見出し画像

108)腸管粘膜バリアを強化すると体調が良くなる(その2):粘膜バリアを強化するアッカーマンシア・ムシニフィラ

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術108

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【腸管粘膜バリアが弱まると老化が促進される】

前回の107話では腸漏れ(リーキーガット)が身体のさまざまな不調と深い関係があることを解説しました。腸管上皮細胞は粘液を産生して細菌の侵入を防ぐバリアを作っていますが、この粘膜上皮バリアが壊れて隙間ができると、腸内にあるべき細菌や食物成分や老廃物が身体の中に入ってきます。この状態をリーキーガット(腸漏れ)と言います。

リーキーガットが続けば、体内で慢性的に炎症が起こります。リーキーガットが原因で起こる炎症は、糖尿病、高脂血症、肥満、認知症の進行を促してしまうと言われています。体内の慢性炎症は老化を促進します。
消化不良、下痢や便秘、疲労感、肌荒れ、抜け毛、不眠、記憶力低下、不安感、抑うつ、アトピー性皮膚炎、筋肉痛、関節痛といった様々な原因不明の身体の不調の原因に、リーキーガット(腸漏れ)が関与している可能性があります。
 
慢性的な軽度の炎症が多くの加齢関連疾患の発症に関与しています。リーキーガット(腸漏れ)が起こっていると、体内で慢性炎症状態が続きます。慢性炎症は炎症性サイトカインや活性酸素の産生を高め、これが体の老化や加齢関連疾患を促進することになります。


図:腸漏れ(リーキーガット)が起こると、体内に病原菌や食物抗原や異物や毒素などが侵入し、体内で慢性炎症を引き起こす。慢性炎症は炎症性サイトカインや活性酸素の産生を高め、老化を促進する。さらに、慢性炎症性疾患、心血管疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患、慢性疲労症候群、メタボリック症候群、糖尿病、がん、骨粗鬆症など様々な病気や体調不良の原因となる。



【腸内細菌のAkkermansia muciniphilaは大腸粘膜の粘液産生を増やす】

Akkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)はグラム陰性の偏性嫌気性細菌です。2004 年にオランダのワーヘニンゲン(Wageningen )大学でヒトの糞便中の新しいムチン分解微生物を探していたときに発見されました。属名のAkkermansiaは、オランダの著名な微生物学者Antoon Akkermansに由来します。
腸管細胞から分泌されるムチン(糖タンパク質)を唯一の炭素・窒素源として利用するユニークな特徴を持ちます。muciniphila は「ムチンを好む(mucin-loving)」という意味です。 その名前が示すように、結腸壁の粘液を食べて、粘液の絶え間ない再生を刺激することによって大腸の粘液バリアを維持します。


アッカーマンシア・ムシニフィラは結腸に多く、健康な成人では菌叢全体の0.5–5%を占めます。 アッカーマンシア・ムシニフィラはムチンに含まれるN-アセチルガラクトサミンやN-アセチルグルコサミン、スレオニンを重要な栄養成分とし、ムチン分解に関与する糖鎖加水分解酵素を持ち、ムチンをエネルギー源として、主にプロピオン酸や酢酸を生産します。
 
ムチンの分解自体は病原体のような挙動ですが、ムチンを分解することによってムチンの合成を刺激し、腸粘膜の粘液を増やす作用があります。さらに、この細菌は、ムチンを有益な副産物に変換することにより、宿主の腸内微生物バランスを維持している可能性が報告されています。
 
腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラの量が少ないと、粘膜が薄くなり、腸のバリア機能が弱まり、毒素が宿主に侵入しやすくなります。

現在、多くの病気や不健康状態が腸内細菌叢と密接に関連していることが報告されているため、腸内細菌を調節することで宿主の健康を改善することに大きな関心が寄せられています。腸内細菌をターゲットにした病気の予防や治療において、アッカーマンシア・ムシニフィラの役割に注目が集まっています。アッカーマンシア・ムシニフィラは、宿主の代謝機能と免疫応答の改善に重要な価値があることが明らかになり、有望なプロバイオティクスとして注目されています。


図:アッカーマンシア・ムシニフィラは生菌も死菌も人間において様々な健康作用を発揮する。 大腸では粘膜バリアを強化し、腸管免疫を高める。コレステロールを低下して動脈硬化を軽減する。脂肪組織の脂肪量を減らし、炎症を軽減する。インスリン抵抗性を低下し、血糖を低下し、糖尿病の発症を防ぐ。脂肪肝や肝炎を軽減する。



