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社会実験の拠点として活動スタート! なぜ笑門スタヂオへ移転したの? 移転してみてどんな感じ?――経緯や見えてきたこと聞きました

2022年8月にグラグリッドは渋谷区恵比寿から大田区大森へとオフィスを移転しました(コ・デザインするためのスタジオへ〜グラグリッド「笑門スタヂオ」への移転ストーリー)。移転した先は、リノベーション昭和長屋・大森ロッヂと呼ばれる一画にある笑門の家。入居するにあたって「笑門スタヂオ」と名をあらため、コ・デザインの拠点にすべく活用を始めています。笑門スタヂオに移転した経緯や、実際に移転してみてどんなことが見えてきたのか、三澤さんに話を伺いました。

シンボルだったオフィスを手放すのは現実味がなかった。探していたのは「ワクワクできて、新しい活動が生まれそうな場所」。

恵比寿から大森に移転したのは、どんな経緯があったんでしょうか。コロナ禍による影響が大きいのかなと思うのですが、グラグリッドでもリモートで業務をするようになっていましたよね。

三澤:リモートになってオフィスを使わなくなったのは、ひとつのきっかけではありました。だからと言って、すぐにオフィスをどうこうするという判断には至っていなくて。グラグリッドのオフィスってシンボルだったんですよ。グラグリッドのカラーである黄色に塗られた壁があって、「ここから何か新しいものを生み出していくぞ!」といった気概が存在していて、みんながワイワイ働いている状況でした。

確かに以前のオフィスでは、ワークショップをされたり、黄色い壁にカスタマージャーニーマップやエコシステムを描き出した紙をバーっと貼り出して、みんなであれこれ検討したり、忘年会でも利用したり。外部の人も含めて、みんなが集まってフラットに何かを行うことができる場所だったように思います。

三澤:そうなんです。なのでオフィスを手放すのは、あまり現実味がなくって。でもコロナ禍でリモートを活用した働き方にも慣れてきたところで、あらためて見直すと、世の中が変化していく中で、働き方そのものはもちろん、私生活も含めて、例えば経営側の立場である私と尾形の夫婦のあり方とか、離婚するわけではないですけど(笑)。そういった全てを含めて考え直す必要はありそうだ、という流れから移転についても検討し始めたんです。

シンボルだったオフィスを移転するとなると、それなりの条件が必要そうですよね。何かこれは外せないみたいなものはあったんですか?

三澤:シェアオフィスとか、いろいろ案は出したんですけど、私たち自身が楽しくないんですよね。前のオフィスがシンボルとしての価値があったので、それに匹敵するような、シンプルに言ってしまうと「ワクワクできて、新しい活動が生まれそうな場所」というのは、物件を検討していく中で大切にしたいと思うようになりました。ただそうは言ってもすぐに見つかるわけではなく、アンテナを張った状態でピンときたら見に行ってみる感じで。

グラグリッドのメンバーみんなが「これからの私たちのあり方には、オフィスも大きく関係してくるよね」というのは共有していて。私に一任されていたんですけど、縁あって笑門の家との出会いがあったんです。笑門の家は1961年に建設された住宅を改装した建物です。「リノベーション物件っていう手もあったんだ。めっちゃ面白いじゃん!」みたいな。ここなら次の拠点にふさわしいと思って移転を決めました。

街角再生プロジェクトの一環である建物だから可能になる。笑門スタヂオは生活文脈やローカルプロジェクトにおける社会実験の拠点。

実際に訪問して「これは面白そうだぞ」というのはすぐに感じました。四方を壁に囲まれたオフィスじゃない、開放感のある環境で仕事をしている感じが気持ちよさそうですね。

三澤:近所に住んでいる人たちが「何のお店ですか?」って、覗きに来ることもあるんですよ(笑)。

そんなふうに人の興味をひきつける建物っていうのも面白いですね。笑門スタヂオのある場所が、ただ建てられたわけではなく、地域としての文脈を持っているのも関係していそうです。

三澤:笑門スタヂオは、大森ロッヂという昭和の木造住宅をリノベーションしてつくり上げた街角再生プロジェクトの建物のひとつでもあるので、この地域の人たちと関わりながら活動を行うことも考えています。グラグリッド自体が、昨年10周年を迎えた節目でもあり、「人々の喜び(グラッド)をつなげる(グリッド)」の社名に立ち返って、「グラグリッドのあるべき姿って何だろう」というのを問い直してくれる機会にもなりました。

