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コロナ禍の海外旅行のリスクと日本の水際対策の矛盾

イギリスでいっしょに働いていた友人Kが、仕事の都合で日本に帰ることになった。
もともと6月上旬の予定だったが、イギリスでコロナにかかり延期。
療養がおわった6月下旬、ようやく日本へ
――――戻れるはずだった。


「ヘルシンキ空港で暮らすことになった😂」
元気でね、いってらっしゃい!とメッセージしてから数時間後。
Kから来た予想外な返信に、チャットグループがざわつく。

(それ、リアル『ターミナル』やん・・・)

Kを心配しつつも、みんなの脳裏にトム・ハンクスがよぎる。

Kの帰国ルートは、イギリス→フィンランド→日本(直行より安いから)なのだが、乗り継ぎでいったい何があったのか。

本人監修のもと、なかなか日本に帰れない男Kの体験をまとめる。
※7/6時点でKは日本に入国できている。おめでとう。

【イギリス】帰国の1か月前、コロナにかかる

Kがヘルシンキ空港でリアル『ターミナル』マンになる約1か月前。

・1回目の帰国リスケ(6月上旬→中旬)

6月のはじめ、Kはイギリスでコロナにかかった。
10日間の自己隔離&療養のため、帰国日を6月上旬→中旬へリスケする。

・2回目の帰国リスケ(6月中旬→下旬)
イギリスから日本に入国するには「陰性証明書」がいる。
イギリスを出る72時間前にPCR検査をうけ、陰性だと発行できる。

コロナから回復したKは、帰国日にあわせてPCR検査をうけた。
しかし結果は陽性。
帰国日を6月中旬→下旬へリスケする。

Kのように、回復してから数週間にわたり、再検査で陽性が出るケースがあるらしい。
これが、ヘルシンキ空港でのリアル『ターミナル』生活の伏線だった

In addition, some Covid-19 patients who recover from their illness and test negative by PCR may again test positive (i.e., go from PCR positive to negative to positive). 
病気から回復し、PCRで陰性と判定された一部のCovid-19患者は、再び陽性となる可能性があります(つまり、PCR陽性から陰性、陽性になります)


・いざ日本へ(6月下旬)

イギリスに愛されすぎた男Kにも、やっと「陰性証明書」を手にするときがくる。

帰国日にあわせてPCR検査をすると、結果は陰性。
三度目の正直で、イギリスから出国できると確定した。

そう。確定したのはあくまで「イギリスを出られる」ことだけ。

【フィンランド】乗り継ぎ先で搭乗拒否される

ヘルシンキ空港についたKは、乗り継ぎのため、航空会社に陰性証明書を提出。
しかし、ある事実を知らされる。

「この陰性証明書は無効なので、搭乗できません」
そりゃ納得いかんのう

陰性証明書はただの紙切れになった!
母国は遠いな、Kよ。

【フィンランド】乗り継ぎ先で搭乗拒否される のもくじ
(1)陰性証明書:日本独自フォーマットの落とし穴
(2)ヘルシンキ空港でPCR再検査→陽性
(3)「PCR再検査で陰性になる」のはいつ?
(4)空港から出られなくなった後の流れ

(1)陰性証明書:日本独自フォーマットの落とし穴

日本が求める陰性証明書は、フォーマットや検査方式などの条件が、他国と比べて独特らしい。

今回のポイントは、イギリスと日本のPCR検査方式のちがいにある。

イギリスの一般的なPCR検査は、鼻とノドの検体をまぜる方式。
日本が入国をみとめるPCR検査は、鼻の検体だけをつかう方式。

だから、Kの陰性証明書は無効とみなされた。

※しかし、Kが搭乗拒否された数日後から厚労省の入国ルールが変わる。
7月から、イギリスの一般的なPCR検査で得た陰性証明書(Kが用意したものと同じ)でも、入国OKになった。

●令和3年7月1日午前0時(日本時間)より、「鼻咽頭ぬぐい液・咽頭ぬぐい液の混合」を有効な検体として取り扱います。
厚生労働省 検査証明書の提示について

もし、Kがイギリスで3回目の帰国リスケ(6月下旬→7月上旬)をしていたら、スムーズに日本へ帰れたはず。

4月から強化された日本の水際対策によって、似たケースがたびたび起きているようだ。

(2)ヘルシンキ空港でPCR再検査→陽性

イギリスの陰性証明書が無効になったので、あらたに”有効な”陰性証明書を手に入れなければいけない。
Kはヘルシンキ空港でPCR検査(日本の方式)をうけなおす。

ここで思い出してほしい。
Kは約1か月前にコロナにかかった。
回復後、陰性になってもまた陽性になる事例がある。

病気から回復し、PCRで陰性と判定された一部のCovid-19患者は、再び陽性となる可能性があります(つまり、PCR陽性から陰性、陽性になります)

PCR再検査の結果は、陽性
偽陽性なのかもしれないが、とにかく陽性は陽性。

航空会社は、「陽性の人」を飛行機に乗せられない。
フィンランド国境警備隊は、「陽性の人」の入国を許可できない。

つまり、Kは搭乗ゲートとイミグレーションの間から出られなくなったのだ。

PCR再検査で陰性になるまで、Kは空港に閉じ込められ、
リアル『ターミナル』生活を余儀なくされる。

(3)「PCR再検査で陰性になる」のはいつ?