【水溶性食物繊維とドコサヘキサエン酸はアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす】

適切な食品でアッカーマンシア・ムシニフィラの成長を刺激し腸管内の量を増やすことは可能です。特に、消化されずに腸に到達する水溶性食物繊維は、 アッカーマンシア・ムシニフィラを元気にするのに役立ちます。水溶性食物繊維は人体の小腸内ではグルコースなどの単糖に分解されず、腸内細菌によって分解されて短鎖脂肪酸や乳酸に代謝されます。酪酸はムチンの産生を刺激する作用があり、ムチンはアッカーマンシア・ムシニフィラの餌になります。
 
ラットを使った実験で、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のような海洋性オメガ3系多価不飽和脂肪酸を添加した食餌を与えると、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸菌の数を増やすことが報告されています。EPAとDHAが豊富な食事は、腸内細菌叢の組成に影響し、有用菌(善玉菌)や酪酸などの短鎖脂肪酸を増やして腸内環境を改善し、全身の健康状態を良くします。
 
さらに、DHAやEPAはアッカーマンシア・ムシニフィラの数を増やすことが人間での研究で報告されています。以下のような報告があります。

Short-term supplementation with ω-3 polyunsaturated fatty acids modulates primarily mucolytic species from the gut luminal mucin niche in a human fermentation system.(ω-3多価不飽和脂肪酸の短期補給は、ヒト発酵システムの腸管腔ムチン環境から主に粘液溶解性細菌種を調節する)Gut Microbes. 2022 Jan-Dec;14(1):2120344.

オメガ-3 多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸 (EPA) およびドコサヘキサエン酸 (DHA) を強化した魚油を1週間摂取した後に腸内細菌叢を分析すると、アッカーマンシア・ムシニフィラが増え、ファーミキューテスが減少していました。結腸領域において短鎖脂肪酸のプロピオン酸濃度の増加がアッカーマンシア・ムシニフィラの増加と相関していました。

つまり、水溶性食物繊維の発酵を促進して大腸内の短鎖脂肪酸の酪酸やプロピオン酸を増やすことは、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を促進することになります。アッカーマンシア・ムシニフィラのプロバイオティクスを利用しながら、水溶性食物繊維や海洋性オメガ3系不飽和脂肪酸のDHAやEPAを多く摂取すれば、腸内細菌叢のアッカーマンシア・ムシニフィラの数を増やすことができます。



【食品中のポリフェノールはアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす】

さらに、ブルーベリー、クランベリー、ナッツなどのポリフェノールが豊富な食品も有用です。クランベリーのポリフェノール類がアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことが報告されています。
 
マウスの実験で、クランベリー抽出物投与により、アッカーマンシア・ムシニフィラの割合が著しく増加しました。高脂肪/高砂糖食によって引き起こされるメタボリック症候群の病状を改善するクランベリー抽出物の効果は、腸内微生物叢中のアッカーマンシア・ムシニフィラの増加との関連が示唆されました。

クランベリーには、プロアントシアニジンなどのポリフェノールが豊富に含まれています。プロアントシアニジンは、カテキン分子がつながった構造を持つポリフェノールで、抗酸化作用が強いのが特徴的です。プロアントシアニジンはクランベリー、ブルーベリー、ブドウ種子、プラム、カカオ、リンゴ、大豆など様々な植物性食品に含まれています。ブドウを丸ごと発酵させて作る赤ワインには、種子の成分であるプロアントシアニジンが豊富に含まれています。

カテキンの多い緑茶もアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことが報告されています。カテキンやプロアントシアニジンなどポリフェノールの多い食品はプレバイオティクスとして作用し、アッカーマンシア・ムシニフィラを増やし、大腸粘膜の粘液を増やし、粘膜バリアを強化し、肥満や2型糖尿病やメタボリックシンドロームを改善するということです。



【ケトン食がアッカーマン・ムシニフィラを増やす】

ケトン食(ketogenic diet)というのは、体内でケトン体が多く産生されるように考案された食事です。ケトン体は絶食した時に体脂肪が燃焼して生成される物質で、アセト酢酸とβヒドロキシ酪酸が血中に増えてきます。
 
