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107)腸管粘膜バリアを強化すると体調が良くなる(その1):腸漏れ(リーキーガット)は体調不良や老化促進の原因となる

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術107

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【原因不明の体調不良に腸漏れが隠れている】

大腸粘膜の表面は、食物抗原、食物由来の病原体、共生微生物などの多様な抗原に恒常的にさらされています。腸上皮細胞は、潜在的に敵対的な抗原の体内への移行を防ぐ独自のバリア機能を発達させてきました。

この粘膜上皮バリアの破壊は腸の透過性を高め、腸漏れ症候群(リーキーガット症候群) を引き起こします。リーキーガット(leaky gut)とは、漏れやすい(leaky)腸(gut)という意味です。腸壁バリアが壊れて隙間ができ、腸内にあるべき細菌や食物成分が身体の中に入ってしまう現象で、身体のさまざまな不調と深い関係があると言われています。


図:腸の表面は上皮細胞(①)で覆われ、上皮細胞の隙間は、タンパク質からできているタイトジャンクション(密着結合)で封印されている(②)。さらに、上皮細胞から粘液が分泌されて粘液層(③)を形成し、分泌型IgAや抗菌物質を含んで(④)、腸管内の細菌(⑤)や未消化の食物成分(⑥)が体内に入らないようにしている。ところが、何かしらの原因で上皮細胞の隙間を封印しているタイトジャンクションが緩んだり、粘液が減少して、腸壁バリアが破綻して隙間ができると、その隙間から本来透過することがない未消化の食物成分や微生物成分や毒素などが体内に入ってしまう(⑦)。この状態をリーキーガット(腸漏れ)という。


食物成分は腸内では無害ですが、体の中に入ると異物と認識され、異物を排除するために免疫細胞が活性化されて炎症が起こります。リーキーガットが続けば、体内で慢性的に炎症が起こります。リーキーガットが原因で起こる炎症は、糖尿病、高脂血症、肥満、認知症の進行を促してしまうと言われています。体内の慢性炎症は老化を促進します。
 
腸は、全身や精神の状態と大きな関連があるため、リーキーガットから引き起こされる身体の不調は様々です。消化不良、下痢や便秘、疲労感、肌荒れ、抜け毛、不眠、記憶力低下、不安感、抑うつ、アトピー性皮膚炎、筋肉痛、関節痛といった様々な原因不明の身体の不調の原因に、リーキーガット症候群が関与している可能性があります。



【腸管上皮細胞は粘液を産生して細菌の侵入を防ぐバリアを作っている】

大腸内には多くの微生物(腸内細菌)が棲みついています。一般に、500種類から1000種類、100兆個におよぶ微生物が存在すると言われています。その総重量は1kg以上と言われています。これらの腸内微生物は、腸内に常在しているだけでなく、食物繊維の分解によって産生される短鎖脂肪酸、葉酸、ビタミンK、ビタミンB類などのビタミンを宿主に提供し、健康維持に大きく貢献しています。

しかし、こういった有益な腸内細菌も、体内に侵入すれば免疫システムによって外敵とみなされ排除されます。そのため腸内微生物と宿主の両者を空間的に分け隔てるメカニズムが必要であり、それを可能にするのが腸管上皮細胞によって構築される「粘膜バリア」です。
 
粘膜バリアは物理的バリアと化学的バリアの二つに大別されます。物理的バリアは物理的な壁となって微生物の侵入を防止するバリアであり、上皮層を被覆する粘液層、上皮細胞表面に存在する糖鎖の集合体である糖衣、細胞間接着装置である密着結合(タイトジャンクション)などがあります。
 粘液層は腸管上皮細胞の一つである杯細胞から産生される糖タンパク質のムチンによって構成され、腸管上皮を覆うことで物理的に腸管組織への細菌侵入を防止しています。
 
化学的バリアは、抗菌活性を発揮することで細菌侵入を抑制する分子群です。ディフェンシンファミリー分子やReg3ファミリー分子などが含まれ,それらの分子は主として腸管上皮細胞の一つであるパネート(Paneth)細胞から産生されます。


図:腸管腔には多数の腸内細菌が棲みついている(①)。杯細胞(②)から粘液が産生され、粘液層が形成される(③)。パネート細胞(④)からは様々な抗菌物質(⑤)が産生されている。粘膜上皮細胞の間には細胞間接着装置(⑥)があって、上皮間からの細菌の侵入を防いでいる。これらが腸内微生物の体内への侵入を防ぐ粘膜バリアを構築している。



【粘液が少なくなると粘膜のバリア機能が低下する】

消化管粘膜上皮層は、粘膜バリアの重要な構成要素です。健康な人では、上皮細胞間の密着結合(タイト・ジャンクション:tight junctions)が腸上皮の透過性を維持する上で極めて重要な役割を果たしています。この上皮細胞間のタイト・ジャンクションが、消化管内に有害物質を隔離しながら栄養素の吸収を可能にしています。
 
