たちは皆キーボードを叩き速報を書き殴りながら、開いたままのラップトップを抱えてメディアルームに駆け込んでいく。流れで私も試合後記者会見に潜入。いやー、記者席には何度も座っているけれど、マラカナの記者会見、実は初めてなのだ。うひゃー。

いつもビデオで観ているあれじゃーん。ざっとみたところ、報道関係者80人以上はいたと思う。女性記者もそれなりにいたが、当然のことながらアジア人は私だけ。なるべく目立たない席を選んで座ったつもりだったが、どうしたって目立ってしまう。そわそわする…。まずはレンジャーズ監督の会見から。

レンジャーズのブロンクホルスト監督はオランダ出身で、会見では当然のことながら英語で話すため、セルビア語通訳が入る。これは監督の英語も通訳のセルビア語もなんとなく聞き取れた、ような気がするのだが、おそらくスコットランドから来ているレンジャーズ側の記者たちの質問はほとんど聞き取れなかった。ネイティブの英語と言ってもいろいろだなと、ここで妙に言語哲学者っぽいことを考える。続いてレッドスターのスタンコヴィッチ監督。

こう見えて私、セルビアスーペルリーガの試合後監督会見には数え切れないほど参加しているので、何を言っているのかなんとなくわかるようになってきてしまった(笑)。1時間以上の長い長い会見で、レンジャーズ側の記者がほとんど退席した後、お馴染みの番記者の面々とやりとりしているのはさすがに全く聞き取れなかったけれど。ちなみにスタンコヴィッチ監督の会見には、英語通訳は入らない。この国のサッカーを理解するためには、やはりセルビア語が必須である。

この日、レッドスターを破ったレンジャーズはEL決勝まで勝ち進み、今夜、ヨーロッパの頂点を目指してフランクフルトと対戦する。決戦の地であるスペインのセビリアでは、今夜も必ずや壊されたイスが宙を舞うことであろう。


最近の自信作、セルビアスーペルリーガで活躍する志村謄選手のロングインタビューです。こちらもぜひ。


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Mikiko ISHIKAWA/石川美紀子
セルビアなどバルカン地域を中心に、サッカーと文化とコミュニケーションの関係をリサーチしているフィールドワーカー。国内ではJFL等で撮影したり記事を書いたりしています。出版社「MALO PO MALO Project」代表/中京大学社会科学研究所特任研究員/名古屋/新刊発売中