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51)アルカリ食は運動パフォーマンスを向上する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術51

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【野菜や果物は体をアルカリ化し、肉は酸性化する】

 水の中に物質が溶けていると、その水溶液は酸性、中性、アルカリ性のうちのいずれかの性質を示します。水溶液中に存在する水素イオン(H+)が多いほど酸性になります。

水素イオン指数(pH)は水素イオンの濃度を表す物理量で、水素イオン濃度の逆数の常用対数で示されます。水溶液のpHが7より小さいときは酸性、7より大きいときはアルカリ性、7付近のときは中性になります。pHが小さいほど水素イオン濃度は高く、pHが1減少すると水素イオン濃度は10倍になります。逆にpHが1増加すると水素イオン濃度は10分の1になります。

体内のpHは非常に狭い範囲で厳密に制御されています。正常な動脈血のpHは7.35〜7.45という非常に狭い範囲で調節されています。このpHの調節は酸と塩基のバランスで行われます。「酸」というのは水素イオン(H+)を放出する物質で、「塩基」というのは水素イオン(H+)を受け取る物質です(図)。

図:酸は水素イオンを放出し、塩基は水素イオンを受け取る

血液・体液における酸塩基平衡の調節で最も重要なのが重炭酸緩衝系です。この系は、重炭酸イオン(HCO3-)が塩基となってプロトン(水素イオン)を受けとって中和してpHを一定に維持します。(図)。

図:体内で産生される水素イオンを重炭酸イオンが中和して炭酸になり、炭酸は二酸化炭素と水に変換され、二酸化炭素は肺から排出され、水は血液に拡散して血液・体液のpHが一定に維持される。

 
体内の酸塩基平衡は食事の影響を受けることが知られています。食品は栄養成分に応じて体に酸性またはアルカリ性の負荷をかけますが、体はこの負荷をすばやく緩衝して、安定した血液pHを維持します。

高タンパク食品は、有機酸と硫酸の生成を増加させ、酸の負荷を増加させます。これらは主に肉、魚、乳製品、穀物です。

一方、クエン酸カリウムやリンゴ酸カリウムなどのカリウム塩が豊富な食品は、重炭酸カリウムに代謝され、アルカリ効果があります。これらは主に果物と野菜です。

果物や野菜などのアルカリ食品が少なく、肉や魚や乳製品などの酸性食品を多く含む食事は、血液が酸性に傾いた状態(代謝性アシドーシス)を導き、そのことが様々な病気の発症に影響を与える可能性が指摘されています。


【食事性酸負荷とは】

 アルカリ食の一般的な概念は、血液をアルカリ性にするというものですが、血液のpHは7.35から7.45のアルカリ性pHで非常に厳密に調整されているため、アルカリ食で体内がアルカリ化するわけではありません。同様に酸性食品で血液のpHが酸性状態に変化することではありません。血液のpH緩衝能は高いので、酸性食を多く摂取しても血液pHが酸性化することはありません。しかし、体内の酸塩基平衡において、酸性に傾いた状態に導きます。

食事の酸塩基バランスを表す指標に潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load:PRAL)があります。PRALは以下の式で算出されます。

 

PRAL(mEq/d)=0.4888×たんぱく質(g/d)+0.0366×リン(mg/d)-0.0205×カリウム(mg/d)-0.0125×カルシウム(mg/d)-0.0263×マグネシウム(mg/d)

 

つまり、食事中のタンパク質とリンの量はPRALを増やし、カリウム、カルシウム、マグネシウムはPRALを減らします。

動物性タンパク質は、イオウ含有アミノ酸であるメチオニンとシステインを多く含み、体内で硫酸と水素イオンを形成するため、食事の酸の最大の供給源です。水素イオンは、食事中のリン酸塩の代謝から食事中に提供されます。動物の肉や卵も、体内で水素イオンを形成するホスホセリン、レシチン、アンモニウムを大量に含む高リン脂質およびリン脂質です。したがって、動物性タンパク質、特に肉、卵、チーズは、体内で大量の酸を形成する原因となります。

