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92)糖質の分解を阻害するアカルボースは老化を遅くして寿命を延ばす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術92

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【糖質は単糖に分解されて消化管から吸収される】

米やパンや麺類やイモなどに多く含まれる炭水化物(糖質)は、糖がいくつも連なった物質です。このような糖が連なった状態では小腸から吸収されないため、糖を細かく切っていく必要があります。この時に働く酵素がアミラーゼです。アミラーゼなどの酵素が働くことで、糖が2つ連なった二糖類へと変換されます。
 
二糖類もまだ小腸から吸収されません。小腸から吸収されるためには、単糖類として1つの糖にまで分解される必要があります。そして、「二糖類 → 単糖類」への分解に関与している酵素がα-グルコシダーゼです。
 
そこで、このα-グルコシダーゼを阻害できれば、糖の吸収を阻害することができます。このような作用をする薬をα-グルコシダーゼ阻害薬と呼びます。α-グルコシダーゼ阻害薬としてアカルボースなどがあります。


図:食品中のデンプンなどの糖質はアミラーゼによって二糖類まで分解され、さらに小腸でα-グルコシダーゼによって単糖に分解されて小腸粘膜から体内に吸収される。α-グルコシダーゼ阻害薬は糖質の吸収を阻害することができる。



【α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースは寿命を延ばす】

前回の91話では「糖質制限は正常細胞の老化速度を遅くする」、「糖質制限は老化細胞を除去して、がん細胞の発生を抑制する」、「糖質制限はがん細胞の増殖を抑制する」ことを解説しました。

正常細胞の培養液にグルコースの量を増やすと老化が促進されることが報告されています。逆にがん細胞の場合は、グルコースの取込みと利用が亢進しているので、グルコースの量を増やすとがん細胞の増殖が促進されます。
 
つまり、正常細胞とがん細胞では、グルコース濃度に対する対応が全く異なります。

生体でも、高血糖はがん細胞の増殖を促進し、正常細胞の老化を促進します。したがって、糖質制限はがん細胞の増殖を抑制し、正常細胞の老化を抑制することになります。
 
がんの治療や再発予防やがんサバイバーにおける長期的な副作用(老化促進や2次がんなど)の予防に糖質制限が役立つことが示唆されます。
 
食事からの糖質摂取を減らすことで上記の効果が得られるのであれば、食品中の糖質の吸収を阻害するα-グルコシダーゼ阻害薬は、糖質制限と同様に、老化抑制やがん予防の効果が期待できると予測できます。

実際に、α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースが老化を抑制して寿命を延ばす効果、がんを予防する効果が報告されています。
 
例えば、以下のような報告があります。米国のシアトルのワシントン大学医学部からの報告です。

The antidiabetic drug acarbose suppresses age-related lesions in C57BL/6 mice in an organ dependent manner(糖尿病治療薬アカルボースは C57BL/6 マウスの加齢に伴う病変を臓器依存的に抑制する)Aging Pathobiol Ther. 2021 Jun 29;3(2):41-42.

【要旨】
アカルボースは、糖質の単糖への変換を阻害することによって血糖を下げるために使用される糖尿病治療薬である。マウスの寿命を延ばすことにより、老化防止薬としての有望性も示されているが、老化したマウスの短期治療の効果に関する研究は報告されていない。この問題に対処するために、生後20か月の C57BL/6 オスとメスのマウスに標準食、または 1000 ppmのアカルボースを添加した食事を3か月間与えた。この期間の後、老化の進行の遅延の有無を検討するために、加齢に伴う病変についてマウスを評価した。

結果は、アカルボースを投与されたマウスでは、心臓と腎臓の老化性病変が有意に減少したことが示された。これは、アカルボースが加齢に伴う心臓と腎臓の機能異常を抑制できることを示唆している。
 
 
 
C57BL/6マウスの平均寿命はオス826日、メス766日という報告があります。生後20ヶ月(600日)は人間の平均寿命を80歳とした場合の60歳前後に相当します。この年齢からでも糖質制限やアカルボースによる糖質吸収阻害は心臓や腎臓など臓器の老化性病変の進行を遅らせる効果が期待できるということです。
 
以下のような報告もあります。米国メイン州のジャクソン研究所、テキサス大学、ミシガン大学など多数の研究機関の共同研究です。

Acarbose improves health and lifespan in aging HET3 mice.(アカルボースは老化した HET3 マウスの健康と寿命を改善する)Aging Cell. 2019 Apr; 18(2): e12898.

【要旨の抜粋】
食後のグルコーススパイクを抑制する薬剤であるアカルボースがマウスの寿命を延ばすという以前の報告を追試するために、老化したHET3 マウスを使用して、400 ppm、1000 ppm、および2500 ppmの3つの用量でアカルボースの効果を検討した。

以前の報告と一致して、アカルボースの効果はオスの方がメスより大きく、オスの寿命の中央値を 1000 ppmで16% 、2500 ppmで 17% 増加させたが、メスでは1000 ppmで4%、2500ppmで 5%しか増加しなかった。
寿命に対する性別の影響は、体重や体脂肪量だけでは説明できない。オスよりもメスの方がアカルボースによって減少した。1,000 ppm のアカルボースは、オスの肺腫瘍を減少させた。

アカルボースの効果は、がんを含む老化性の病気に対する一過性の高血糖(グルコーススパイク)の影響へのさらなる注意を促し、ヒトにおけるアカルボースや他のグルコース制御薬の有用性を指摘している。
 
食事で糖が吸収されると血糖値が上昇します。血糖が上昇すると膵臓からインスリンが分泌されて血糖を低下させます。血糖値の急上昇や急降下は、血管の内壁に大きな負担をかけ、動脈硬化を引き起こす原因となります。
 
食後の血糖値が急上昇と急降下を起こす状態を「血糖値スパイク(グルコーススパイク)」といいます。スパイクは「とげ」を意味しますが、血糖値のグラフを見るとまさに「とげ」のような形になっています。


α-グルコシダーゼ阻害薬は糖の吸収をゆるやかにします。その結果、血糖値スパイクが抑制され、グルコースによる毒性が軽減されます。

グルコースの吸収を抑制するアカルボースは、ダイエットやカロリー制限のいくつかの側面を再現する薬です。食後のグルコースの急上昇が老化に寄与する可能性があることが示唆されていますが、この血糖値スパイクはアカルボースによって減少します。
 
アカルボースは、食後高血糖を予防するために臨床的に広く使用されています。アカルボースはα-グルコシダーゼを阻害するため、食事中の血糖値スパイクが鈍くなり、多糖類の消化速度が低下し、糖の取り込みが減少します。

さらに、分解されずに大腸に移行した糖質が腸内細菌の餌になり、腸内細菌叢を変化させる効果も報告されています。すなわち、アカルボースを投与されたマウスは腸内細菌による短鎖脂肪酸、特に酪酸が増えることが報告されています。酪酸などの短鎖脂肪酸が増えると寿命が延びることが報告されています。

つまり、アカルボースは糖質摂取の減少や血糖スパイクの抑制に加えて、腸内細菌の酪酸産生を増やす効果など、総合的に健康寿命を延ばす効果が期待できます。
 
 
私は、基本的にケトン食(低糖質+高脂肪食)を実践していますが、時々、糖質+アカルボースで息抜きしています。ただ、これは酪酸を増やすメリットもあるので、ケトン食を実践している人はアカルボースも利用すると良いかもしれません。アカルボースは糖質を食べていない時は服用する必要はありません。糖質を食べた時だけです。アカルボースは非常に安価です。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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