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フリーランスの営業思考

デザイナーにしろイラストレーターにしろ専門職が兎角勘違いしやすいのが「デザイン」を仕事にしている、「イラスト」を仕事にしている。提供してるのは作品である。

間違いではありません。しかし根本的にはクライアントが抱える問題を解決していると思っています。イラストであれば紙面を彩るイラストやら、説明を簡潔にするためのイラスト。紙面の彩りを解決している、ファンを持ってるイラストレーターならば、製品のファンになってもらうためのきっかけになってもらう。説明を簡潔にすることを解決しているといえる訳です。

イラストを描いてるとなると、例えば作家性を大事にしたり、クオリティを大事にしたりする事に重きをおいてしまいがちです。一定のレベルにいけば、そんな戦術も大事だとは思います。が、そうでないならばクライアントの問題解決を考えた方がフリーランスならば、圧倒的に上手くいきます。

ケーススタディを交えながら問題解決をする営業思考を説明いたします。

5万円で紙器の設計からパッケージを作った話


和菓子屋さんの仕事でこのようなオーダーが入りました

・季節イベント的商品のパッケージを作りたい
・店を季節感を出すディスプレイも兼ねたい
・予算は5万円

予算5万じゃパッケージは無理です普通に。
パッケージは立体になるのでダミー制作とかが必要ですし、ディスプレイも兼ねるという難題付き。

パッケージはどうやって作るの?という方のために大雑把に
入る物によって容量が変わります。
商品を受け取って大まかなサイズ出しをしてグラフィックを考えていきます
紙を効率的に使えるサイズに修正して白ダミーを印刷会社に作ってもらいます。ここで立体として齟齬の無い事を印刷会社と確認します。

スーパーやディスカウントショップ、コンビニ等に並ぶ一般流通品は商品の運搬も兼ねますが贈答品がメインの和菓子屋さんなど、自前店舗で売る場合はパッケージは畳んで保存する事が多いので、それも前提に設計をします。
ケーキ屋さん等で箱を組み立ててるのを見た事がある方も多いと思います。

という流れがあって5万じゃ不可能だという事なんです。
おおまかに打ち合わせ1日+デザイン1日+設計1日で当時の見積もりなら15万がミニマムです。

15万の見積もりで5万の予算にどう合わせたか
季節イベントなので毎年行います。
なので最低3年使って欲しい、で都度5万下さいという提案をして、それが通りました。
都合5年使ったので25万で見積もりプラス10万で、おまけに貸しを作れました。他に沢山仕事を頂いていたから出来た事ですが、信頼関係を作れば、このようなソリューションもあるってことです。

お客さんからの視点で物事を考える

営業さんは売れるであろう数字を弾きます。
そこから使える経費を考える、上司や社長に決済を貰うという流れです。
5万円の件は事前相談がありましたが、仮に社長決済まで貰っていて5万円しか予算がない、仕事が成立しないでは営業さんの社内の立場が無くなります。つまり自分に発注してくれる人がいなくなる、裁量がなくなっていくことを意味します。
なので、外部ブレーンである私が助け舟を出す必然性があった訳です。特に慣れてない担当者だと概算の見積もりの検討もつかずに社内決済まで終わらせた後に発注なんてケースも結構あったりします。
相手が大きな会社の人ならば、こういう場合はビッグチャンスです。お客さんの困った時に手を貸せるのは相手の信頼を得られます。
もちろん年間数百万の仕事を頂いていたので、出来た事ではありますが、結局は仕事はソリューションであるという事です

5万円?馬鹿にするな、ではなく何故5万円なのか?まず5万円で解決法があるか考える、そうでないなら別の方法を提示できる努力をする。その姿勢がお客さんから評価に繋がります。

お姉さんとの無駄話が仕事に繋がる

和菓子屋さんに打ち合わせに行くと必ず店頭のお姉さんとお話をします。
もちろんお土産にお菓子を買うのですが、バカ話のついでに困った事を聞いたりしていました。
和菓子屋さんの客層は高齢者が多く若い人が少ないのが特徴的です。
にも関わらず若い人たちがプライスカードやそのた販促品を作ってるので、文字のQ数(ポイント数)が小さくて見にくい事に気づいたのです。

お婆ちゃんがしゃがんで値段を見てるんですよね、の一言

当時30そこそこだった私は老眼なんて発想がなかったので、完全に盲点でした。ちょうどその時期に新聞の文字のポイント数もアップしたりしましたが、お客さんと接するお姉さん達がお客さんの事を見ていたりするのですね。
すぐさま帰ってプライスカードを作って営業さんに持っていきました。全ての店舗のプライスカード受注です。
残念ながら、これはpdf納品だったので大した金額にはなりまんでしたが、専務から呼ばれてじきじきにお褒めの言葉を頂きました。
経営者層の覚えがよくなると仕事を受注するうえでも圧倒的に有利になります。
コロナ騒動もありますが、テレワークがもてはやされてる感がありますが仕事って現場のソリューション、お客さんの困ったが起点になるので、メリハリをつけてお客さんを訪問するって、とても大事なことだと思います。

