0 はじめに
不倫裁判百選(実際には112選くらい)では、不貞行為について主に、離婚裁判百選では、離婚にまつわる裁判例を検討しています。
今回は、既婚であることを秘匿され、偽わられた、しかし図らずも不貞行為をしてしまった、不貞行為に加担することになってしまった被害者(しかし配偶者に対しては図らずとも加害者)は、既婚であることを秘匿していた側に何か請求ができるのか。結論、できます。
1 106万円の支払いを認めた裁判例
東京地方裁判所において令和3年5月31日に出された裁判例は、被告が既婚者であるにもかかわらず、未婚者を装って原告と長期間にわたり性的関係を伴う交際を続けるなどし,原告の人格権を侵害したとして,不法行為に基づき570万円の損害賠償を求めています。
2 前提事実
被害者は、既婚であることを秘匿されていたので、複数回の不貞行為に及んでしまった事例です。
連絡も途絶えていたようですが、被告としては体調不良と抗弁し、さらにアプリでも既婚に切り替えたと主張しています。
3 裁判所の判断
4 若干の検討
本件は、将来の婚姻の約束まではしていない事件です。これがあれば、慰謝料の金額はさらに伸ばすことができたのではないか。流産までをもって106万円の慰謝料は、肯否が分かれますが、未婚を登録の条件としているアプリを用いる行為だけでは、既婚であることを秘匿していたともみれないと判断していると思われることから、被告の供述も援用しています。図らずも不貞行為に及んでしまった被害者には、救済の道が残されている、むしろ積極的に損害を主張できる立場にあることを指摘することができます。とはいえ、判決文は、『以上のとおり,本件アプリの性質及び被告が原告に送信したLINEのメッセージの文言という客観的事実のみによっても,被告は,原告に対し,自身が独身であって,原告とのみ性的関係を結んでいるかのように振る舞っていたものと認められる。』とも述べています。LINEのメッセージは、図らずも不貞行為に及んでしまった被害者には、救済の道が残されている、むしろ積極的に損害を主張できる立場にあることを指摘することができます。とはいえ、判決文は、『以上のとおり,本件アプリの性質及び被告が原告に送信したLINEのメッセージの文言という客観的事実のみによっても,被告は,原告に対し,自身が独身であって,原告とのみ性的関係を結んでいるかのように振る舞っていたものと認められる。』とも述べています。僕は未婚です、と積極的に述べていなくても、不法行為になると判断されています。