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パン職人の修造106 江川と修造シリーズ リーブロプレオープン


新しくお店を構える時

それが初めての時

様々なトラブルが起こる。

そしてそれは大抵お客様の目に入らない裏側で起こる。


あの古びた建物は塗り替えられ、壁紙も床も綺麗になった。棚もテーブルも椅子も、そしてレジ台も整った。

外にはまだ植えたばかりの花が咲いていてドイツ風のタイルと芝もカッコいい。

そんなパン屋

Bäckerei Leben und Brot(生活とパン)がとうとう出来上がった。

江川はリーベンアンドブロートは長いので『リーブロ』と呼んでいる。



ピカピカのオーブンがある工房でスタッフが集められた。

皆真ん中の台の周りに立っている。

江川がみんなに向かって手を上げた。


「はーいみなさん。お仕事の役割を伝えますので修造さんから順に言っていきますね」

皆に役割を伝える為だ。

「田所修造さんが統括、生地の仕込みその他、事務、店舗管理。僕、江川卓也は生地の仕込みと材料管理。立花杏香さん登野里緒さんが仕込みや成形担当。和鍵希良梨(わかぎきらり)さんと平城山妙湖(ならやまみょうこ)さんは成形と仕上げ担当。西森昌也さんと大坂芳樹さんが焼成。そして店のスタッフのレジや品出しは安芸川御世理さんと姉岡志津香さん。カフェ担当の岡田克也さんと中谷麻友さんです」

「よろしくお願いしまーす」

皆江川が面接した経験者ばかりだ。これからみんなでバリバリパン作りをして行くのだ。

今日はオープンに向けて慣れていく為に試運転。

それぞれが与えられた表を見ながら仕事していた。

それを見て修造は心からホッとしていた。

あー

苦労した甲斐があったな。

良い店ができたよ。



ーーーー



「修造さ〜ん」

和鍵と平城山が寄って来た。

「では一緒にブレッツエルにラウゲン液をつけていくから平城山さんは見ててね」

「はい、お願いしまーす」2人は明るく返事をした。




手袋をした和鍵がまずラウゲン液の入った容器に冷蔵庫から出してきたブレッツエルの生地を漬ける、やはり手袋をした修造が液に潜らせてからベーキングシートを引いた天板に並べていく。

それをどんどん作ってラックに差していく。

その後はカットして粗塩をかけたりチーズをトッピングして焼成の担当が焼いていく運びになる。

和鍵は修造にピッタリ寄って液に生地を入れていった。

平城山も修造に近過ぎる距離で見ている。

なんだか狭い「危ないからもう少し離れてね」

「だってシェフの手元をよく見ておかないと」

それはミキサーの前の江川から見ても近過ぎると思った。
「ねえ、もう少し離れないと修造さんが困ってるよ」
江川に注意されて2人からチッと声が聞こえて来そうだった。

「じゃあ平城山さん手袋をして続きをお願いね」

「はーいシェフ」

2人はちょっとだけ江川を睨んでから作業を始めた。



ーーーー



3日後にプレオープンを控えていてその件でNNテレビのディレクター四角志蔵がやって来た。

「どうも修造シェフ、想像を超えた良い店ですね、都心からは遠いですが広くて癒しの空間ができている。外のベンチに座って美味しいパンをのんびり食べてピクニック気分を味わえる」四角は店の入り口に立って周りを見渡した。

「どうも」

「早速ですがこれ」と言って四角は台本を渡して来た。

「俺こういうの苦手で」

「当日は桐田美月とマウンテン山田さんが来て店の外観を案内した後シェフにお話を伺います。もし苦手なら台本は参考程度にして思いの丈を仰って下さい。当日は11時から始まるプレオープンまでに収録を終えるつもりです」



ーーーー



さて、プレオープンの日は直ぐにやって来た。



9時頃、江川が「修造さん、NNテレビの人達が来ました〜」というので外に出てみる。

駐車場に停まった大型車から人が何人も降りて来た。

スタッフに囲まれて芸能人オーラバリバリの美しい女性が立っている。「あの人が」と、修造と律子が同時に言った。

「桐田さんって綺麗ね」刺す様な感じで律子が言って来た。「えっ」全く身に覚えがないのに愛妻からヤキモチを焼かれる。


桐田はすぐに入り口で立っている修造をロックオンした。

前から熱い眼差し、後ろから刺す様な視線を感じて足元が冷たく感じて身震いする。

「桐田さーん」江川も出て来て出迎えて声をかけた。

「シェフ今日はよろしくお願いします」

「どうも」

「江川さん、約束通り連絡ありがとう」

「こちらこそ来てくれてありがとう」2人はニコッと笑い合った。そこに律子が「お世話になります。修造の妻です」と言って来た。

「あら修造さんって結婚なされてたのね。オホホ存じませんでしたわあ」

と言ったが後で江川に聞いた「ねぇ、なんでシェフは結婚指輪をしてないの」

「だって生地に引っ付いて抜けると困るから」

「そうなのね、全然知らなかったわ」



つづく


パン職人の修造 江川と修造シリーズ1〜55話はこちら


パン職人の修造 56話〜100話 江川と修造シリーズはこちら

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