さらに、腸上皮を覆う粘液層も粘膜バリア機能に寄与しています。粘液(mucus)とは、生物が産生し体内外に分泌する粘性の高い液体です。一般的にはムチンと総称される糖タンパク質と、糖類、無機塩類などから構成されます。消化管や気管支の内壁などは表面が常時粘液に被われています。粘膜や腺から分泌された濃い粘性の流体が粘液です。消化管粘膜の粘液層は腸管上皮を覆うことで物理的に腸管組織への細菌侵入を防止しています。
 
この粘液層は、糖タンパク質、ムチン、免疫グロブリン、および酪酸で構成されています。ムチン三量体は上皮細胞を内腔毒素から保護するバイオフィルムを構築し、分泌型IgAは粘液層の毒素や病原体を中和できる非常に重要な抗体です。健康な腸内では、ラクトバチルスや連鎖球菌などのいくつかの有益な細菌が分泌型IgAの生合成を促進することが報告されています。
 
食物繊維の発酵によって産生される酪酸は、ムチン2(MUC2)遺伝子の発現を誘導することによってムチン合成を促進します。さらに、酪酸は腸上皮細胞から放出される抗菌ペプチドであるカテリシジン(cathelicidin)の分泌を促進することができます。
したがって、酪酸産生細菌は、健康な腸内の粘液の生理的組成を維持する上で重要な役割を果たしており、これらのプロセスにより、腸のバリアが十分に維持され、消化管内の病原体に対する宿主の防御が向上します。
 
粘液層に生息しているアッカーマン・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は、腸管細胞から分泌されるムチン(糖タンパク質)を唯一の炭素・窒素源として利用するユニークな特徴を持ちます。muciniphila は「ムチンを好む(mucin-loving)」という意味です。 その名前が示すように、結腸壁の粘液を食べて、粘液の絶え間ない再生を刺激することによって大腸の粘液バリアを維持します。
 
しかし、食物繊維の摂取不足、抗生物質の使用、化学療法や放射線療法によって腸内微生物叢に異常が生じると、悪玉菌が増え、粘液層が破壊され、腸上皮の透過性が高まります。さらに、粘膜炎が発生し、バリア機能の低下によって病原菌が体内に侵入します。さらに粘膜バリアが破綻すると腸漏れ(リーキーガット)になります。(下図)


図:腸内細菌と共生した正常な大腸粘膜では粘液層(①)が厚く、善玉菌(②)が多く、分泌型IgAや酪酸の量が多い(③)。上皮細胞はタイトジャンクション(④)によって消化管内の有害物質(微生物や毒素や未消化食物など)の侵入を防いでいる。食物繊維の摂取不足や抗生物質使用、抗がん剤や放射線照射など様々な原因によって腸内細菌叢の異常(Dysbiosis)が起こると、粘液層が破壊され(⑤)、悪玉菌が増え(⑥)、粘膜バリアが破壊された場所から細菌や異物が侵入する(⑦)。粘膜バリアの破綻が高度になると(⑧)、消化管内の病原菌や抗原(異物)が体内に侵入して(⑨)、感染症や慢性炎症や自己免疫疾患などの原因となって(⑩)、腸漏れ症候群(Leaky Gut Syndrome)を引き起こす。



【加齢と炎症と慢性疾患】

加齢とともに、関節炎、2型糖尿病、心血管疾患、腎臓病、アルツハイマー病、パーキンソン病、黄斑変性、虚弱(frailty)、呼吸器疾患、骨粗鬆症、ある種のがんなど様々な慢性疾患の発症頻度が高まってきます。

このような加齢関連疾患の発症に慢性炎症が関わっていることは広く認識されています。

加齢が慢性炎症を引き起こして加齢関連疾患の発症を促進し、慢性炎症はさらに老化を促進し、加齢関連疾患をさらに悪化させます。このように、加齢と慢性炎症と加齢関連疾患との間には強い関連があり、悪循環を形成しています。
 
すなわち、慢性炎症を引き起こしている原因を除去することによって、老化や加齢関連の慢性疾患の発症や進展を遅延させることができ、老化そのものを治療の対象にできます。(下図)


図:慢性炎症は老化や様々な加齢関連の慢性疾患の発症を引き起こしている。(参考:Prev Med. 2012 May; 54(Suppl): S29–S37.)
 
 
さて、前述のように、リーキーガット(腸漏れ)が起こっていると、体内で慢性炎症状態が続きます。慢性炎症は炎症性サイトカインや活性酸素の産生を高め、これが体の老化や加齢関連疾患を促進することになります。(下図)


図:腸漏れ(リーキーガット)が起こると、体内に病原菌や食物抗原や異物や毒素などが侵入し、体内で慢性炎症を引き起こす。慢性炎症は炎症性サイトカインや活性酸素の産生を高め、老化を促進する。さらに、慢性炎症性疾患、心血管疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患、慢性疲労症候群、メタボリック症候群、糖尿病、がん、骨粗鬆症など様々な病気や体調不良の原因となる。
 
 
したがって、粘膜バリアを強化し、腸漏れ(リーキーガット)を抑制することは、多くの病気を予防するだけでなく、老化を遅らせる効果もあります。粘膜バリアの具体的な強化法は次回解説します。

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