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65歳で「新人キャピタリスト」に。元ブリヂストン常務を動かした、学び続けたいという思い

グローバル・ブレイン(GB)で情報発信を担当している岡本です。

今年GBに入社したExecutive Fellowの小松秀樹さんは、株式会社ブリヂストンの常務執行役員も務めた人物。65歳で定年退職をしたのち「新人キャピタリスト」としてGBにジョインしました。しかしなぜ定年を迎えた後になってまで、未経験の分野へ飛び込んだのか。その経緯や思いを聞きました。


小松秀樹:2024年GB参画。アカデミアを中心に、将来を見据えた材料技術で有望なシーズやベンチャー企業を探索し、投資に繋げていくことをミッションに活動。

F1のタイヤ開発競争から、買収劇まで

──これまでのご経歴を教えてください。

1985年に新卒でブリヂストンに入社しました。最初の10年にやったのはひたすら基礎研究です。東京大学に国内留学させてもらったり、ブリヂストンが買収したアメリカのファイアストンというタイヤメーカーの中央研究所に行かせてもらったりしました。

そのあと、これが私のブリヂストンでのキャリアの1番のハイライトだと思いますが、自動車レースの「F1」と二輪レースの「MotoGP(当時はGP500)」で、ミシュラン社と一騎打ちのタイヤ開発競争に関わりました。これは面白かったですね。ふつうの技術者では経験できないことが、本当にたくさんありました。

F1ってレースが2週間に1回あるんですよ。そのたびに前より良いタイヤを開発しないといけないので、もう四六時中ずっと考えている状態でした。ミシュランに勝っているときは良いんですが、競争力がなくなってくると「次の技術どうするんだ」とプレッシャーもものすごくて。ただ大変ではあったんですが技術者冥利に尽きるというか…このころのことはいまでも目頭が熱くなりますね。話し出したら止まらないです。

その後、2007年にミシュランがF1から撤退します。タイヤはブリヂストンの1社提供になったのを機に開発の前線からは離れ、当時世界6か国14事業所にあった、タイヤの原材料であるカーボンやポリマーを作る内製事業所の責任者に着任しました。

これはこれで大変でしたね。製造現場なので安全な環境を保たないといけないんですが、それでも怪我人が出たり、事故が起きたりしてしまいます。事業をやるというのは、お金の問題だけではなくて、こういう日々起こるいろんなことにトップとしてどう対処していくかなんだなと勉強になりました。

その後、ふたたび技術センターに戻って基礎研究や製品開発のトップを務めたり、新規事業開発を担当したりしながら、最終的にはブリヂストンのDXを進めるために1,000億規模の企業買収に関わりました。技術がわかる人間として関わっていたんですが、いち技術者が買収劇の一部始終に携われる機会ってあんまりないと思うので、これも面白い経験でしたね。

ちなみに新規事業開発時代にLP(Limited Partner:ファンドの出資者)出資をしていた関係から、GBとはそのころからのお付き合いです。

──なるほど、そうだったんですか。ブリヂストンでは技術畑だけでなく事業サイドでも刺激的な経験をされていたんですね。

上司に恵まれたんです。本当に良い人に巡り合えて、みなさんチャンスをくれたんだなと思います。なのでブリヂストンにはすごく思い入れがあって。当時はヘッドハンティングもあったんですが「こんな恵まれた環境で仕事してて、誰が辞めるか」という感じでした。

「やっぱり、技術の勉強を続けたい」

──その後GBへ入社されるわけですが、どんな経緯があったのか教えてください。

地元が関西ということもあり、65歳で定年退職を迎えるにあたって京都に住みたい気持ちが芽生えていたんですね。ここ数年、内閣府のプロジェクトに携わらせてもらったり、山形大学の教授をやらせてもらったりしてたので、退職後は国の仕事や教授職を続けながら、京都でゆっくりしようかと考えていました。

そんな折、私が京都に引っ越すのを聞きつけたGB代表の百合本さんが声をかけてくださって。「京都にDeep Techなどに投資する拠点があるので、うちのメンバーを助けてもらえないか」と。その話があったのが今年の2〜3月頃で、ブリヂストンを退職したのが4月末、GBに入社したのは6月1日です。

──かなりのスピード入社ですね。なぜ迷わず決断できたのでしょうか。

1つはやっぱり技術の勉強を続けたかったからです。技術って常に進化しますから、生半可な知識ではなく、きちんと知っておきたいなという気持ちがあって。

「勉強したい」なんていう言い方はVCとしてはダメかもしれないんですけど、投資判断するためにはやっぱり「この技術はなんなのか」をある程度は知る必要がある。そういった知る機会をもらえたこと自体が、すごく幸せだと思ったんですよね。

