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9)高脂血症治療薬ベザフィブラートはミトコンドリアを増やす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術9

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【遺伝子発現を調節する核内受容体とリガンド】

 DNAの遺伝情報は、まずRNAポリメラーゼによってRNAに転写され、さらにRNAからリボソームでタンパク質に翻訳されます。
DNAにはプロモーターやエンハンサーといった転写を制御する領域があり、この領域に結合して遺伝子の転写を促進したり抑制したりするタンパク質を転写因子と言います。転写因子は単独で機能する場合もありますが、他のタンパク質と複合体を形成して転写活性を実行する場合もあります。

このようにして、遺伝子(DNA)の情報がmRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、さらにタンパク質が合成されることによって細胞の構造や機能に変化が生じる過程を「遺伝子発現」と言います。

つまり、転写因子というのは遺伝子発現を制御する機能を持つタンパク質です。

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図:細胞の遺伝情報は核の中の染色体に記録されている(①)。遺伝子の本体はデオキシリボ核酸(DNA)で、一つの細胞には46個の染色体があり、合計で約30億塩基対の塩基配列情報がDNAに記録されている(②)。遺伝子DNAがメッセンジャーRNA(mRNA)に転写されてタンパク質が作られるためには、RNAポリメラーゼや転写因子などの転写を促進する複数の因子が遺伝子の転写調節領域に結合する必要がある(③)。mRNAはリボソームでタンパク質に翻訳されてタンパク質が生成される(④)。このようにして遺伝子情報からmRNAとタンパク質が合成されて細胞の構造や機能に変化が生じる過程を「遺伝子発現」という(⑤)。


ホルモン(甲状腺ホルモンやステロイドホルモンなど)や脂溶性ビタミン(ビタミンAやビタミンD)や体内で生成される生理活性物質(脂肪酸やプロスタグランジンなど)によって遺伝子発現が調節される場合の転写因子として「核内受容体」というタンパク質があります。

核内受容体というのは、細胞核にあって、ホルモンなどが結合することでDNAの転写を調節している受容体タンパク質です。
核内受容体はリガンドが結合すると、構造の変化を起こして転写因子としての活性を持ちます。リガンド(ligand)というのは、特定の受容体(レセプター)に特異的に結合する物質のことです。

核内受容体群は,1つの原初遺伝子から分子進化した遺伝子スーパーファミリーを形成しており,そのメンバーはヒトゲノム解読の結果,48種存在すると推定されています。
ステロイドホルモンやビタミンAやビタミンDが特定の遺伝子の発現を調節できるのは、これらが特定の核内受容体への結合を介して、そのリガンド依存的な転写制御を発揮するからです。
 
核内受容体には、リガンドが結合していないときに細胞質にいるものと細胞核にいるものの2種類があります。前者はリガンドが結合すると核内に移行して遺伝子の転写調節領域に結合します。このクラスに分類される受容体としては、グルココルチコイド、アンドロゲン、プロゲステロン、エストロゲンなどの受容体があります。
 
後者はリガンド結合には関係なしに核内に局在し、核内でリガンドが結合すると、構造の変化が起こり、標的遺伝子の転写を活性化します。甲状腺ホルモン、オールトランス・レチノイン酸、9-シスレチノイン酸、ビタミンDなどの受容体があります。
 
いずれにしても、体内の様々な生理活性物質がリガンドとして特定の受容体に結合することによって遺伝子発現が調節されることになります。
 
また、単なる栄養素と思われていた脂肪酸や、胆汁酸などの代謝産物も核内受容体に結合し、遺伝子転写を制御していることが明らかになっています。
 
リガンドと同じ働きをする薬をアゴニスト(agonist)、リガンドの働きを阻害する薬をアンタゴニスト(antagonist)と言います。つまり、核内受容体のアゴニストやアンタゴニストは特定の遺伝子の発現を調節する薬になります。

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図:核内受容体にリガンドが結合すると受容体の構造に変化が起こり、核内に移行して遺伝子の転写調節領域に結合し、転写を調節する。


【ベザフィブラートは高脂血症治療薬】

 ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(Peroxisome Proliferator-activated Receptor :PPAR)は細胞の核内に存在する転写因子の一種です。
ペルオキシソーム(Peroxisome)はほぼ全ての真核細胞が持つ直径0.1-2マイクロメートルの球状の細胞小器官で、多様な物質の酸化反応を行っています。脂肪酸のベータ酸化、コレステロールや胆汁酸の合成、アミノ酸やプリン体の代謝などが行われています。

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図:真核細胞には様々な細胞内小器官が存在し、細胞内機能が分担されている。ペルオキシソームは、物質を酸化する様々な酸化酵素と、酸化反応によって生じる過酸化水素を消去するカタラーゼが多く存在する。


PPARは細胞内のペルオキシソームの増生を誘導する受容体として発見されましたが、その後の研究で、糖質や脂質やタンパク質などの物質代謝や細胞分化に密接に関連している核内受容体型の転写因子群であることが明らかになりました。