お客さんの業界を深く知る事は営業に繋がります

私の好きなEテレさんの番組に沼にハマってきいてみたがあるのですが、要はオタク道みたいな番組でして、特に固定クライアントさんの業界は本当知った方が仕事に繋がります。
アパレルに在籍して女性物のプリントグラフィックをやってた時は一人でLOVE BOATやらヒステリックグラマーからアルバローザのグラフィックを見に店舗にリサーチに行っていました。知らないと話になりませんから。

和菓子屋さんをやっていた時は同業他社から洋菓子、お土産屋にあるめぼしい商品は必ず買って食べて、パッケージ等も全て保管していました。

デザイナーの仕事の一番は顧客の信頼を勝ち取ること
評判の悪い医者だと、国家資格を持っていても敬遠されるのに何の資格も持たずイラストレーターさんのように絵を描ける訳でもカメラマンのように写真を取れる訳でもないのですから課題発見能力、問題解決能力の一つとして知識があることは必須なのです。
顧客の同業他社の情報もない、何が売れてるかも分からないじゃ相手にされません。
アウトプットとして提供するのはデザインですが、その前段階が物凄く大事なのです。

1点4万円でスケートボードのグラフィックを作った話

ある玩具製造メーカーから、こんな依頼が来ました。スケボのグラフィックをやってくれ1点4万円で海外にデータを送る。

グラフィックとなるとイラスト的要素が大きくなります。
で、慣れない海外入稿まで?そりゃ無理だ、とはなりませんでした。

メーカーと言ってもファブレス企業で工場を持ってない企画型の会社です。
つまり、工場がない分企画と数をこなす企業という訳で、聞けば年間の新商品が300とか出る。
他にお客様を抱えてるし、300本全ては出来ないので月10本分デザイン作成の契約をお願いし、仮に8本しか採用されなくても40万円という契約にしてもらいました。
しかも完全提案型。
テーマはあるにせよ、好き勝手イラストとグラフィックを作って月に30本位デザイン収めて、うち半分位は採用という他では経験がない体験をさせて頂きました。
きちんと10本出せば毎月40万円の固定収入、プラスアルファがあれば、その分稼げるというものでした。提案型の締め切りは毎月一回なので、スケジュールに余裕があり他の仕事と並行してできる、アイドルタイムを減らすという事にもなりました。
スポーツオーソリティとかゼビオは都内にほとんど店舗がありませんでしたが、自分の手がけたスケボが並んでいた時は感慨深い想いでした。

もっとも日本ならデータ渡せば印刷会社さんの方で最適なデータにしてくれますが、海外の印刷では、毛抜がズレてるとか色が全く違う等のトラブルが頻発しました。
この経験は海外で印刷をする際の大きな経験値となったのでギャラ以外にも得る事は大きかったのです。

この案件も4万じゃ採算が合わないと蹴っていたら毎月40万円以上の収入、しかも納期に余裕がある仕事を得る事ができませんでした。相手が望む要望を受け入れつつ、どうしたらソリューションを提供できるかって事を考える。これが営業的思考です。できればサラリーマン時代から積極的に外に出て営業経験を積む事がフリーランスになっても武器になります。机の上だけが仕事ではなく、むしろ外が大事だという事でもあるのです。

ロゴのデザイン、ブランドタグのデザインの受注方法

これはアパレルサラリーマンの時に行った事なのですが、当時アパレルさん相手にブランドタグ、ブランドネームを会社で作っていたので受注を増やすために考えたスキームです。
ブランドであれば商標は必要なのですが、今と異なり電子出願とか商標調査ってえらく面倒だったのです。特許庁で調査したり、弁理士に出願を依頼する必要がありました(今はネットで可能)。
出願から登録まで数ヶ月必要で費用もそれなりにかかりました。
ブランドの数って実は物凄く多くて2017年の出願数だけでも約20万件。アパレル=ブランドのイメージはとても強いのですが、名前が知れてるブランドなんて極わずかで、無名のブランドの方が圧倒的に多数なのです。

アパレルさんで新しいコンセプトでニューラインで出したい。
すぐにでも出したい、でも新しい商標がない。
そんな時に私が勤めていた会社の商標を貸すのです。貸すと同時に商標費用をプラスして、ブランドタグ、ネーム、袋等の副資材全てを受注する

アパレルさんが気に入る名前さえあれば、時間を節約して手間もかけずに商標を使う事ができたので仕事が増えました。当然ロゴデザインも受注できます。販促品も全て受注できます。

デザインを待ってるだけだと、どうしても受け身になって競争相手が出来てしまいます。なので競争相手が生まれない状況を作る、これが営業的視点なのです。

もっともフリーランスだと難しい仕事の仕方かも知れませんが、商標はカテゴリ登録を絞れば数万円で出来てしまって10年有効なのでとってみてもいいかも知れません。ただし使うあてがないと競合から無効申請をされるので注意も必要ですが。

カレンダーの仕事の受注方法

印刷まで丸ごと受注したので、フリーランスになった後初めてとった大きな案件です。
サラリーマン時代からのお付き合いでプリントTシャツのグラフィックを作っていました。以前からカレンダーをオリジナルで作っていたのは知ってたのですが2色印刷、デザインも面白くないものだったので、見積もりを出すので今の入値を教えて欲しいとお願いしました。