果物や野菜は、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩などの有機アニオンを多く含み、体内で重炭酸塩に変換されます。重炭酸塩は、酸を中和する私たちの体の塩基です。したがって、動物性食品(肉、魚、乳製品)は正の潜在的腎酸負荷(PRAL)ですが、多くの植物性食品(野菜や果物)は負のPRALを持っています。(下表)。

表:様々な食品の可食部100g当たりの潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load:PRAL)を示す。PRALがプラス(赤字)は酸性食品で、マイナス(青字)はアルカリ食品になる。(出典:Nutrients, 2020 Apr; 12(4): 1007)


【アルカリ食は寿命を延ばす】

 日頃から摂取する食事の潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load:PRAL)が高いほど死亡のリスクが上昇する傾向が認められてます。国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC研究)からの報告では、スコアが最も低い群に比べ最も高い群では総死亡のリスクが13%増加していました。

死因別にみると、循環器疾患死亡との間で統計的に有意な関連を認め、潜在的腎臓酸負荷(P R A L)のスコアが最も低い群に比べ最も高い群において死亡リスクは16%増加していました。

他の研究でも、食事の酸性度が高いほど総死亡及び循環器疾患死亡のリスクが上昇することが報告されています。

酸性に傾いた食事が死亡リスクを高めるメカニズムははっきり分かっていませんが、こうした食事により、体重が増え、インスリン抵抗性が高まり、糖尿病・高血圧・脂質異常症といった疾患が引き起こされ、結果として動脈硬化が進むことが想定されています。したがって、野菜、果物、豆類といった体内のアルカリ度を高める食品を多く摂取することは循環器疾患の予防により健康寿命を伸ばす効果が示唆されています。


【アルカリ食は運動パフォーマンスを向上する】

体内をアルカリ化する重曹の摂取が運動パフォーマンスを向上することは前回(50話)紹介しました。アルカリ食でも同様な効果が報告されています。以下のような報告があります。

Enhanced 400-m sprint performance in moderately trained participants by a 4-day alkalizing diet: a counterbalanced, randomized controlled trial.(4日間のアルカリ化食による適度に訓練された参加者の400mスプリントパフォーマンスの向上:釣り合いのとれたランダム化比較試験)J Int Soc Sports Nutr. 2018 May 31;15(1):25.

 【要旨】

背景: 重曹(NaHCO 3)はアルカリ化剤であり、その摂取は嫌気性パフォーマンスを改善するために使用される。しかし、嫌気性運動パフォーマンスにおけるアルカリ化食の影響は不明である。本研究では、適度に訓練された成人における400 mのスプリントパフォーマンス、血中乳酸、血液ガスパラメータ、および尿のpHに対するアルカリ化食と酸性化食の影響を調査した。

方法: ランダム化クロスオーバーデザインで試験が行われ、活発に運動している11人(男性8人と女性3人、26.0±1.7歳)が、各個人の未変更の食事で1回の試行を行い、その後、4日間のアルカリ化食または酸性化食の後に試験が実施された。試験は、ランダムな順序でタータントラックを1週間間隔で400m走ることで実施された。

結果: 400m走のタイムは酸性食後(67.3±7.1秒)と比較して、アルカリ食後(65.8±7.2 秒)では大幅に短縮した(;p = 0.026)。さらに、血中乳酸(アルカリ食:16.3±2.7; 酸性食:14.4±2.1 mmol / L; p = 0.32)および尿pH(アルカリ食:7.0±0.7; 酸性食:5.5±0.7; p = 0.001)はアルカリ食の方が高かった。

結論: 短期間のアルカリ化食は、適度に訓練された参加者の400m走の運動パフォーマンスを改善する可能性があると結論付けることができる。さらに、アルカリ化食事では血中乳酸濃度が高いことを発見した。これは、血液または筋肉の緩衝能力が向上していることを示唆している。したがって、アルカリ化食は、人工的な栄養補助食品を摂取する必要なしに、アスリートの400mスプリントパフォーマンスを向上させる簡単で自然な方法である可能性がある。

 つまり、重曹の摂取やアルカリ食(野菜や果物が豊富で、肉や乳製品が少ない食事)によって水素イオンに対する緩衝力を高めることは、運動パフォーマンスを高める上で有効であり、さらに寿命を延ばす効果も期待できるといえます。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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