古来、さまざまな疾患に絶食療法が行われており、特にてんかん発作が絶食によって減少することは古くから知られていました。絶食すると体脂肪が燃焼してケトン体という物質ができます。このケトン体には抗炎症作用や細胞保護作用があります。
 
しかし、絶食を長期間実行することは困難です。そこで、「脂肪が多く炭水化物の少ない食事を摂れば、絶食と同等の効果が得られる」という考えのもとに、1920年代に米国のメイヨークリニックでケトン食療法が発案されました。ケトン食は難治性てんかんの治療だけでなく、がんや神経変性疾患など様々な難病の治療に有効です。
 
このケトン食がアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことがマウスの実験で示されています。以下のような報告があります。

Ketogenic diet enhances neurovascular function with altered gut microbiome in young healthy mice.(ケトン食は、若い健康なマウスの腸内微生物叢の変化により神経血管機能を強化する)Sci Rep. 2018; 8: 6670.

若い健康なマウスの神経変性のリスクをケトン食が軽減するかどうかを検討する目的で実験が行われました、16 週間のケトン食で、マウスの血液脳関門での脳脊髄液および P 糖タンパク質の輸送が大幅に増加し、アルツハイマー病の特徴であるアミロイドベータのクリアランスが促進されたことを示されました。
 
さらに、ケトン食はまた、有益であると推定される腸内微生物叢 (アカーマンシア・ムシニフィラなど) の相対存在量を増加させ、炎症誘発性であると推定される腸内細菌群の存在量を減少させました。このような腸内細菌叢の変化にケトン値の上昇が関連している可能性を示唆しています。



【メラトニンはアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす】

メラトニンは1958年に牛の脳の松果体から単離されたホルモンです。睡眠覚醒サイクルなどの日内リズムの調節に重要な役割を果たしています。松果体は脳のほぼ真ん中にあるトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官です。夜暗くなると、松果体からメラトニンが分泌され始め、血中のメラトニンが増えると睡魔が襲ってきます。そして、生体リズムは睡眠や体息に適したものに調整されます。 朝、太陽光線が目に入ると、松果体にその刺激が伝わりメラトニンの分泌が抑制されます。 これによって覚醒スイッチがONとなり、諸々の生体機能は昼間の活動に適応した状態になります。
 
メラトニンは松果体だけでなく、多くの細胞のミトコンドリアでも産生されています。生物進化の過程において、かなり早い段階からメラトニンが重要な生理作用を担ってきました。日内リズムの制御や睡眠誘導の他、ミトコンドリア由来のメラトニンは抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節、生体防御、神経細胞保護、抗がん作用など多彩な健康作用が確認されています。  

メラトニンがアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことが報告されています。以下のような報告があります。

Melatonin prevents obesity through modulation of gut microbiota in mice(メラトニンはマウスにおいて腸内細菌叢を変えることによって肥満を予防する)J Pineal Res. 2017 May;62(4).

この論文では、メラトニンが高脂肪食を与えられたマウスの体重、脂肪肝、炎症を軽減し、インスリン抵抗性を改善することが報告されています。その際、高脂肪食を与えられたマウスの腸内微生物叢の組成が、メラトニン投与によって大幅に変化することが確認されています。メラトニンはアッカーマンシア・ムシニフィラの存在量を増加させました。



【糖尿病治療薬メトホルミンはアッカーマンシア・ムシニフィラを増やして粘液バリアを保護する】

メトホルミン(metformin)は、世界中で1億人以上の2型糖尿病患者に使われているビグアナイド系経口血糖降下剤です。糖尿病だけでなくがんの予防や抗老化の分野でも注目されています。がんの発生を予防する効果や寿命を延長する効果が報告されています。

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。 腸内細菌叢の異常と杯細胞の枯渇は、潰瘍性大腸炎の重要な特徴です。メトホルミンが潰瘍性大腸炎のマウスでアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことにより、抗炎症効果と粘液バリア保護効果を発揮することが報告されています。以下のような報告があります。

Metformin Exerts Anti-inflammatory and Mucus Barrier Protective Effects by Enriching Akkermansia muciniphila in Mice With Ulcerative Colitis.(メトホルミンは、潰瘍性大腸炎のマウスでアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことにより、抗炎症効果と粘液バリア保護効果を発揮する)Front Pharmacol. 2021 Sep 30;12:726707.

