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#1-2『Q:A Night At The Kabuki』

2度目のNODA・MAP

『Q:A Night At The Kabuki』はシェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を下敷きにした物語です。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』では、恋する若き男女が、仇敵同士の両家の争いに巻きこまれ、悲運な死を遂げる姿が描かれています。では、"もしもロミオとジュリエットがあのまま本当は生きていたら?"という後日譚を描いたのが今回の作品です。

加えて、伝説のロックバンド「Queen」からのオファーで、アルバム「オペラ座の夜(A Night At The Opera)」から着想を得ており、劇中の随所にはQueenの珠玉の楽曲たちが散りばめられています。
(…また、オファーの段階で「日本的な話にできないか?」というリクエストがあったそうで、舞台も14世紀のイギリスから12世紀の日本の源平合戦に移されています。)

《ストーリー》
悲運の死を遂げずにどうやら生き残ったらしい源愁里愛(みなもとのじゅりえ)と平瑯壬生(たいらのろみお)。物語は、現在(いま)の世を生きる<"それからの"愁里愛:松たか子>と<"それからの"瑯壬生:上川隆也>の目線から語られはじめます。
彼らは、若き日の無邪気に恋焦がれる自分たちの姿(愁里愛:広瀬すず、瑯壬生:志尊淳)を回想すると同時に、何とか2人が悲運な結末を迎えないように、2人の行動を先回りし、運命を変えようと奔走します。
気がつけば時間軸は現在に向かって進んでゆき、次第にどうして2人が生き残ったのか、そしてその後どうなったのかが明らかになってゆきます。
劇中の巧みな言葉と見立てのマジックによって、舞台は第二次世界大戦終焉後の日本の状況下とリンクし、「戦争が終わった日に、戦争は終わらない」…ラストでは戦後の世で2人がたどり着いたあまりに悲痛で残酷な運命を目の当たりにすることになります。


終演後、私は愕然としました。「あぁ、こんなものを観てしまったら、この先どんな作品をみればいいんだろう」と。
10代の頃から、それまで何十回と劇場に足を運んできましたが、上演中にあんなに涙を流した経験は初めてでした。

終演後のロビーで、急いでパンフレットと戯曲が掲載されている月刊「新潮」を買い、詩的で美しい台詞の数々を噛み締め直しました。
頭の中では「Love Of My Life」が絶え間なく流れ、そのたびに劇中の美しくも切ない場面が思い起こされ、頭が熱くなりました。(その後何週間か毎日この曲を聞いていたと思います。)

美しいことばの台詞の数々

戯曲の内容については言わずもがな、「どうしたらこんな作品が思いつくのだろう…」と感銘をうけるばかりですが、今回は特に印象的な美しいセリフ回しが多く、中でも松たか子さん演じる<"それからの"愁里愛>が<瑯壬生>から届くはずだった言葉を真っ白い手紙にのせて読むシーンは切なくも美しく、圧巻でした。

  • 美しいことばの応報
    「ロミオとジュリエット」というロマンティックな悲恋と届かない「手紙」というテーマが、詩的で言葉遊びの富んだ台詞と相まり彩光を放っているように感じます。

月が満ちて潮が引いて、沖に帰る波が、砂に書かれた文字をさらっていく。足元に残ったのは、真っ白い手紙。あなたがくれた、何もくれない手紙。とうとうくれなかった、くれない色の恋の文。
『Q:A Night At The Kabuki』(「新潮」 2019年12月号)


3度目のNODA・MAP

そして、それから早3年。2022年10月某日。大阪「新歌舞伎座」にて2度目の『Q:A Night At The Kabuki』(再演)を観てきました。
(…実は、8月にも東京公演のチケットを取っていたのですが、新型コロナウイルスの感染状況に鑑みて、止む無く公式リセールへ。しかし、初演と演出が変わった部分があると聞いてどうしても観たかったため、再度大阪公演のチケットを取りました。)

ここ数年は、専ら映像配信か県内の劇場(地方公演など)での観劇が続き、県外の劇場で演劇を観るのは、何の因果か、2019年の『Q:A Night At The Kabuki』以降、3年ぶりでした。

初演以降、wowowで放送された映像を何度も見返し、戯曲も何度も読み返していたため、演出が変わった箇所や台詞回しや抑揚のつけ方の違いなどに気が付くことができ嬉しかったと同時に、やはり舞台は生ものだということを実感しました。

そして、初演・再演の演出の好みは別として、やはり素晴らしいということ。本当に良い作品を観た時の、カーテンコールのあの瞬間。観客が一体となって演者とスタッフに向ける心からの賞賛と敬意。私は演劇が、この瞬間が堪らなく好きだということを久しぶりに体感しました。
(…改めて松たか子さんのお芝居には脱帽。大好きな俳優さんの1人になりました。)

最後の最後に、野田秀樹さんが客席全方位に向かってお辞儀をしてくださいましたが、返すように思わずこちらがお辞儀をしそうになりました。
「こんなに素晴らしいものを観せてくださってありがとうございます」と。

来月からは『東京キャラバン』が始まります。
観に行けることを願って…。


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