パン職人の修造104 江川と修造シリーズ リーベンアンドブロートができるまで
ベッカライリーベンアンドブロートの
オープンの日にちを決めた。
もうこの土地建物は修造のものなので
出入りは自由だ。
2人は駐車場から建物を眺めた。
「江川!あと3ヶ月で開店だ!」
「凄い!ワクワクしますね!僕出来るだけ手伝います」
「まずは内装からやっていく。明日から工務店の人が工場の設備をやりに来てくれるから、その後すぐに機械の搬入!」
「はい」
「今から車を見に行こうと思うんだ」
「配達の車ですか?リーベンアンドブロート号ですね!」
「そう」
江川と修造は中古車センターに行き、配達用の車を選んだ。予算が気になるのでなるべく安くて丈夫そうな軽を真剣に見て回る。
注文は全て受けてこの車で納品する予定だ。車屋の人に車の横に店名を入れてくれる様に頼んだ。
工務店に頼んでガス、電気、水道の設備を整える。配管は元々あったので点検と一部新しいものにする。
その間に修造は江川と2人でまず建物の周りの雑草を全て綺麗に抜き、ホームセンターでタイルを買ってきて、工務店の人に教わりながら、店へのアプローチにドイツ風のタイルを散りばめた。
内装はシンプルでパン棚は見やすく沢山パンを並べたい。
工場の中は何人かで立ち回れる様に考えて作った。拭けばすぐ汚れの取れる鏡面張りの壁の素材を買ってきて取り付ける。
工事代を浮かすために自分でパン棚を作りながら「江川、パンはパンロンド時代のものと、ドイツパン、そして世界大会で作ったものを取り入れようと思うんだ。」
「はい!」江川は目をキラキラさせてこのパンはここであのパンはここでと張り切って考えていた。
さて、工場の感じができて来たら忘れちゃならないものがある。保健所に行って営業許可証の申請に行く。江川と2人で食品衛生責任者の講習会に行き、証書と札を貰う。
シンクは2槽でお湯と水が分かれたもの!ラッキー!保健所の許可に必要な物は流石元レストランだけあってちゃんとしていた。
こうして必要なものを一つ一つクリアしていく。
元々あったものはなんでも使い、庭の机と椅子は修理して塗り直したり、カフェ部分は中古でお洒落な机と椅子を探したりした。探してみれば中古のものも良いティーセットとかトレーとかあるものだ。
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家族を連れてきて、ホームセンターで買ってきた花をこことここに植えて欲しいと頼んだ。
律子と緑は楽しそうに色とりどりの花を植えていった。そして庭に元々あった白いアーチの枯れ草を取り、蔦を這わせた。
緑が「これって何に使うの?」と聞いたので「結婚式とかに使ってたんじゃない?」と答えた。
緑は花嫁の真似をして花を手に持ち「ほら見て、こんな感じ?」とアーチの前でポーズした。
修造は大地を抱っこしながら「いつか緑がお嫁さんに行く日が来るなんて考えられない」と涙を浮かべた。
修造はこの店を道路の入り口から見て、ドイツ式のタイルに悦にいったが、ちょっと寂しいかなと思い芝生を両脇に植えることにした。店の前のアプローチの両端の地面に地道に四つん這いで芝を植えながら
店を作るってこうやって少しずつお金が出ていくんだなと呟いた。
俺は山の上にパン屋を作ったら機械以外は全部自分で作るぞ。
勿論薪窯もだ。今は勉強の時期なんだ。
自分で作って自分の城にして自分だけのパン作りをするぞ。
その前にここでドーンと当ててやる。
「よしっ!」タイルと芝生をみて満足げに言った。
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機械の搬入の日
後藤が芝居がかった大袈裟な感じで「とうとうこの日がきました!」と言ってオーブンやミキサー、モルダー、パイローラーなど次々搬入した。「基嶋の新品のオーブンがリーベンアンドブロートにやって来ました」やや大声で張り切って言いながら写真を沢山撮ってるのでまたホームページに載せるつもりなんだろう。
「ここまで来るのに色々あったからお疲れでしょう」
後藤は修造の顔を見て「色々心配が尽きませんが大丈夫!もうダメだと思った瞬間また他の所から助けがやって来る、商売ってそういうものですよ、私はそんなシェフを何人も見て来ました」とベテランの営業マンらしい事を言った。
「悲喜交々、これから色んな事があると思いますが、お二人で力を合わせていってください。何か困ったら直ぐにこの後藤を呼んでくださいね」
閉店開店
後藤はその度に立ち会いその『色んな事』を見て来たんだろう。
「これからも力になって下さい」修造は頭を下げた。
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その後もまだまだやる事はある。
仕入れ、用具の購入、店のレジはどんなものにするのか、事務所の机や椅子、更衣室のロッカーの手入れ、従業員募集、制服決めなどなどキリがない様に思えた。
紙にいる物を書き出して「こんなにあるんだ」と呟く。
さて、従業員募集の件だが、修造は広告を出す事にした。料金表を見ながら「結構値が張るがこの大きい枠にしよう」と面接の全てを江川にやらせた「お前の合いそうな人を探すんだよ」
とはいえ実際一緒にやってみなければこればっかりはわからないしなあ。
ちょっと不安な修造だった。
つづく
これまでのお話はマガジン1〜55話、55話〜100話
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