デキストラン硫酸ナトリウム誘発潰瘍性大腸炎のマウスにメトホルミン (400 mg/kg/日) を2 週間投与し、腸粘液バリアに対するメトホルミンの効果が検討されています。この実験では、メトホルミンが腸内細菌叢の組成を変化させ、杯細胞の数を増加させ、粘液バリアを改善する結果が得られています。
粘液バリアタンパク質であるムチン2 の発現はメトホルミン投与群で増加しました。糞便 16S rRNA分析は、メトホルミン治療が乳酸桿菌とアッカーマンシア種の相対存在量を増加させ、エリシペラトクロストリジウム属(Erysipelatoclostridium)を減少させることにより、腸内微生物叢の組成を変化させることを明らかにしました。

このメトホルミンの抗炎症作用と粘膜バリア保護作用は、抗生物質を使用して腸内微生物叢を枯渇させたマウスでは認められませんでした。
潰瘍性大腸炎マウスにアッカーマンシア・ムシニフィラ投与すると、下痢・血便および体重減少が軽減し、マウスのデキストラン硫酸ナトリウム誘発潰瘍性大腸炎を軽減しました。
 
以上の結果は、メトホルミンはアッカーマンシア・ムシニフィラを増やすことにより、抗炎症効果と粘液バリア保護効果を発揮することを示唆しています。つまり、メトホルミンおよびプロバイオティクスとしてのアッカーマンシア・ムシニフィラが、潰瘍性大腸炎に潜在的な利益をもたらすことを示唆しています。

メトホルミンがアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす効果は人間でも調べられています。以下のような報告があります。

Metformin Is Associated With Higher Relative Abundance of Mucin-Degrading Akkermansia muciniphila and Several Short-Chain Fatty Acid-Producing Microbiota in the Gut(メトホルミンは、腸内のムチン分解性アッカーマンシア・ムシニフィラおよびいくつかの短鎖脂肪酸産生微生物叢の相対的存在量の増加と関連している)Diabetes Care. 2017 Jan;40(1):54-62.

この研究では、コロンビアの成人における2型糖尿病、メトホルミン、および腸内微生物叢の関連を調べました。その結果、メトホルミンは短鎖脂肪酸の産生およびムチン分解微生物叢(アッカーマンシア・ムシニフィラなど)の増加を引き起こすことが明らかになりました。

メトホルミンはがん予防や抗老化作用や寿命延長効果が知られており、糖尿病でない健康な人もメトホルミンを服用している人は多くいます。メトホルミンは腸内細菌のアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす作用も、その抗老化作用と寿命延長効果に関与している可能性を示唆しています。



【糖質の吸収を阻害するアカルボースは短鎖脂肪酸の産生を増やす】

米やパンや麺類やイモなどに多く含まれる炭水化物(糖質)は、糖がいくつも連なった物質です。このような糖が連なった状態では小腸から吸収されないため、糖を細かく切っていく必要があります。この時に働く酵素がアミラーゼです。アミラーゼなどの酵素が働くことで、糖が2つ連なった二糖類へと変換されます。
 
二糖類もまだ小腸から吸収されません。小腸から吸収されるためには、単糖類として1つの糖にまで分解される必要があります。そして、「二糖類 → 単糖類」への分解に関与している酵素がα-グルコシダーゼです。
 
そこで、このα-グルコシダーゼを阻害できれば、糖の吸収を阻害することができます。このような作用をする薬をα-グルコシダーゼ阻害薬と呼びます。α-グルコシダーゼ阻害薬としてアカルボースなどがあります。
 
アカルボースは小腸粘膜微絨毛膜に存在するα-グルコシダーゼを用量依存的に阻害するほか、膵液及び唾液のα-アミラーゼも阻害し、食後の血糖上昇を抑制します。

アカルボースを服用すると、分解されずに大腸に移行した糖質が腸内細菌の餌になり、腸内細菌叢を変化させる効果も報告されています。すなわち、アカルボースを投与されたマウスは腸内細菌による短鎖脂肪酸、特に酪酸が増えることが報告されています。酪酸などの短鎖脂肪酸が増えると寿命が延びることが報告されています。以下のような報告があります。

Acarbose enhances human colonic butyrate production(アカルボースはヒト大腸における酪酸産生を増やす)J Nutr. 1997 May;127(5):717-23.

