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41)地中海料理は健康寿命を延ばす(その2):ミトコンドリア新生の活性化

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術41

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【体の若返りは可能】

 アンチ・エイジング(anti-aging)は「抗老化」や「抗加齢」と訳されています。「加齢」とは、ヒトが生まれてから死ぬまでの時間経過をいいます。「老化」とは、体が成長した後に起こる加齢に伴う生理機能の低下です。
 

加齢は年齢(生まれてからの経過時間)によって決められる現象なので、過去に遡るような「若い年齢に戻る」ことは不可能です。つまり、60歳の人が20歳になることはできません。過去に過ぎ去った時間を元に戻すことは、物理的に不可能です。
 

そこで、老化が加齢に伴う生理機能の変化であれば、体を若い状態に戻す「若返り」は不可能ということになります。このような考えから、一昔前までは、「若返り」という言葉は医学的・科学的に間違いだから使うべきでは無いという意見もありました。老化の速度を遅らせることはできるが、時間を過去に遡る「若返り」はできないという意見です。
 

しかし最近は、「体の若返りは可能」という意見が主流になってきました。皮膚細胞などの体細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作成が可能になりました。iPS細胞は、成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化する、つまり細胞の時間を巻き戻すことが可能なことを示しています。細胞レベルでは若返りは可能です。細胞レベルで若返りができれば、細胞が集まった組織や臓器や体の若返りも可能といえます。
 

生体には、怪我や病気をしても元の状態に戻す自然治癒力や回復力があります。血管年齢や脳年齢という言葉があるように、血管や脳などの組織や臓器を若い状態に戻す治療も行われるようになりました。つまり、年齢を若くはできなくても、体を若くすることは可能です。
 

これからの医療では、再生医療や遺伝子治療や医薬品を使った積極的な若返り治療が実践できるようになると予想できます。


【ミトコンドリアの品質を良くすることができる】

 加齢に伴って低下する細胞機能や生体機能を若い状態に引き上げることができれば、細胞や組織や臓器を若返らせることができます。
 

細胞の機能低下を回復する方法としてミトコンドリアの品質が重要なターゲットになります。ミトコンドリアの完全性を維持し、正常なミトコンドリア機能を確保するために、細胞内ではミトコンドリアの品質を管理するメカニズムが存在します。ダメージを受けたり古くなったミトコンドリアを廃棄し、新しいミトコンドリアを増やすことによって、細胞内のミトコンドリアを若返らせています。

細胞に備わったミトコンドリア品質管理システムを利用して、ミトコンドリアの正常な機能を回復させ、損傷したミトコンドリアの構成要素を排除および交換することにより、ミトコンドリアの機能を正常化させ、病的な細胞を正常に戻すことができます。

細胞内でミトコンドリアが新しく生じることをミトコンドリア新生 (Mitochondrial biogenesis)と言います。
 

ダメージを受けて機能異常を起こしたミトコンドリアはミトコンドリアに特異的なオートファジーによる除去システムのミトファジー(mitophagy)によって分解され、新しいミトコンドリアがミトコンドリア新生(mitochondrial biogenesis)によって作られます。

古くなったミトコンドリアをミトファジーで分解し、新しいミトコンドリアを増やすと、細胞内のミトコンドリアは若返ることになります。その結果、細胞自体も若返ります。

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図:ダメージを受けたり、古くなったミトコンドリアはミトファジーによって分解され、正常なミトコンドリアが分裂して数を増やすことができる。このようにして、ミトコンドリアの品質を良い状態に維持し改善することによって、老化の抑制や若返りや寿命延長が達成できる。


【レスベラトロールは長寿遺伝子サーチュインを活性化する】

 地中海料理に多く含まれるスペルミジンなどのポリアミンにはミトファジーを亢進する作用があることは前回(40話)解説しました。
 

さらに、地中海料理にはミトコンドリア新生を促進する成分も豊富です。その代表が赤ブドウやブルーベリーなどに多く含まれるレスベラトロールやプテロスチルベンです。その他、野菜や果物に多いポリフェノール類もミトコンドリア新生を亢進します。

植物は、外敵(病原菌など)や過酷な外的環境(紫外線や熱や重金属など)に打ち勝つために、様々な生体防御物質を合成しています。植物体に病原菌や寄生菌が侵入したときに植物細胞が合成する抗菌性物質をファイトアレキシン(phytoalexin)と言います。
 

アンチエイジング(抗老化)の領域で注目されているレスベラトロール(Resveratrol)もファイトアレキシンの一つです。レスベラトロールはスチルベン合成酵素によって合成されるスチルベノイド(スチルベン誘導体)の一種です。
 

気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されます。赤ぶどうの果皮や赤ワインに多く含まれています。その他、ラズベリー、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)、イタドリなどにも含まれます。

