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【読書】江國香織について

 私は読書が趣味なので、我が家のリビングには大量の本が溢れているし、楽しい時、悲しい時、悩んだ時、何でもない時・・・どんな時でも本を読み、それに助けられてきた。
 「作家読み」をする傾向があり、一度気に入るとその作家の作品ばかりを片っ端から読み漁る。唯川恵がそうだった。真梨幸子が、湊かなえが、桜庭一樹が、村山由佳がそうだった。おかげで私の本棚では、一列ずっと同じ名前が並ぶということも珍しくない。様々な作家の本が、連続して並列されているのをながめるのは、実に壮観である。
 しかし、そんな中でもひと際特別な光を放つ場所がある。それが、江國香織の作品が並ぶコーナーだ。江國香織は、私が最も愛する作家の一人で、彼女の著書はほとんど持っている。「きらきらひかる」、「こうばしい日々」、「落下する夕方」、「ぬるい眠り」・・・。ずらりと並ぶ背表紙に書かれた美しいタイトルの一つ一つをじっと見つめているだけで、様々な感情が自然に溢れてくる。
 私と江國香織の出逢いはとても運命的だったと思う。時は、多感だった中学生時代にさかのぼる。県外に住む祖父母の家に久しぶりに遊びに行った時のことだ。普段はなかなか会えない祖父母といろいろな場所へ行き、美味しいものを食べ、たくさんの会話を交わし、別れがたくなった帰り際、別れをせかすような新幹線のホームで、祖母が私にそっと手渡してくれたのが、江國香織の「やわらかなレタス」だった。ふんわりと優しいピンクに愛らしい鳩。その表紙を見るだけで、いっぱいの思い出と祖母の寂しげな様子が蘇ってくる。
 東京に帰ってしばらくしてから、その本と改めて向き合った時、直感的にこの人は祖母に似ているのかもしれないと思った。自由奔放で、新鮮な驚きに満ち溢れた感性と、美しく繊細な言葉選び。なぜだかわからないけれど、ちょっぴり抜けているところがあって、どんなことにもみずみずしく感動する私の祖母と、重なるところがあるような気がしたのだ。
 彼女の紡ぐ言葉は魔法のようで、それを受け取った人の心をふわりと一瞬で彼女の色に染めてしまう。その一つ一つがとても繊細な硝子細工のようだけれど、読んだ人の見ている世界を一変させてしまうような強烈な力も持っている。
 優しいけれど、荒々しい。静謐だけれど、危なっかしい。私は彼女の作品に触れてすぐに、その矛盾に強く魅了された。彼女は、残酷な世界や人間を、残酷なままに、描く。私はその正直さにいつも、胸が締めつけられるような、それでも、穏やかな、切なさや怒りを感じる。それは、彼女の作品を読んだときにだけ覚える、独特の感覚で、私はそれを求めて彼女の作品を読んでいるのだろう。読み終えた時、思わずため息をついてしまう。
 それは、満足とも感動とも違う。混乱なのだ。まったく、彼女にはいつも心を振り回されてばかりだ。私にとっては、恐ろしくも愛しい物語たちである。


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