二重盲検クロスオーバー試験で、1 日 3 回、50 ~ 200 mg のアカルボースまたはプラセボ (コーンスターチ) を被験者に与えました。アカルボース投与群では、でんぷん発酵菌と酪酸菌が増え、糞便中の酪酸濃度が有意に増加しました。以下のような総説論文もあります。

Extension of the Life Span by Acarbose: Is It Mediated by the Gut Microbiota?(アカルボースによる寿命の延長;腸内細菌叢によって媒介されるのか?)Aging Dis. 2022 Jul 11; 13(4): 1005–1014.

アカルボースは、食後の高血糖の発生率を減らし、血管内皮細胞の機能障害を改善することにより、心血管疾患の多くの危険因子を軽減することができます。アカルボースは、中程度の運動と組み合わせると、血糖値と心血管疾患に関連する危険因子を改善することもできます。
 
さらに、アカルボースを介した食後の血糖値の低下は、間接的にグルコース代謝を変化させ、それによってインスリン感受性を改善し、寿命に影響を与える可能性があります。

さらにアカルボースは、腸内微生物叢が関与するプロセスを通じてマウスの寿命を延ばすことが報告されています。 アカルボースは、結腸に入るデンプンの量を増やすことができ、それによって炭水化物分解細菌を増やし、腸内微生物叢とその発酵産物を変化させます。したがって、アカルボースによる治療は、潜在的な 短鎖脂肪酸産生菌の存在量を増加させる可能性があります。

酪酸菌を増やすと寿命が延びることは良く知られています。酪酸は様々なメカニズムで免疫力を高め、寿命を延ばす効果があります。
 
つまり、アカルボースは糖質摂取の減少や血糖スパイクの抑制に加えて、腸内細菌の酪酸産生を増やす効果など、総合的に健康寿命を延ばす効果が期待できます。
 

図:食事からのデンプンなどの糖質(①)はα-アミラーゼやα-グルコシダーゼによってブドウ糖(グルコース)に分解されて体内に吸収される(②)。ブドウ糖は血糖とインスリンを上昇させて、がん細胞の増殖を促進し、老化を促進し、寿命を短縮する(③)。アカルボースはα-アミラーゼとα-グルコシダーゼを阻害する作用があり、ブドウ糖の体内吸収と血糖・インスリンの上昇を抑制する(④)。分解されなかった糖質や二糖類は大腸の腸内細菌によって分解・発酵され(⑤)、酢酸やプロピオン酸や酪酸などの短鎖脂肪酸の産生を増やす(⑥)。短鎖脂肪酸は腸内環境改善、免疫細胞活性化、抗老化・寿命延長、がん細胞の増殖抑制などの効果を発揮する(⑦)。これらのメカニズムによって、アカルボースは抗がん作用と寿命延長効果が期待できる。
 
以上から、水溶性食物繊維の多い野菜や海藻と、魚油や微細藻類由来オイルに多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、ポリフェノールの多いクランベリーやブルーベリーを日頃から多く摂取すると、アッカーマンシア・ムシニフィラを増やし、大腸粘膜バリアを強化し、免疫力を高める効果を増強できます。低糖質・高脂肪食でケトン体を増やすケトン食やサプリメントのメラトニンもアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす効果があります。
 
メトホルミンはがん予防効果や寿命延長効果があり、大腸の粘液産生を増やし、アッカーマンシア・ムシニフィラを増やす作用によって粘膜バリアの強化に有効です。大腸内の細菌に食物繊維以外の炭水化物(糖質)を餌として与えるアカルボースも有益です。


図:大腸粘膜上皮の杯細胞(①)からムチン(②)が分泌され、粘液層(③)を作る。腸内細菌のアッカーマンシア・ムシニフィラ(④)はムチン分泌を刺激して粘液層を増やし粘膜バリアを強化する。水溶性食物繊維(⑤)、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)のオメガ3系多価不飽和脂肪酸(⑥)、植物ポリフェノールの多いクランベリーなどのベリー類(⑦)、メラトニン(⑧)、ケトン食(⑨)、メトホルミン(⑩)はアッカーマンシア・ムシニフィラを増やす。水溶性食物繊維は宮入菌などの酪酸菌(⑪)によって短鎖脂肪酸が生成される。糖質+アカルボースも短鎖脂肪酸を増やす(⑫)。短鎖脂肪酸の酪酸はムチンの分泌を促進し(⑬)、プロピオン酸はアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を促進する(⑭)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?