脂質や糖質の代謝を促進するので、PPARを活性化する物質は高脂血症や糖尿病の治療薬として臨床で使用されています。

PPARには3種類のサブタイプ(アルファ型、ガンマ型、デルタ型)があります。これら3種類のPPARを活性化する薬として高脂血症治療薬のベザフィブラートがあります。ベザフィブラートはPPARを活性化し、ミトコンドリア新生を亢進するPPARγコアクチベーター-1α(PGC-1α)の発現を増強することが知られています。


【PGC-1αを活性化するとミトコンドリアが増える】

 細胞内のミトコンドリアの増殖を刺激することによって、細胞内のミトコンドリアの数と量を増やすことができます。ミトコンドリアが増えることを「ミトコンドリア新生」や「ミトコンドリア発生」と呼んでいます。細胞内でミトコンドリアが新しく発生することです。通常、既存のミトコンドリアが増大して分かれて増えていきます。

ミトコンドリア新生で最も重要な働きを担っているのが、PGC-1α(Peroxisome Proliferator- activated receptor gamma coactivator-1α)です。日本語訳は「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α」です。

PGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子受容体γコアクチベーター1α)は転写因子のPPAR-γと結合して、PPAR-γの転写活性を高める因子として見つかりました。その後、PGC-1αは核内受容体を中心とするさまざまな転写因子と結合し標的遺伝子の発現を制御するタンパク質であることが明らかになっています。

PGC-1αはミトコンドリアの量やエネルギー供給の制御に中心的な働きを担っています。運動の様々な健康作用はPGC-1αによると言われています。PGC-1αはミトコンドリア新生を亢進します。つまり、PGC-1αを活性化すると筋力増強や抗老化など様々な健康作用が得られます。

AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)とサーチュイン-1はPGC-1αのリン酸化と脱アセチル化によってPGC-1αの活性を亢進し、ミトコンドリアの新生を促進します。

PPARのリガンド(フェノフィブラート、ベザフィブラートなど)やメトホルミンやレスベラトロールやカロリー制限やβヒドロキシ酪酸などはこのPGC-1αを活性化する作用があります(下図)。

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図:カロリー制限は体内のエネルギー低下によってAMP/ATP比とNAD+/NADH比を高める(①)。AMP/ATP比の上昇はAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し(②)、NAD+/NADH比の上昇はサーチュイン1(Sirtuin 1)を活性化する(③)。サーチュイン1はセリン・スレオニン・キナーゼのLKB1を活性化し(④)、LKB1はAMPKを活性化する(⑤)。AMPKはサーチュイン1を活性化する(⑥)。サーチュイン1はPGC-1αの発現を亢進する(⑦)。PGC-1αはミトコンドリア新生を亢進し、脂肪酸β酸化とTCA回路と酸化的リン酸化と糖新生とケトン体合成を亢進する(⑧)。メトホルミンやプテロスチルベンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体Iを阻害して、カロリー制限と類似のメカニズムでPGC-1αタンパク質の発現を亢進する(⑨)。ケトン体のβヒドロキシ酪酸やPPARのリガンドのベザフィブラートはPGC-1αたんぱく質の発現を亢進する(⑩)。ニコチンアミド・モノヌクレオチドとニコチンアミド・リボシドはNAD+を増やしサーチュイン1を活性化する(⑪)。


【ミトコンドリア新生を亢進するとミトコンドリア機能異常を改善できる】

高脂血症治療薬のベザフィブラートはPPARを活性化し、ミトコンドリア新生を亢進するPPARγコアクチベーター-1α(PGC-1α)の発現を増強します。ベザフィブラートでミトコンドリア新生を亢進し、ミトコンドリア機能を活性化すると、ミトコンドリアの機能異常を是正できるという報告があります。
 
ミトコンドリアDNAの変異などでミトコンドリアの酸化的リン酸化の活性が低下した細胞にベザフィブラートを添加すると、ミトコンドリアの量が増え、ミトコンドリアのタンパク質の合成が亢進し、酸化的リン酸化活性が上昇し、ミトコンドリアにおけるATP産生能を亢進することが培養細胞や動物実験で報告されています。

ベザフィブラートはミトコンドリア新生を亢進するだけでなく、さらに異常なミトコンドリアの分解(ミトファジー)を亢進して、ミトコンドリアの品質を良くできます。

PGC-1αの発現と活性を高める方法として、前述のようにカロリー制限や断食、メトホルミン、プテロスチルベン、ケトン体のβヒドロキシ酪酸、PPARのリガンドのベザフィブラート、NAD+を増やしサーチュイン1を活性化するニコチンアミド・モノヌクレオチドとニコチンアミド・リボシドなどがあります。
 
この様な方法を組み合わせてPGC-1αを活性化する方法はミトコンドリアを増やし、品質をよくできます。(図)

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図:PPARの汎アゴニストのベザフィブラートや、AMP活性化プロテインキナーゼやサーチュイン1を活性化するカロリー制限、断食、メトホルミン、プテロスチルベン、ケトン体のβヒドロキシ酪酸、ニコチンアミド・リボシド、ニコチンアミド・モノヌクレオチドはPGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)を活性化する。PGC-1αはミトコンドリア新生を亢進して新しいミトコンドリアを増やし、ミトファジーを亢進して異常なミトコンドリアの分解を亢進する。その結果、ミトコンドリアの品質を良好に維持する。


体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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