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不倫裁判百選76既婚であることを黙っていた両親も悪い?

0 はじめに

図らずも不倫関係に至っていた事例を不倫裁判百選では多く扱ってきました。本件も、330万円の慰謝料請求が認容されていますが、理由が少し特殊です。

裁判の現場では、被告が訴状を受け取ったにもかかわらず、出廷ないし反論をしないと、その原告が主張する事実がそのまま認められてしまう仕組みです(これを専門用語では擬制自白といいます)。

本件でも、これが認められたようですが、被告の両親も被告に加担したのだ、と主張して一緒に被告としているのが特徴的です。

1 事案の概要と原告の主張

東京地方裁判所において平成28年4月26日に出された裁判例は、被告は不出廷で、そのまま原告の主張事実が認められていますので、被告の反論はありません。

事実経過  
ア 原告は,平成20年頃,東京都中野区内の飲食店に勤務するようになり,店長であった被告Y1と知り合った。被告Y1は,当時,平成18年に結婚した妻がおり,同妻との間に子もいたが,店の従業員に対し,①自分は離婚している,②離婚した妻との間に子が二人いて,自分が親権者である,③子らは離婚した妻の実家で生活している,と話していた。また,その後,離婚した妻が子らを連れて帰ってきたので一緒に住んでいる,と話していた。
 イ 原告と被告Y1は,平成24年9月頃から親密な交際をするようになった。そして,被告Y1は,家を出たと言って,店や原告宅に泊まるようになった。
 ウ 被告Y1は,平成25年2月頃,原告に対し,「結婚しよう。」,「だから一緒に住もう。」と言って結婚を申し込み,原告はこれに応じる旨の返答をした。そして,原告と被告Y1は,同月頃,被告Y1がマンションを借りて同居するようになったが,被告Y1は,子らに会うため,仕事終わりの毎週日曜日の朝に子らのいる家に帰り,夜8時頃戻ることを繰り返していた。
エ その後,被告Y1が原告に対し,一緒になるので原告の両親に挨拶したいと申し出たことから,原告は,平成25年11月11日,被告Y1を連れて長崎県佐世保市内の実家に帰り,被告Y1は,原告の両親に対し,結婚を前提とする挨拶をした‥(中略)‥

有体に言うと、被告である元カレと同棲中、自分の親にもあいさつにいった経緯があるといったところです。

キ 被告Y1は,平成26年8月,原告とその父を連れて埼玉県秩父市内の実家を訪れ,被告Y1の両親である被告Y2及び被告Y3(以下「被告Y2ら」という。)に対し,原告とその父を紹介し,原告と結婚しようと思っていること,一緒に住んでいること等を話した。

被告である元カレY1の親らにあいさつに行くようですが、本件では両親とも被告らとして扱われています。

ク 被告Y1は,平成26年9月,飲食店に勤務する傍ら,東京都中野区内でバーの経営を始めたが,その際,店舗を賃借するについての連帯保証人を原告の父に依頼した。また,被告Y1は,原告から預かっていた80万円を,原告に無断で開店資金として使用し,後日そのことが発覚して,原告に対し,返済することを約束した。さらに,原告は,被告Y1に対し,店の運転資金として30万円を貸したが,いずれも返済されていない。
ケ 被告Y1は,平成26年10月,原告に対し,役所から婚姻届をもらってくるよう指示し,婚姻届に両名と証人が署名押印した(甲3)。しかし,被告Y1がこれを提出しようとしないことから,原告がその理由を尋ねると,被告Y1からは,子らの親権者を母親に変更する手続が終わるまで待ってくれと言われ,その後も,進捗を確認すると,忙しくて話をする時間がないと言われていた‥(中略)‥
サ 被告Y1は,平成27年7月24日の朝,帰宅せず,連絡も取れなくなった。そこで,原告が,同月26日,未提出になっていた婚姻届に記載された住所を尋ねて行くと,被告Y1の妻と子供二人がおり,被告Y1が離婚していないことが発覚した。
 原告は,被告Y1にだまされていたことを知り,被告Y1との関係を絶つことにした。

Y2らこと、被告の両親らは、被告Y1がいまだ婚姻関係を継続していることを知っていたのだから、被告Y1の婚約破棄に加担したのだ、という主張です。

2 裁判所の判断

1 被告Y1に対する請求について
(1) 被告Y1は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。
(2) 証拠(甲1ないし3,6,原告本人,被告Y2本人)によれば,請求原因(1)の事実がいずれも認められ,これらの事実によれば,被告Y1の行為は,原告に対する不法行為を構成するものと認められる‥(中略)‥
2 被告Y2らに対する請求について
  (1) 原告は,被告Y2らにおいて,平成26年8月に被告Y1,原告及びその父の訪問を受けた際,被告Y1が離婚していないことを知りながら,これを原告及びその父に告げなかったことが,不法行為に当たると主張する。
 そして,原告は,被告Y2らが上記の事実を知っていたと考える根拠として,本人尋問において,①上記訪問の際,被告Y1及び原告が同居している旨話したのに対し,被告Y2らが驚いた表情を見せたこと,及び,②被告Y1の行方が分からなくなった後の平成27年7月末又は8月頃,原告の姉と義兄が被告Y1の元妻(当時は婚姻継続中)の住居を訪ねた際,その場にいた被告Y2が上記元妻に対して「別れて子供を連れて実家に帰ってくれ。」と述べていたことを挙げるのであるが,上記①については,被告Y2が本人尋問において述べるとおり,単に被告Y2らが被告Y1の近況を知らなかったにすぎないとしても,驚いた表情を見せることは不自然ではなく,また,上記②については,そもそも,被告Y2が,原告の義兄から被告Y1と上記元妻が離婚していない旨聞かされる前に,「別れて」と述べたことを認めるに足りる証拠がない
(2) なお,被告Y2らにおいて,被告Y1が元妻との婚姻を継続しているか否かについて明確な認識を有していなかった場合に,原告の面前で被告Y1にそのことを問いただす義務があるなどということもできない。

3 若干の検討

被告Y2らの立場は、被告Y1に加担した、と主張をするのは確かに困難でしょう。

被告Y2らとしても、被告Y1の近況を知らなかったようであることを根拠として、驚いた表情を見せることは不自然ではないと述べられています。また、被告Y1が婚姻の継続について明確な認識を有していない場合に問いただす義務が仮にあったとしても、問いただすことによって原告の主張するような損害との因果関係はない判断になるでしょう。

裁判所は、原告の主張を全てそのまま認めており、原告の主張のうち、以下の事実を認めているのです。

本訴提起時37歳で結婚に対する焦りのような気持ちもある原告に対し,将来結婚できる期待を抱かせる行動をし,原告の両親や姉妹にまで結婚相手として周知させるなどした。この間,被告Y1は,原告と夫婦同然の肉体関係を続けた。これら一連の被告Y1の行為は,結婚している事実を秘して,あたかも容易に結婚できるかのような嘘をつき,原告に対して結婚を約するなどして,原告との肉体関係を持ち,原告家族の一員となるかのような行動をしたほか,原告のみならずその義兄にも経済的損失を与えるなど,原告に大きな精神的打撃を与えたものである。

仮にこれに加担したとしても、原告の上記損害と、問いただすことがなかった義務違反との因果関係を認めることはできないと思われます。



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