もともとカレンダーは他で作っていたので、カレンダーの玉部分はある。あとは客から支給された写真をもとに表紙入れて13枚のグラフィックを作ればいい。想定するデザインを作った場合のコストと、印刷代の見積もりを取りました。

デザインだけで100万円以上儲かるーーー!!
いくらなんでも卓上のB6のカレンダーでページ単価10万越えはない

写真撮影から行えば10万でも難しいところですが写真支給が前提なので、利益を減らすためにグラフィック部分はオールカラーにしました。
それまでは表紙と3ページのみの都合4ページがカラーだったのです。

玉部分にはサーフ系ブランドらしく潮見表カレンダーや六輝も入れて、紙もそれまでコート系のやっすいものから自然な風合いが感じられる紙に変更しました。
ノベルティグッズとして人気が出て、卸先からのオーダーが増え初受注は4000部程度だったものが最終的には6000部位まで増えました。
毎年毎年ボーナス案件になって、メーカーさんは同じコストで作れて、ショップさんは売り上げが増えてデザイナー冥利につきる仕事でした。

肝心のカレンダーを取る方法を述べていませんでしたが、一つ計算してみてください。
物を仕入れる時は通常仕入れに対して手数料を載せます

仮にA4のチラシ両面、まあ安くて10万円としまして、これを1万部刷る。
印刷通販ならば、両面カラーで2万円程度で印刷できてしまいます。

印刷会社がデザインに手数料15%乗せる→15,000円アップ
デザイン会社が手数料15%乗せる→3,000円アップ
同じものを作っても総額で12,000円違ってくるのです。

よほど大きな案件なら別ですがフリーランスが受ける仕事の多くって印刷代よりもデザイン代の方が高いんです。何しろ印刷部数が少ないですからね。

印刷会社は機械を動かす事を優先させますし、デザイナーが動く事って少ないのです。動けば生産性が落ちますから。
何度もこの手で相見積を取らせてもらいましたが、価格勝負ができるうえに予算に余裕があるのでクオリティを上げることができて有利な勝負が出来たりします。

デザイナーなのにネットショップの店長になれた話

実は数年間ヤフーショッピングの店長をしていました。
もちろんショップの店長です。
前述のメーカーから独立した人が作ったアパレルが、卸先が少ないけど地方からの引き合いがあるということを解決するためにネットショップをやったらいかがですか?という話をしたのですが、メール設定すらできない人たちばかりだったので、では私がやりましょうとなってショップを開きました。もちろんネットに関しては独占販売契約を結びました。

当時のヤフーショッピングができるのは法人のみだったので、これもあってデザイン事務所とは別に法人を作りました。
楽天とヤフーショッピングを比較したら楽天が高額だったのとヤフーの将来性を加味してヤフーに決定しました。

趣味でヤフオクをやっていたので、CMSを実装してるヤフーショッピングの操作自体は簡単なものでした。
問い合わせ先はメーカー、発送もメーカー。要はドロップシッピングと同じ仕組みです。こちらは商品の撮影をしてページを作るだけ。それで売れたら手数料を貰うというスキームです
つまり撮影料とページデザイン料をもらう代わりに販売手数料を貰ったんですね。これならばメーカーからしたらリスクゼロ、販路が増える、販売店がないエリアの客にアプローチできるという大きなメリットが生まれます。私にはフロービジネスではないストック型に近いビジネスを手に入れるメリットと、ネットの知識、販売の知識が手に入るメリットがあります。
後で知りましたが、これに物流を加えたスキームを作ったのが前澤友作社長率いるZOZO TOWNです。
当時のアパレルは春夏モデル、秋冬モデルと年に2回商品を出していました。つまり商品が出る年2回のシーズンページを作れば後は放置で良かったのですね。

最終的にはメーカーの在庫管理がトホホな状態で、売れたはいいけどソールドアウト、品切れが多発してお客さんに迷惑をかける事の心労から逃げるために在庫を持つ事にしました。多い月で50万円とかの機会損失がありました。
これが完全に裏目で、売れる商品はあっという間にソールドアウト、売れない商品は値下げしても売れない状態で在庫がみるみる積み上がっていって、ヤフーショッピングからは撤退しました。
零細アパレルの辛いところで、人気商品を増産しようにも元になる生地から作るとなるとロットが必要でした。なので作れないとか、生地があっても最低1ヶ月かかるとかで完全に売りどきを逃してしまう。在庫を持つ恐ろしさを痛感した件でした。
在庫の件さえクリアできればヤフーショッピングは現在ロイヤリティが激安なので挑戦してみたい件ですね。

このように失敗するケースも沢山あります。
しかしデザイン案件を待っていたら、前述のとおり競争が激しいのが実際のところです。お客さんが気づいてない事を解決する、困った事を相談してもらえるようになると自然とデザインを有利な立場で受ける事ができるようになると思います。

デザイナーが提供するのはデザインだけではない、これは若いデザイナーさんほど心に刻んで欲しい事です。
ヘッダー写真GAHAG


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