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106)デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の抗老化・寿命延長作用

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術106

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【高齢男性の男性ホルモンの補充は寿命を延ばす】

男性ホルモンの補充が寿命を延ばすかどうかに関しては相反する意見があることを前回(105話)解説しました。
 
医療が発達し、栄養状態や衛生状態が良い状況では、多くの人は天寿(生理的寿命、最大寿命)を全うし老衰で死亡します。体の虚弱(老衰)が死因の多くを占める先進国の高齢化社会では、高齢男性における男性ホルモン補充は寿命を延ばすと一般に考えられています。
 
高齢者では、筋力や心肺機能の低下による身体活動の低下、免疫力低下による感染症、認知機能の低下、骨密度低下による骨折、膵臓内分泌機能の低下による糖尿病、腎臓機能の低下など、老化にともなう諸臓器機能の低下が死因になります。このような場合は、高齢男性では男性ホルモンの補充による筋力や骨密度の強化、心肺機能や腎臓機能の向上、免疫力や認知機能の向上などは寿命を延ばすことになります。
 
昨今の新型コロナウイルス感染症で高齢者の死亡が多いのは、免疫力や諸臓器機能や体力の低下によって、ウイルス感染に対する防御力が低下しているためです。体力や心肺機能や免疫力を高める治療を行わないと、いくらワクチンを打っても死者を減らすことはできません。免疫細胞の機能が低下している高齢者にワクチンを接種しても、抗体は十分に上がりません。



【デヒドロエピアンドロステロンは性ホルモンの前駆物質】

私たちの体内では、様々なホルモンが生理機能を調節しています。ホルモンというのは、体内において特定の器官で合成・分泌され、血液など体液を通して体内を循環し、別の決まった細胞で生理機能を発揮する生理活性物質です。

デヒドロエピアンドロステロン(Dehydroepiandrosterone:DHEA)は、女性ホルモン(エストロゲン)および男性ホルモン(テストステロン)の前駆物質です。主に副腎皮質や肝臓、精巣でコレステロールから合成され、大部分は硫酸抱合体(Dehydroepiandrosterone-sulfate:DHEAS)として血中に分泌されています。(下図)


図:デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)はコレステロールから副腎皮質で合成され、硫酸抱合されデヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEA-S)となる。DHEAは男性ホルモン(テストステロン)や女性ホルモン(エストラジオール)に変換される。



【デヒドロエピアンドロステロンは加齢とともに減少する】

デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の分泌量は思春期に急激に高まり20代でピークを迎えますが、その後急激に分泌量が減少し、40代では約半分、70 歳から 80 歳までには若年者のレベルの 10% から 20% まで低下し、80代ではほとんど分泌されなくなってしまいます。(下図)


図:ヒトの生涯にわたる循環デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩 (DHEAS) レベルの変動。 妊娠中、DHEAS の胎児レベルは次第に上昇して出産時にピークに達し、出生後は急速に低下する。 5 ~ 6 歳になると、DHEAS レベルは再び上昇し、成人期初期にピークに達し、その後低下する。 成人期の循環 DHEAS レベルにも性差が見られ、女性よりも男性の方が高い。 (参考文献:Endocrinology 146(8):3605-3613)

DHEA と DHEA硫酸塩(DHEAS) は、人間の中で最も豊富なステロイドです。DHEAS は、血清中の遊離 DHEA の約 250 倍存在します。脳、骨、乳房、脂肪などの標的組織では、DHEAS はスルファターゼ酵素によって DHEA に変換され、さらにアンドロステンジオール、アンドロステンジオン、エストロン、テストステロン、ジヒドロテストステロン、17β-エストラジオールに代謝されます。

DHEAとDHEASの最高濃度は、20 歳から 30 歳の男性で観察され、10 歳ごとに約 10% ずつ徐々に減少します。

加齢に伴うDHEAの分泌量減少が関連する症状として、認知機能や記憶力の低下、幸福感の低下、うつ病の増加、骨密度の低下、肥満・糖尿病・心血管疾患の増加、性欲の低下などが報告されています。

例えば、イタリアの65歳から97歳の男性436人と女性544人を対象に、血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩 (DHEAS) レベルの低下と、年齢、ライフスタイル、一般的な健康状態の指標、および特定の疾患との関連性を調査した研究報告があります。(以下の論文)

Dehydroepiandrosterone-sulfate serum levels and common age-related diseases: results from a cross-sectional Italian study of a general elderly population.(デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩の血清レベルと一般的な加齢関連疾患:一般高齢者集団に関するイタリアの横断研究の結果)Exp Gerontol. 2002 May;37(5):701-12.

