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パン職人の修造87 江川と修造シリーズ Awards ceremony



この作品は全てフィクションです。実在の団体や人物とは関係ありません。


パン職人の修造 江川と修造シリーズ Awards ceremony

 

審査員のパンの試食が終わった。

選手たちは控え室に戻って休憩する様に言われる。

修造は椅子にどかっと座って机に臥せながら、工程に反省点があるか考えていた。

そして顔を上げて言った。

「江川」

「はいなんですか」

「全部の工程でお前の世話になった事しか思い出せないよ。野菜のゼリーと言い、他の工程の全ても。俺の我儘を叶えてくれてありがとうな」

「僕、役に立てたなら良かったです」

「俺は俺の考えたパン作りの全てを思った通りにしたかったんだ。それが実現したのは江川のサポートのおかげだよ」

さっきまで目元が引き攣ったままだったので江川は目尻を摩ってマッサージしながら言った。

「本当に良かった」

 

ーーーー

 

20分後

また会場に戻る。

表彰式が始まるのだ。

 

一か国ずつ呼ばれて出て行く。

参加者全員が並ぶ中、荘厳な曲に合わせて式典の司会が出てきた。

白い封筒を開いている。

江川はそれをじっと見ていた。

フランス語で何人かの選手が呼び出されている。

修造も江川も全然フランス語がわからないが受け取った選手は歓喜に咽び泣き、皆大喜びだ。

大木と話していた通訳の人に「ねぇ、あれが優勝カップですか?」と聞いたら違うと言われる。

今はクロワッサンやタルテイーヌなどの各部門のパンの受賞式だそうだ。司会が何か叫んだ。

ジャポネって呼ばれた気がする。

ワーっと日本チームの応援団から拍手が起こった。

大木に合図されて修造と江川は真ん中に立った。

自分達にライトが当たっている。

修造は透明のずっしりしたトロフイーを受け取った。

修造は表情を変えなかったが嬉しくないわけじゃない。空手の試合の時、勝った方は相手に敬意を表して、おおげさに喜んだりせず己を律しなければならない。

和装のパンデコレが賞を貰った。

「うわーすごーい!修造さん!おめでとうございます〜」

「ありがとう。これで安心して帰れるよ」

賞を貰ってホッとした。

元の場所に立ってると今度は大木が江川に「おめでとう」と言った。

「えっ?」

「江川真ん中に立つんだ」

呼ばれてセンターに立ち、大木と修造が拍手する中、江川はトロフィーを受け取った。

「最優秀助手賞だ」

大木の言葉にびっくりした。江川のコミとしてのサポート力が評価されたのだ。

「えーっ!僕が?みんなー!僕賞を貰いました〜」

うわーっと叫びながら、江川はトロフィーを高く上げて応援席に向かって叫んだ。

 


その途端応援席から声援が届いた。

後藤がみんなに賞の名前を言って驚かせている。

「すごーい!江川君」

「江川くーん」パチパチパチパチ

みんな拍手している、

「あいつちゃんとサポートしてたもんな」

鷲羽が何故か誇らしげに言った。

嬉しそうだ。

 

江川はその後はなんだか気が楽になって他の選手の受賞に拍手を続けた。

 

オリンピックで言えば金銀銅のメダルと同じ授賞式が始まった。

3位の国、2位の国の名前が呼ばれて、1位はどこかしらとキョロキョロしていたら「ジャポネ!」と言うワードが聞こえた。

大木と通訳の人が大喜びして修造と江川を真ん中に連れて行った。1番高い台の上に立ち、修造は1番大きなトロフィーを受け取った。

バゲットを切り取った様な形の黄金のトロフィーを持って真ん中のライトを見ている修造の横で江川は大木とハイタッチして、両腕を高く上げて「やったー!」と大声を張り上げた。

全身に全部の拍手とライトを浴びた。壮大な音楽が鳴り響き、感動を盛り上げた。

色んな人におめでとうと言ってもらってありがとうを何度も言う。

うわあ嬉しい!僕このままライトに当たり過ぎて白くなって消えていくんじゃないかしら。江川は存分にライトを浴びて、修造の代わりに倍みんなに手を振った。

「修造、せっかく優勝したんだからもっと喜べよ」

修造はあまりに直立不動だったので、大木にそう言われる程固まっていた。

「修造さん、おめでとうございます」

「ありがとうな、江川のおかげだよ。頑張ってくれたもんな」

江川は照れて「エヘヘ」と笑顔を向けた。

表彰式が終わって応援団のみんなと話していた。

「みんな応援ありがとう」全員と握手する。

鷲羽が興奮して帯の模様が手が込んでるとか、あのパンが食べてみたいとか騒いでいた時、突然後ろから大柄で白髪混じりのヒゲを濃く蓄えたおじさんが話しかけて来た。

「シューゾー」

その声に修造が機敏に反応してバッと振り返りそのままそのおじさんとガシッと抱き合った「エーベルトーっ!」

 


ウワーっと2人とも懐かしがって握手したり年甲斐もなくピョンと跳ねそうなぐらい修造は喜んでいた。そんな修造を見たのは初めてだった。

「あ!あの人がエーベルトさん」


つづく


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