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ぜんぶ副反応のせいだ?

7月20日(火)

起床。9時になると同時にかかりつけの皮膚科の当日診療予約をとり、診察開始の9時半に間に合うように慌てて支度をする。

タンクトップを着ていったので、医師は湿疹とかさぶただらけの私の両腕を見て、即座に状況を把握して薬を処方してくれた。「今日モデルナのワクチンを接種するのですが、大丈夫ですかね」と念のため言ってみたけれど、塗り薬も飲み薬もワクチンと併用して問題ないとのこと。「問診時に、『主治医に問題ないと言われた』と言ってかまわないですよ」と言われて、あ、このそっけない女性医師は私の主治医だったのか、と初めて認識し、つれない男に恋人認定された若いおなごのように甘酸っぱいときめきを覚えた。まあ、いろんなおなご(患者)に同じこと言ってるのだろうけれど。

薬局に移動して処方された大量の薬を引き取り、一旦帰宅。空腹時に飲む薬と食後三十分以内に飲む薬と朝晩塗る薬が数種類あって、このノルマをパーフェクトにこなせる人間なら、毎日シーツを変えたりこまめに汗を拭いたり保湿に努めたりできるだろうから、肌荒れをこんな悪化させることもなかったのではないかと思う。

午後はワクチン接種。諸事情で自宅から二時間ほど離れた接種会場に行かねばならず、受けられるだけありがたいので文句は言うまいと思うがとにかくばかみたいに遠い(言ってる)。ちょっとした旅行先より遠いのに、道中飲酒することもできず温泉地はスルーして、ようやく会場最寄り駅にたどり着いた。
T氏と合流し、あらかじめ調べておいた駅近くの台湾料理屋に向かう。食の楽しみでもないとやってられない。餃子と角煮丼セット(事実上のルーロー飯)と鶏飯を頼み、一人だったらこんなにいろんな種類を食べられないので、T氏の存在に感謝する。


そこからバスに揺られ10分、さらに徒歩で15分ほどかかってようやく会場に到着。満腹だし暑いし遠いしで、まだ接種していないのに本気で帰りたくなる。

ワクチン接種自体は何の問題もなくスムーズに終了した。私は普段献血するときと同様、針が刺さる瞬間をガン見していた。休憩の15分でマーク・トウェイン『アダムとイヴの日記』を読了。ラスト一文がよかった。

バスを待つのも暑いし帰りは下り坂だから歩いて帰ろう、こっちだよ、と、来た道と違う道をずいずい歩くT氏に、道合ってる? さっきバスで通り過ぎた飲食店とか一つも見あたらないけど? と問うも、T氏はもうすぐ見えてくるよと言って聞かない。10分ほど何もないだだっ広い公道を歩かされ、どう考えても駅前に向かっているとは思えないのでグーグルマップを起動したら、案の定駅とはまったく違う方向に向かっていた。静かにぶち切れようと思ったけれど炎天下を歩き続けてその気力もない。しょげたT氏を従え、黙ってグーグルマップの指示のとおりに公道をはずれ、細い道を入って方向転換をはかる。住民しか通らないだろう民家の裏道を歩き、ぶどう畑を横目に歩き、忠実な農家の飼い犬にほえられながらまた歩きながら、汗だくになったT氏が「ぼくのなつやすみ」みたいな光景だねー、と呑気に言い放ったので、軽くこづいた。副反応でいらいらしているのだ、ぜんぶ副反応のせいだたぶん。
しかしたしかに、ビアガーデンにもプールにも行けないだろうこの夏、今が一番夏っぽい時間を過ごしているかもしれなかった。

↑ワクチン接種帰りに道に迷った私たちが見た「ぼくのなつやすみ」みたいな光景。

ここなら誰にも見られないからと言って手をつないでみるも、お互いの手は汗でべったべたになっていたので、うわー気持ち悪っと言ってすぐに離したらひどいと言われた。

ようやく駅にたどり着き、ポカリスエットを買って、来たときと同じ電車に乗り込む。人としゃべりながらだと、電車に揺られている時間もそれほど長く感じない。同僚の悪口を言ったときに「副反応で口が悪くなってるみたい」と付け足したら、口が悪いのはいつものことだと言われる。副反応で眠気がやってきたので新宿に着くまで交互に眠った。T氏が道を間違えたおわびになんでも奢るというので、私は副反応で無性にパフェが食べたいと伝えた。新宿NEWoManの中のおしゃれカフェに入って、くらげのようなゼリーが覆いかぶさったおしゃれパフェを食べた。