PCR再検査で陰性になるまでといっても、いつ陰性になるかなんて誰にもわからない。

検査のコストは265ユーロ(約34,450円)~300ユーロ(約39,000円)。
気軽に毎日うけるわけにはいかなそう。

Kは「1週間後に再検査する」と決め、まずは居住地を整えていくことにした。

空港ぐらしが決まっても、Kはわりと冷静だった。
航空会社もフィンランド国境警備隊も、正しいことをしているわけなので、「そりゃそうだ」と納得がいったらしい。
でも厚労省、おめーは別だ!)と怒っていたので、その話は後半で書く。

(4)空港から出られなくなった後の流れ

1. 在フィンランド日本大使館に連絡
Q:一時的にフィンランドに入国できないか?
A:大使館は国境警備隊に対して、特別措置を求めた。
しかし、国境警備隊に対する強制力がない。
国境警備隊の判断により、やはり入国はNG。

Kの状況が、厚労省へ報告される。
航空会社⇔駐日フィンランド大使館
駐日フィンランド大使館⇔外務省および厚労省

2. 航空会社と話し合い
Q:預け荷物を、フィンランドの陽性者用エリアに持ち込むことはできる?
A:イミグレを通った後しか、預け荷物のピックアップはできない。

Kの空港ぐらしのベースは、いま手荷物にあるものだけと確定。

3. Kの待機場所
空港が用意した陽性者用エリアが、Kの住まいとなる。
フロアのすみっこに、パーティションで区切られた、だだっ広い場所がある。

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陽性者エリアにはKひとりだけ

【フィンランド】リアル『ターミナル』生活

手荷物のなかみ
・パソコン、スマホ、充電器、変換機
・バスタオル、歯ブラシ
・フェイスマスク
・アイマスク
・財布

ここからKの環境づくりがスタート。

【フィンランド】リアル『ターミナル』生活 のもくじ
(1)衣
(2)食
(3)住
(4)シャワー・洗濯
(5)その他

(1)衣

着がえは預け荷物の中なので、いまは何もない。
航空会社の人にお願いし、下着・服・靴下・タオルを調達してもらう。

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(2)食

自分で手に入れる。
陽性者用エリアにある自販機で、飲み物と軽食を調達。

(3)住

なにしろ陽性者エリアにはKしかいない。すべてが自由につかえる。
ベッド、ワークスペースを手に入れた。

以下は「ぼくの部屋😉」とKから送られてきた写真たち。

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ワークスペース。テレビ会議すると、Kの背景だけ青い空が映る


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ベンチをくっつけてベッドに
空港の職員に交渉して、余ったブランケットがもらえた
トム・ハンクスのベッドより上質である

(4)シャワー・洗濯

シャワーなど、ない。多目的トイレで、がんばって洗髪し体をふく。

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Kの感想「しんどかった」

洗濯ものは、トイレの洗面台で洗い、空港で干す。

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洗った靴下を干しているところ

(5)その他

再検査の日が来るまで、仕事したり映画みたりして、時間をつぶすK。
友人・知人が口々に「空港で暮らす人の映画あったよね」というので、
『ターミナル』を観ることにした。

もとが良い作品であるうえ、トム・ハンクスの境遇といまの自分を重ね、感動して泣いたらしい。
K「勇気をもらった

【フィンランド】陰性を待たずに出国OKがでる

Kが空港で生活する間に、7月が過ぎた。
先にも書いたが、7月から、Kが無効とみなされた陰性証明書の形式(イギリスのPCR検査方式)でも、日本入国がOKになった。

●令和3年7月1日午前0時(日本時間)より、「鼻咽頭ぬぐい液・咽頭ぬぐい液の混合」を有効な検体として取り扱います。
厚生労働省 検査証明書の提示について

厚労省から審議の結果が来る。
「現時点で、Kの陰性証明書を有効とみなす」
「最終的には、日本の空港で検疫が判断する」

ヘルシンキ空港で陰性になるのをまつ必要がなくなったので
Kは日本へ向かう。

【日本】着いたけど入国できない

フィンランドから日本に着いたKは、これで入国できると思っていた。
しかし、ここから空港を出るまで14時間かかる。

飛行機をおりてからの、おおまかな流れは
検疫→イミグレーション→税関

検疫で、イギリスからの帰国者は検査をうけ、
結果が出るまで次のステップに進めない。

Kはこの検査で陰性だった。
(フィンランドでの陽性はやはり偽陽性だった?)