日中はスタジオいっぱいに日が差し込むし、気温に合わせて暑さ寒さもダイレクトに感じる。ごみ捨てでおばあちゃんと会話したり、ちょっと雑草が気になって朝早くに草むしりすることもあります。ビルに囲まれた環境とは異なるライフスタイルになって、「生活を豊かにするデザインって何だろう?」と、私自身のデザイナーとしてのキャリアを見つめ直すきっかけにもなっています。グラグリッドのメンバーそれぞれも、自身のつくり出す価値について向き合う機会にもつながっています。

古民家の風情を残したまま開放的にデザインされた空間

グラグリッドが仕事をご一緒しているお客さんの反応はどうですか?

三澤:写真で見て興味を持ってくださる方は多いですね。コロナ禍を経験して皆さんオンラインでのミーティングには慣れているので、対面でやるなら何かしら面白いことや、ちょっとした付加価値が必要になってきてると思うんですけど、笑門スタヂオはそういった意味でも貴重な体験を提供してくれています。

話を聞けば聞くほど、いわゆるオフィスとは違いますよね。笑門スタヂオをどう捉えているんでしょうか。サードプレイスみたいな感じですか?

それも違う気がしていますね。オフィス・プライベート・第三の場所、それぞれがゆるくつながっている感じかもしれません。 今日もこのあと飲み会に突入するので(笑)、取材しているこの空間が家で鍋を囲むみたいな感じになると思うんですよ。

「笑門スタヂオ」という名前にしたのは、オフィスじゃないねって話して決めました。カチッとしたスタジオではなく、リビングスタジオみたいなイメージですね。身体感覚を持って何かをつくり出すみたいな意味合いがあります。

生活文脈、生活世界に根ざした実験ができそうですし、グラグリッドが今やりたいこと、面白いと思っていることを、笑門スタヂオを通じて社会の中で試してみてもいいかもしれません。笑門スタヂオは、そういった試行錯誤の拠点になりうるはずです。

まだオープンして1カ月過ぎたくらいですが、実際に何かしらのワークショップなどで利用されたのでしょうか。

三澤:この前、専修大学の上平先生と地域の廃材を使ってランタンをつくるワークショップを開催しました。近所の製作所から出た端材とか、ふすま屋さんで要らなくなった資材なんかをフィールドワークで集めてランタンをつくったんです。できあがったランタンを飾りながらお酒を飲んでいると、大森ロッヂの人たちも「何やってるの?」とやって来て、一緒にランタンを眺めて楽しむ空間ができあがったんですよね。この様子を見て、笑門スタヂオは共創の場として機能しそうだ、という感触がありました。

土間のある空間でものづくりを行うワークショップの様子

また笑門スタヂオはいろいろな拠点をつなぐハブにもなりそうな気がしています。グラグリッドは埼玉県寄居町でもローカルプロジェクトを始めているんです(寄居町のコ・デザイン探究拠点、そのリノベーションの現場をレポート!|グラグリッド編集部|note)。寄居町でお土産をつくるワークショップをやっているんですが、笑門スタヂオとオンラインでつないで東京のデザイナーと一緒にコラボレーションしてみるとか。私たちも笑門スタヂオでローカルプロジェクトを実践しているので、気軽なお隣さんみたいな感覚で、同じ目線でいろいろできると思うんです。

曲がり角に位置する丸見えのスタヂオ空間

可能性がいろいろ見えてきているんですね。今後はどういった活用を考えていますか?

三澤:ワークショップを試す場としてもあり得ますし、これからいろいろと活用の方向を模索していきたいんですけど、社会実験の拠点として考えています。新しいことをやってみたい企業さん、地域のコミュニティに入ってビジネスをしていきたい企業さんっているんですよね。そういった企業の人たちが、笑門スタヂオをきっかけに動き出せるといいなと思います。グラグリッドが何かをやりますとか、何かをつくりますということではなくて、そもそも一緒に探究しませんか、実験しませんかという取り組みの拠点にしていきたいです。

大森ロッヂ/笑門の家について
大森ロッヂは、大森にある昭和の趣を残す8棟の木造住宅を順次リノベーションして形作られました。笑門の家は、大森ロッヂ全体の門として2022年に新たに建てらた建物です。
”古いお家の一部を半外部化するという試みで、住む人の小商いや趣味などが、笑顔とともに街角に自然に表れる設計になっています。”

大森ロッヂ公式サイトより

取材/文
佐伯 幸治



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