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「靴ひも」"Lacci"(2020)

イタリア映画際2021 3作目

「靴ひも」"Lacci"(2020)ダニエーレ・ルケッティ監督。日本語字幕は関口英子先生。原作のドメニコ・スタルノーネ同名作品の翻訳も関口英子先生によるものだ。翻訳家という立場で同じ作品を2回翻訳したのは、本当にわくわくするような経験だったのではないだろうか。(本作品のセリフは哲学的な言葉が多く、長台詞も多いから、限られた字数の中で実際は苦労されたと思う)

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私は原作を読んでいない。(この映画を見た後すぐ読んでみたいと思って買った。)そのため純粋に映画だけの話となる。そしてこの映画は時系列が行ったりきたりするし、語り手が2回変わる、全部で三部構成になっている。(どうやら小説も同じ構成のようだ)その切替は映画内ではスタイリッシュに行われている。

ミステリーではないけれども、結果から回想される形式で少しずつ真相が暴かれる展開の仕方は観客をどきどきさせる。おそらくこの形式を小説で採用したことも面白い試みなのだと思うが、映画でこの構成の再現を試みたことはある意味挑戦的であったと考える。一見タイプの違う大物役者をこんなに多人数そろえたのもそのためである。普通なら大人は4人でできた。

ストーリー展開が肝であるものの、小説を事前に読まずに見てもいいし、小説を読んでから見ても納得しながら見れそうである。

テーマとしては特に目新しいものではなく、何かをきっかけに歯車がずれ、家族の中に生まれてしまった歪みという存在についてなのだが、それにずっと縛られ続けているというのが、このタイトルの「靴ひも」の意味の一つである。

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また夫の浮気による家庭崩壊という重い題材であるにもかかわらず、どこか軽快なのはおそらく小説もそうなのだが、それを再現できたのはダニエーレ・ルケッティ監督のまさになせる技だと思う。彼はナンニ・モレッティとよくタッグを組んで映画を撮っていた。(助監督や監督、エキストラ出演もしていた。「エイプリル」という映画ではナンニがイライラしていて誰かに喧嘩を売りたいというフラストレーションがたまっているところに喧嘩相手の餌食にされるというシーンでルケッティ監督はカメオ出演している)そしてこれまたナンニ映画に欠かせないシルヴィオ・オルランドもこのいろいろとあきらめた中年男、適役である。

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そしてジョバンナ・メッゾジョルノの中年の女たるや。あんなに美しかったのに、あれは役作りで太ったのだろうか。シニカルで、いろいろ抱えて生きてきた、そんなことが一眼でわかってしまうような、これもまた上手だった。

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女性陣、男性陣、それぞれ紐で繋がるように、本来違う人なのにどこか似ているようにできている。なんだか全然違う役柄を普段演じていそうな人なのに。

そして最後にやっと靴ひもを解く作業をしたのである。




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