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図:レスベラトロールは気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されるポリフェノールの一種。赤ぶどうの果皮や赤ワインに多く含まれている。その他、ラズベリー、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)、イタドリなどにも含まれている。

レスベラトロールは1939年に発見されていますが、その健康作用が報告されるようになったのは1990年代に入ってからです。フランス人はチーズやバターや肉類やフォアグラなど動物性脂肪を多く摂取しているのに、他の西欧諸国と比べて心臓病の死亡率が低いことが知られており、これは「フレンチパラドックス」と呼ばれています。
 

その理由として、赤ワインに豊富に含まれるポリフェノール類による抗酸化作用が指摘され、特にレスベラトロールの効果が注目されました。
 

レスベラトロールの抗酸化作用や心臓保護作用や動脈硬化予防効果などの観点からの研究は1993年頃から報告されるようになり、赤ワインに含まれるレスベラトロールの抗酸化作用や血小板凝集抑制作用がフレンチパラドックスの原因であると考えられるようになりました。

その後の研究でレスベラトロールのユニークな作用機序が次々と明らかになり、その一つが長寿遺伝子「サーチュイン」を活性化するという作用です。
 

寿命を延ばす確実な方法としてカロリー制限があります。カロリー制限は、栄養不良を伴わない低カロリー食事療法で、霊長類を含む多岐にわたる生物種において老化を遅延させ、寿命を延長させることが知られています。このカロリー制限のときに活性化されて寿命延長と抗老化作用に関与するのがサーチュイン遺伝子です。このサーチュイン遺伝子を活性化する作用がレスベラトロールにあることが2003年のNatureに報告されました。(Nature. 2003 Sep 11;425(6954):191-6.)
 

マウスに高脂肪・高カロリー食を与えると寿命が短くなりますが、このときレスベラトロールを摂取させると寿命の短縮が防げるという報告が2006年のNatureにハーバード大学の研究グループから発表されています。(Nature. 2006 Nov 16;444(7117):337-42.)

2006年にはレスベラトロールがサーチュイン1(SIRT1)とPGC-1αを活性化することによってミトコンドリア機能を活性化し、代謝性疾患を予防することがフランスの研究グループから報告されています。(Cell. 2006 Dec 15;127(6):1109-22.)

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図:レスベラトロールは、カロリー制限や運動と同様にサーチュイン遺伝子(SIRT1)を活性化する(①)。サーチュイン1の活性化はストレス抵抗性を亢進し(②)、PGC-1αを脱アセチル化して活性化し(③)、ミトコンドリア新生を促進し(④)、ミトコンドリア機能を高める(⑤)。このような作用は、抗老化・寿命延長やがん予防の効果を発揮する。


【地中海料理はミトコンドリアの品質管理を亢進して老化を抑制する】

 地中海式の食事は、果物や野菜からの広範囲の抗酸化物質、ポリフェノール(レスベラトロール、プテロスチルベンなど)、スペルミジンの摂取、および魚介類(アスタキサンチン、健康な脂肪酸)の中程度から大量の摂取が特徴です。
 

オリーブオイルも大量に摂取します。オリーブオイルにはポリフェノール類、フラボノイド、リグナンなどの抗酸化作用や抗炎症作用やがん予防効果を持った成分が豊富に含まれます。オリーブオイルに含まれるオレウロペインやヒドロキシチロソールなどのポリフェノールはオートファジーを活性化することが報告されています。
 

スペルミジンは、微生物、植物、動物を含むすべての生細胞に存在するポリアミンです。スペルミジンは、ピーマン、カリフラワー、ブロッコリー、ナッツ、小麦胚芽、キノコ、大豆などの植物由来食品に含まれます。チーズや赤ワインにも多く含まれます。

スペルミジンは、抗酸化作用、抗炎症作用、心臓保護作用、脳機能改善作用があります。外因性スペルミジンの投与がオートファジーを亢進して老化を抑制する作用が報告されています。

海藻類や魚介類に多く含まれるアスタキサンチンはカロテノイドの一種です。アスタキサンチンがオートファジーを活性化することが報告されています。
 

地中海料理はオートファジーを活性化する成分が豊富な食事で、この作用が抗老化や寿命延長と関連していることが指摘されています。
 

さらに、レスベラトロールを含め、フラボノイド類など多くの植物成分がミトコンドリア新生を亢進することが報告されています。つまり、地中海料理はミトコンドリアの品質を良くする作用によって、抗老化や寿命延長効果を発揮するといえます。(下図)。

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図:地中海料理には古くなったミトコンドリアを分解するミトファジーと、新しいミトコンドリアを増やすミトコンドリア新生の両方のメカニズムを亢進する成分が豊富に含まれている。その結果、地中海料理は老化抑制や寿命延長の効果を発揮する食事となっている。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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