もう1つは、社会に必要な技術に対して純粋に投資の判断ができる点です。ブリヂストンの新規事業開発をしているときは、やはり自社の強みと新しい技術をどうマッチングできるかという頭で考えるわけですが、VCはそうではありません。

しかもGBは投資領域がデジタル系だけでなく、ハードウェア、バイオ、環境など幅広い。あらゆるサイエンスに関する話を、その専門家であるスタートアップのトップの方と話す機会をもらえるなんて願ったり叶ったりでした。

百合本さんから最初に話をいただいたときは、65歳という年齢もあるので、アドバイザーのような形でテンポラリーに関わるんだろうと思っていたんです。ところが、そのあと百合本さんやGeneral Partnerの熊倉さんと何度かお話させてもらううちに「キャピタリストが良いんじゃないか?」と言われて。「え、正社員ですか!?」と驚きました(笑)

私は65歳で社会の一線からは退くものなんだろと、社会通念的にも思っていたんですよね。ところが百合本さんやGBにはそういう障壁がない。年齢ではなく個人で見ているんです。だからGBには年齢も国籍もバックグラウンドもさまざまな人が集まっていて、ダイバーシティがあるんだなと。すごいなと思いました。

逆に言うと、しっかり戦力として頑張ってほしいというメッセージでもあると思うので、「これは頑張らなあかんな」という気にもなりましたね。

不安を感じる前に一生懸命やるだけ

──未経験のVC業界に入ることに不安やためらいはなかったのでしょうか。

まったくなかったですね。この年齢でもう1回チャレンジの機会があるのは感謝しかありません。未経験でも与えられた職務を目いっぱいやって評価されなかったら仕方がないという話だと思うので、不安を感じる前にとにかく一生懸命やる。それだけですね。

入社して3週間ほどですが(取材当時)、早速学会に行って大学の先生たちと情報交換を始めています。先日も以前から参加している高分子学会に、GBの社員として初めて行ったばかりです。スタートアップを起業している先生たちに名刺を渡したら、目の色を変えながら「小松さんVCにいるんですか、個別に話をさせてください」と言ってもらえました。これまではブリヂストンの開発責任者として一緒に研究開発をやる立場でしたが、今後はビジネス寄りな目線で彼らとご一緒できるのが嬉しいなと感じます。

あと、今度初めて日本心理学会にも行こうとしています。内閣府のプロジェクトを一緒にやっているメンバーの中に、行動心理学の権威の方がいるんです。この方が言う「技術を社会実装をするためには消費者の行動変容が絶対に必要だ」という話がすごく面白くて。ディスカッションをした流れで学会に参加させてもらうことになりました。

──早くもご自身の知的好奇心をもとに活動を広げられていますね。

そうですね。興味あることに関してはとりあえず行ってみようと。やっぱり家でテレビを見てるより、新しい技術を学んだほうがはるかに面白いです。逆に、必要に迫られて「やれよ」と人から言われたことには頭が有機的に回らないなと感じます。だから、日々新聞とか専門紙を読んで、自分は何が好きか、何を面白いと思うかを知ることって結構大事かもしれませんね。

スタートアップを支援して、日本の力を証明したい

──すでにさまざまな活動を始められていますが、改めてGBで成し遂げたいことを聞かせてください。

自分自身が化学者なので、機能性材料をはじめとした、ものづくりに関する良いスタートアップを1つでも多く見つけてIPOまでできたらと思っています。特に有機化学の分野では、日本はまだ世界的に負けてないと思うので、その領域でスタートアップを支援して「化学でもまだまだいけるじゃないか」と証明したいですね。

そのほかに関心があるのはソフトロボティクスです。従来の工場で働くロボットではなくて、豆腐のような柔らかいものを持てるロボティクスを作るために、触覚をどう制御していくべきかという技術に興味があります。この興味は勉強しながらいろいろと広げていきたいと思っています。

ブリヂストンで新規事業に携わっていたときの私の最後の目標が「ブリヂストン発のベンチャーを起こす」だったんですよね。少し違った形にはなりますが、スタートアップを黒子の立場から支援することを通じて、その夢を具現化したいなという思いもあります。

とにかく入社したからには、少しでもいいから実績を残したいですね。さっき1on1をした熊倉さんからも 「1年でこれぐらいはやってもらわないとね」って優しい笑顔で言われてしまったので(笑)

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