見出し画像

日本のIT産業構造の特殊性(ベンダー丸投げ)の原因

 日本のIT産業は世界の中で唯一の特殊性を持った産業構造となっている。そしてその特殊性は日本のIT企業のグローバル化の大きな妨げになっているし、日本企業がグローバル展開する上でこのITのケイパビリティがボトルネックとなっている。  

 2011年に独立行政法人情報処理推進機構より「グローバル化を支えるIT人材確保・育成施策に関する調査」が報告されたが、その中で米国はIT人材を自社内で抱えるが日本はITサービス企業が抱えていることを指摘した。この例としては米国が取り上げられたが米国以外の国でも状況はほぼ同じであることを私は仕事上知った(厳密には西ヨーロッパ、北米、東アジア、東南アジアを現地に入って調べた)。またインドや中国は国外の企業の開発や運用のアウトソーシング先となるため海外向けのITサービス企業がIT人材を多く雇用するが、IT人材は原則自社で抱えるという構造はインドも中国も基本的には同じだった。

画像1

画像2

  では何故日本だけがこのようなIT人材をITサービス企業が抱えるような構造になってしまったのか?それは終身雇用のメンバーシップ型の日本企業ではITシステムを構築運用することは困難だったからだ。ITシステムは構築の際は人手がかかるため頭数を揃える必要があるが、一度運用フェーズに入れば少数で事足りる。IT人材の需給ギャップを1企業の情報システム部門が柔軟に調整することは不可能だ。またテクノロジーは刻一刻と進化する中で必要とされるテクノロジーを常時企業内に保持、そしてまた不要なテクノロジーを放出するには人材の流動性が必要となる。したがって終身雇用で人材が固定化されるとニッチもサッチもいかなくなるのだ。したがって企業内で雇用されているIT技術者はテクノロジーを追求することはできず、自社のシステム利用ユーザーの調整窓口としてしか機能しなくなる。やがてITサービス企業が実質のシステムを掌握することとなり骨抜きされる(全てのITサービス企業はどう乗っ取ってパークするかを考えている)。

  日本を除く他の国ではITエンジニアはキャリア構築を会社名ではなくスキルや経験を重視して積んでいく(日本でも転職する際の評価は同じなのだが)。得意な技術領域だったり業種・業務の経験年数が一定数を超えるとパッと転職をして給与と役職レベルを上げるか、そのオファーレターを元に雇用主に交渉をして同条件以上を獲得する。一般的にはこのようなキャリアアップ活動を40歳近くまで行う頃には自分の限界に差しあたるので転職活動はやめて、その企業に居座ることを考えるようになる。自分のスキルが臨界点に達して自分の給与が均衡した暁には慣れた会社で慣れた仕事をやることが楽だからだ。海外では多くの企業でこのような中高年がミッションクリティカルとなるシステムの番人として存在している。

  日本企業ももれなくDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を説いているが、足元のIT人材が確保できず困っている。国内大手のIT企業ですらメンバーシップ型の終身雇用性なので引き抜くこともできないし、自社で育て上げるわけにもいかない。だからと言って内部の大変革を外部の力に頼っては本末転倒ではなかろうか。  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?