桃と豆乳クリームの組み合わせが新鮮だった。

帰宅する頃には注射した左腕に違和感が出てきた。だるさはないが微熱も出てきた。日記を書こうとポメラを広げるもぼんやりして集中力が続かずひどく時間がかかる。ただ、私がぼんやりして集中力がないのはいつものことなので、副反応かどうかは判断がつかない。日付が変わる頃に就寝。


7月21日(水)

目覚めると左腕が激痛だった。腫れたりはしていない。ただ、ちょっと体を動かすだけで肩と上腕がめちゃくちゃ痛む。腕は肩より上に上がらないどころか、後ろに回そうとしてもびくともしないし、だらんと伸ばしてもひきつるように痛む。小さく前ならえの姿勢しか安心できない。この状況、何かに似ているぞと思ったらぎっくり腰のときだった。トイレでパンツを下ろすのもブラジャーをつけるのもカーディガンを羽織るのも一苦労だ。
私が小学生の頃に病気で半身不随になった亡き祖父を思い出す。文句も言わずリハビリに励み、ゆっくりとでも自分のことを自分で一通りやっていた祖父。私たちが手伝おうと手を出すと祖母に「いいのよ」とぴしゃりと言われた。左腕の自由がきかないだけでこんなにしんどいのだから、半身不随になった祖父はどんなに大変だったことだろう、と思い、自分が類似の状況を体感しないと、そのつらさが想像できない自分の浅はかさを思い知る。

充分眠ったはずなのに暴力的な眠気に襲われて、保冷剤を左脇に抱いてベッドに倒れ込んだ。休日の私にとっては二度寝はよくあることなので、これも副反応かどうか判断がつかない。

昼前になんとか起き出し、銀行に向かう。明日から世間は連休らしいので、今日のうちにリノベ工事費用の振り込みをしなければならない。ひどい頭痛がしてきたけれど、もともと偏頭痛持ちなので、これも副反応かはたまた熱中症的な症状か判断がつかない。番号札を取る直前にジジイに割り込まれてむかついた。


振り込みを無事に終え、日比谷に出てT氏と合流。「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観る。主人公の親友がレイプ被害に遭って亡くなり、主人公が泥酔した女性を犯そうとする男性や親友の事件関係者に制裁を加えていこうとする話。いわゆるグロシーンやトラウマを喚起するような描写がいっさいないのが徹底している。主人公のガーリーなファッションや自宅の瀟洒なインテリアと、制裁を加えるときの場面に応じた過激なコスチュームの対比が際だつ。
主人公と両親の関係の描かれ方がつらい。
主人公の親友が被害者になった事件にまったく取り合わなかった関係者の女性たちが、自分や自分の大事な存在が当時の親友と類似の状況に置かれた瞬間に取り乱すのを見て、今日まさに左肩が動かなくなって初めて祖父の苦悩に思いを寄せた私は彼女たちを愚かだと笑うことができない。

これ以上感想を書くと結末に触れるのを避けられないからこれ以上は書かない。T氏ではなく友人たちと感想を語りたい映画だったので、友人たちは観たら連絡してほしい。

主人公が手のネイルを一本ずつ赤・オレンジ・黄色・グリーン・水色に塗っていて、最初はただかわいい〜まねしたい〜と思って見ていたのだけれど、今はまったく別の意味合いでその配色を自分の爪にも施したい気持ちでいる。マカロンカラーのマニキュアなんて一本も持っていないから、五色買い足さなくてはならなくて経済的に大打撃ではあるのだけれど。


映画の後にインド料理屋に入って、私はもちろんビリヤニを食べた。

ポットの中から蒸した米と肉を引っ張り出してカレーと一緒に食べる。

頭痛がさらにひどくなっていたけれど、これが映画の衝撃なのか熱中症の症状なのかはたまた副反応(以下略)

T氏と別れて帰宅し、また倒れるように眠った。

夜起きだして、吉川トリコ『余命一年、男をかう』を読む。また妙齢未婚女性と年下かわいい男子ものだよ〜と思うけれど、どう考えても自分でそういうコンテンツを選んで摂取している。

おもしろかったので一気に読了。日付が変わってから寝た。日中散々寝たのにすぐ眠れたけれど、これが副反応(以下略)

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