不倫判例百選㉗愛人と喧嘩したらすべて嫁に暴露されてしまいました
0 はじめに
夫婦関係にあると、貞操義務を負うことはこれまでもご説明してまいりました。以下では、性関係がないことを理由に破綻している、夫婦外で性関係をもった夫は、美人局をするつもりで訴訟を提起したのだ、こう反論したら、自分の行動がゆえに、排斥されてしまったケースを紹介します。キーワードは誠実な暴露、一見矛盾しそうな両ワードをひも解きます。
1 事実関係
東京地方裁判所において平成29年 3月16日に出された裁判例では、妻が愛人を訴えたそれ自体は何度も説明をしてきたシンプルなケースです。夫は、本件訴訟において、原告に協力していた事実関係があるようです。被告は以下の反論をしていました。
夫が被告と性的関係を持った理由は,被告から金銭を引き出すためであり,被告は夫に洋服を作ってやったり,定期的に小遣いを渡したりしており,原告がそのことを知らないはずはないのである。
夫は,原告に本件提訴にあたり,陳述書を作成し,原告が訴訟を提起するにあたって積極的に加担しており,これは,原告と夫が結託してする「美人局」的行為である。
美人局として原告が被告に対して慰謝料請求をしている関係にあるには、原告と夫との協力関係は不可欠でしょう。
それは、ある意味で、協力関係を築くための不可欠の前提として、夫は、洗いざらい、原告に事の経緯を説明している必要がありましょう。俺は「だまされたのだ」と。しかし、夫の知らないところでことは進行してしまいます。
当裁判所の判断
原告と夫は,十数年前から性的関係はなくなり,寝室も別にしていたものの,内縁関係を開始してから,本件暴露まではずっと一緒に生活し,子や孫を含めて行き来があり親族等との関係もよく,円満に過ごしており,原告宅のローン代や電気料,水道代は夫が出し,日常の費用は原告が負担するなどして,生活費もそれぞれ出し合うなどしており,原告は,夫の女性関係については,被告の経営する店の客などから噂として聞くことはあったが,被告が否定するため,特に,追及することもなく,過ごしていた。
被告は,平成27年1月7日,夫と口論になり,原告方に電話をし,被告と夫との関係を原告に話した。原告と被告は,平成27年1月8日,話し合いをしたが,被告は,原告に謝罪し,弁護士を立てれば慰謝料を払うなどと言う一方で,被告と夫が男女関係にあることやその性的関係の様子などについて詳細に述べるなどした。
また,被告が,本件暴露の当初,原告に謝罪し,慰謝料の支払を認めていたことからすると,原告と夫が,被告を陥れ,詐欺的に賠償金を取得しようとしている状況も認めることはできない。
小さいことからけんかに発展した愛人と夫は、あろうことか、愛人側が本妻であるはずの原告に、すべて洗いざらい話をしてしまう展開をたどります。
被告による、ある意味で誠実な謝罪?に匹敵するものがあるかもしれません。この正直な暴露があったからこそ、被告による美人局の反論が排斥されてしまいました。
2 若干の検討
美人局という主張は排斥されていますが、場合によっては、被告が不倫相手と喧嘩になった際に、原告に洗いざらいすべてを話した事情がなければ、美人局の反論は場合によっては採用されていた可能性があると考えています。
原告と夫は、性交渉も10年以上なかった事実関係があり、破綻の主張は一部採用されていますから、破綻している状態において夫が原告に協力をするということは、ある意味不当に被告からお金を詐取する目的があったと考える方向に働くのではないか。ということは、被告が原告に誠実に謝罪をしたうえで本件暴露をしなければ、美人局の主張は容れられていた可能性があると思います。本件では、結論として100万円の支払いが認容されています。
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