この研究では、健康な男性と比較して、心房細動、慢性閉塞性肺疾患、認知症、パーキンソン病、がん、糖尿病、甲状腺機能低下症の男性、および入院中の男性では、年齢調整された血清 DHEASレベルが有意に低いことが明らかになっています。

また、「血清 DHEAS濃度の低下と現在の投薬数が関連する」という結果も得られています。これは、「血清 DHEAS濃度の低いほど多くの薬を飲んでいる」ということで、血清 DHEAS濃度の低い人は多くの病気を持っていることを示唆します。つまり、高齢者では、血清中のデヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEAS)の低値は、体の老化や虚弱や老化関連疾患の発症を起こしやすい状態にあることを示唆しています。
 
DHEAの低下は、特に男性では心房細胞のリスク、女性では骨粗鬆症のリスクの上昇と関連していました。
 
中年および高齢者を対象としたデヒドロエピアンドロステロン補給の臨床試験では、これらの症状の改善が報告されています。

高齢になりDHEAが体内で合成されなくなってくると、男性ホルモンや女性ホルモンの合成量が低下するために老いるという考えがあります。そこでこれらの性ホルモンの元となるDHEAを補なって体を若返らせようというのがDHEAをサプリメントとして補う主な目的です。

米国では、体内で分泌量が減少したDHEAを補うと若さが戻り、性欲と性機能もアップする「若返りのサプリメント」あるいは「スーパーホルモン」として人気があります。



【デヒドロエピアンドロステロンの低下は男性の心房細動の発症率を高める】

心房細動とは、心房内に流れる電気信号の乱れによって起きる不整脈の一種で、心房が痙攣したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる病気です。加齢とともに発症率が高くなり、70代では約5%、80代では約10%の人が、心房細動を起こすと言われています。
 
年齢の増加は、心房細動の最も強力なリスク要因の 1 つであり、加齢は血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEAS)レベルを低下させます。血清中のDHEAS レベルが高いほど男性の心房細動リスクが低いことと関連することが報告されています。(以下の論文)

Circulating sex hormones and risk of atrial fibrillation: A systematic review and meta-analysis.(循環性ホルモンと心房細動のリスク:系統的レビューとメタ分析)Front Cardiovasc Med. 2022 Aug 22;9:952430.

この報告では、男性では血中のデヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEAS)レベルの低下が心房細動の発症リスクを高めることを示しています。しかし、テストステロンやエストラジオールの値は心房細動の発症リスクとは関連がないことを示しています。これは、デヒドロエピアンドロステロンによる心房細胞の予防効果のメカニズムは、性ホルモンとは関係ないことを示唆しています。



【デヒドロエピアンドロステロンの低下は死亡率を高める】

デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)レベルの低下は、アテローム性動脈硬化症、心不全、心血管合併症、および全体的な死亡率のリスクを高めることが研究によって示されています。動物実験では、DHEAの補充は寿命を延長する効果が報告されています。
 
人間でも、DHEAの低下が死亡率を高める結果が報告されています。以下のような報告があります。

Serum dehydroepiandrosterone sulfate levels predict longevity in men: 27-year follow-up study in a community-based cohort (Tanushimaru study)(血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩レベルは男性の寿命を予測する:地域に根ざしたコホートにおける27年間の追跡調査(田主丸研究))J Am Geriatr Soc. 2008 Jun;56(6):994-8.

田主丸町というのは福岡県久留米市の東部の町で、現在は久留米市に編入されています。この疫学研究は久留米大学医学部循環器内科からの報告です。
 
この研究では、940 人の被験者 (男性 396 人、女性 544 人、年齢 21 歳から 88 歳) が 1978 年に健康診断を受け、すべての被験者の血清 DHEAS レベルが測定され、被験者は 2005 年まで定期的に追跡されました。
 
その結果、DHEASの高値は男性における寿命延長と関連していましたが、女性では関連は認められませんでした。つまり、男性では、血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩レベルが高いほど寿命が長いという関連があるという結果です。
 
18件の研究のメタ分析の結果、デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩 (DHEAS)レベルが低いほど、全死因死亡、致命的な心血管イベント、および非致命的な心血管イベントのリスクが有意に増加することがわかりました。DHEAS レベルが低い心血管疾患患者は、DHEAS レベルが高い患者よりも予後が悪い可能性を指摘しています。(以下の論文)

Prognostic Value of Dehydroepiandrosterone Sulfate for Patients With Cardiovascular Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis(心血管疾患患者に対する硫酸デヒドロエピアンドロステロンの予後的価値:系統的レビューとメタ分析)J Am Heart Assoc. 2017 May 5;6(5):e004896.

デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の積極的な投与が加齢に伴う障害の予防と治療に役立つかどうか、寿命を延長できるかはまだ明らかではありません。
 
「血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩レベルが高いほど寿命が長い」という結果は、「血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩レベルが高い状態」が「体全体の組織や臓器の機能が良い状態」を意味する指標に過ぎないかもしれないからです。
 
全身の臓器・組織の状態が良いから、デヒドロエピアンドロステロン値が高く、寿命も長くなるというだけの関係かもしれないからです。
 
デヒドロエピアンドロステロンが寿命を延ばす効果があるかどうかは、サプリメントでデヒドロエピアンドロステロンを補充するランダム化比較試験を行う必要があります。



【デヒドロエピアンドロステロンの補充は抗老化作用がある】

デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の作用は、より強力な性ホルモンであるテストステロンとエストラジオールへの変換を介して仲介されるホルモン作用と従来考えられてきました。これにより、アンドロゲンとエストロゲンの受容体が活性化され、それぞれのホルモン効果が誘発されます。
 
しかし、最近の研究は、DHEA の作用が他の複数の受容体にも関与していることが示されています。例えば、DHEAは血管内皮細胞のeNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)を活性化しますが、このeNOSの活性化はエストロゲン、アンドロゲン、またはプロゲステロン受容体のアンタゴニストによって阻害されず、DHEA による eNOS の活性化が別の特異的受容体及びシグナル伝達系を介することが明らかになっています。

DHEAは血液脳関門を容易に通過します。動物実験では、DHEAが5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)ニューロンの活動を増加させ、この効果が抗うつ作用と関連していると報告されています。

また、ドーパミン、グルタミン酸、γ-アミノ酪酸などの神経伝達物質も影響を受けることが指摘されており、これが気分や幸福感の向上と関連している可能性が示唆されています。気分障害や抑うつに対する改善効果も、性ホルモンとは関連のない効果と思われます。
 
DHEA は、血中コルチゾールのレベルを低下させます。コルチゾールの増加は、高齢者の身体的ストレスに続く免疫力の低下に寄与する可能性があり、認知障およびストレス関連の精神障害の発症にも寄与する可能性があります。慢性的に上昇したコルチゾールのレベルは、肥満、糖尿病、心臓病、気分障害、および記憶障害の発症を促進します。コルチゾールは筋肉組織を分解し、複数のメカニズムを介して精巣のテストステロン合成を抑制します。
従って、DHEAは高齢者における免疫力低下や筋力低下を抑制し、がんや感染症や心臓病や糖尿病を減らし、全死因死亡率を低下させます。
 
デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)のサプリメントは気分、活力、幸福感を高め、様々なストレスに対する抵抗力を増強させると言われています。

DHEAは、筋肉を増強し、体脂肪を減少させ、運動能力を向上し、免疫機能を高め、性欲を高める効果など、体全体を若返らせる効果があります。さらに、コレステロール値を下げ、アルツハイマー病患者の脳機能を改善し、全身性エリテマトーデスの症状を軽減します。

DHEAの低下は気分障害およびうつ病の発症と関連しており、DHE​​Aの補給は、男性と女性の両方において気分と幸福感にプラスの効果を示します。
DHEA は血管平滑筋の弛緩に関与しています。内皮機能不全は、アテローム性動脈硬化症および心血管疾患の病因に寄与し、インスリン抵抗性の発症につながります。DHEA は主に内皮細胞に独自の受容体を持っているため、その投与は、内皮依存的に血管拡張作用を有します。
 
DHEA は、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化を介してカリウム チャネルを活性化し、一酸化窒素 (NO) 合成の増加を介して内皮機能を高め、最終的に動脈を拡張することが示されています。血管内皮細胞からの一酸化窒素(NO)放出の増加は、勃起不全の改善作用とも関連しています。女性では、DHEA は性的満足度、生殖能力、および加齢に伴う膣の萎縮を改善します。

高齢者では、DHEA は免疫調節作用を発揮し、単球、T 細胞受容体ガンマ/デルタ (TCRγδ) を発現する T 細胞、およびナチュラル キラー (NK) 細胞の数を増加させます。
 
筋力と骨密度を高め、体脂肪と加齢に伴う皮膚萎縮を減らし、プロコラーゲン/皮脂の生成を刺激します。

全身性エリテマトーデスでは、DHEA はステロイドを節約します。非盲検研究では、炎症性腸疾患患者の大部分で寛解を誘発しました。
 
DHEA/DHEAS は、喘息やアレルギーを予防するようです。T ヘルパー 2 アレルギー性炎症を軽減し、好酸球増加症と気道過敏性を軽減します。
DHEAの抗老化作用については下図にまとめています。


図:デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は様々な臓器・組織をターゲットにして多彩な抗老化作用を発揮する。

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