【日本】着いたけど入国できない のもくじ
(1)厚労省の再審議スタート
(2)5時間待機
(3)強制送還or条件つき入国
(4)水際対策だいじょぶそ?

(1)厚労省の再審議スタート

検疫の検査で陰性だったK。
検疫ですべての必要書類を提出したものの、
あらためて厚労省が、Kの入国について審議することに。

Kは入国できないので、待機室で結果をまつことになった。

(2)5時間待機

待機室はWi-Fiもつながらず、何もないただの真っ白い部屋
Kはここで5時間まつことになる。
幸い、パソコンのローカルに仕事の資料があったので
それをいじって時間をつぶしたらしい。
K「何もなかったら発狂してた」

(3)強制送還or条件つき入国

夜10:30、やっとKに結論が伝えられる。

「フィンランドで陽性だったため、陰性証明書は無効
「陰性証明書が無効のため、正規入国が認められない
「書類不備あつかいのため、検疫所指定ホテルには入れない

厚生省は、Kがヘルシンキ空港のPCR検査で、
陽性になったのを知らなかったという。

Kは航空会社と大使館から
陽性であることも含め、厚労省へ状況を伝えたと聞いているので
省内で情報伝達できてないだけでは説をとなえている。

いまKにあたえられた選択肢は2つ。
1. 強制送還(フィンランドに戻る)
2. 航空会社の管理のもと、Kが自分で手配したホテルに泊まる

Kは2を選択するのだが、水際対策の矛盾に気づいてしまう。

(4)水際対策だいじょぶそ?

Kが身をもって感じた、水際対策への気づき。

1. 情報伝達ぐだぐだ
Kがフィンランドにいる時点で、厚労省に正しく状況が伝わっていれば、
そこで「陰性証明書は無効」と確定できたのではなかろうか。

1回目の審議ポイントで、見逃してしまったため
水際すれすれで2回目の審議をするオペレーション、だいじょぶそ?

2. イギリスからの入国者が、一般のホテルに泊まる矛盾
イギリスから帰国した(かつ検疫の検査で陰性の)人は、
検疫所指定のホテルで自己隔離が必要だ。

Kは前に一時帰国したとき、この隔離ホテル生活を経験している。

隔離ホテルは、受け入れ態勢がきちんと整っている。
厳しいルール、監視体制、定期的な検査・・・
それはもう刑務所なみ。

でも今回、Kは厚労省から「自分で一般のホテル(帰国者受け入れホテル)を予約する」ように指示された。

隔離ホテルを経験したKからすれば、一般のホテルはルールがないも同然。

Kはちゃんと自主的にルールに従い自己隔離しているが、
やろうと思えば、自己隔離ルールを無視して、外出できる状態らしい。

そもそも厚労省がKの陰性証明書を無効にした理由は、
フィンランドで陽性だったから。(日本の検疫では陰性だが)

陽性を問題と考えているなら、Kを一般のホテルに泊まらせるのは
まずいのでは?
一般客にも感染リスクがともなうということだ。

Kは日本入国後、3日目、6日目、10日目にPCR検査を自分で手配し
航空会社へ結果を報告しなければならない。(自腹)

検査キットの受け取りは、部屋から出て、バイク便の人とホテルのフロントからうけとらなくてはいけない。(他人と接触しとるやん)
まずいのでは?

3. 航空会社の責任でよいのか
リスクがある2の指示をしたのは厚労省だが、
Kの管理は、航空会社にゆだねられている。

何かあったときに責任をとらされるのが、航空会社というのは
おかしくないだろうか?

Kは「厚労省が泥をかぶりたくないから、航空会社へ責任転嫁しているようにみえる」といっていた。

【まとめ】withコロナの海外旅行の心得

これからも多くの人が、さまざまな理由で
ちがう国を行き来することがある。
観光目的だけでなく、仕事や冠婚葬祭、母国の事情などなど。

Kの体験から、withコロナの海外旅行の心得を学んだ。

・手荷物の中身は、空港での足どめを想定しよう
・渡航ルールはころころ変わるので、こまめにチェックしよう
(出国地と入国地それぞれの)
・トラブルがおきたら、まずは航空会社と大使館に連絡しよう
・日本の水際対策は矛盾しているので、個人の良識が求めらる
・なるべく冷静につとめよう(だれかにキレたりあたらない)
 e.g.) ハリケーンで飛行機が飛ばないってどういうこと!?
         ーハリケーンだからです。


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