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不倫裁判百選99 結局どこからが不貞行為なのかー100件みてきてー

0 はじめに

 まもなく100件を迎えようとしてます。

   ところで、不貞行為とは定義にすることはできるのでしょうか?性行為がないと、慰謝料の対象にならないのか?

  私の回答は、NOです。肉体関係があれば当然不貞行為といえるでしょうが、肉体関係がなくても、「配信的行為」があれば足りるとした裁判例があるのです。不貞行為概念は、拡大を見せている。不貞行為概念を再考するのか、不貞行為でなくてもこれに類似する行為と整理するのか、いずれにしても再定位しなければならないはずです。

1  裁判例の検討

 東京地方裁判所において平成29年9月26日に出された裁判例は、「不貞行為には該当しないものの、原告が、被告らが原告の妻としたLINE上のやり取り等が不貞行為に準ずる内容であったと判断し、慰謝料の支払いを命じています。

⑴ 原告の主張
被告Y1は,Aとの間で,平成27年2月26日から翌日にかけて,LINEで別紙記載の内容を含むやり取りをした。
 そのうち同月26日午後18時49分から翌日午前零時53分にかけてされた別紙記載3ないし57の一連のやり取り(以下「やり取り①」という。)は,性的交渉を持つことを前提とした卑猥で具体的な性的プレイを念頭に置いた内容であり,互いのパートナーを排除し,男女の関係を継続することに腐心していることが見て取れる。
 また,同日午後2時2分から午後6時20分にかけてされた別紙記載58ないし61の一連のやり取り(以下「やり取り②」という。)は,被告Y1が,Aに対し女子高生の制服を着ることを求め,その恰好のAと性交渉を持ちたいという性的欲求を抱いていることを示すものである。
イ 不法行為法上の違法を基礎付ける不貞行為は,性交渉及び同類似行為に限られず,配偶者を有する通常人を基準として,同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も含まれるというべきである。
 やり取り①及び②は,Aが被告Y1と具体的な性的プレイにまで言及するやり取りをし,夫婦間の貞操義務に違反しているとの印象を与えるものであり,これにより,原告とAの婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性があるといえるから,不貞行為に該当する。
(2) 被告の主張
ア 被告Y1が,Aとの間で,LINEで別紙記載の内容を含むやり取りをしたことは認める。
イ 原告主張の不貞行為の基準は広範に過ぎ,性的関係が存在しなかった場合に例外的に不法行為が成立することはあり得るとしても,性的関係に類する行為に限定されるというべきであり,LINEのやり取りは,不貞行為に該当せず,不法行為は成立しない。
ウ 仮に,原告主張の基準によるとしても,不貞行為に該当せず,不法行為は成立しない。
 被告Y1は,平成24年10月頃,Aと知り合い,Aと原告との婚姻前の同年末までの間,1,2回程度性的関係を持ったことがあり,やり取り①及び②は,その従前の関係も踏まえた上で,冗談としてしたものである。その内容をAに確認すれば,冗談としてのやり取りだということは分かるのであるから,通常人がこれを見たとしても,直ちに婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性があるとはいえない‥(中略)‥

2 裁判所の判断

下記裁判例は、不貞行為の定義をすることは避けているものの、不貞行為に準ずるもの概念があると考えています。 

⑴ 判断基準 原告は,不法行為法上の違法を基礎付ける不貞行為は,性交渉及び同類似行為に限られず,配偶者を有する通常人を基準として,同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も含まれる旨主張するが,不貞行為とは,通常,性交渉又はこれに類似する行為を指し,原告主張の異性との交流,接触が不貞行為に該当するということはできず,採用できない。
原告の主張は,不貞行為に該当しないとしても,上記婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も不法行為に該当すると主張する趣旨を含むものと思料されるところ,判断基準として抽象的に過ぎ,そのまま採用することはできないが,不貞行為が不法行為に該当するのは婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであることからすると,原告主張の具体的事実について,その行為の態様,内容,経緯等に照らし,不貞行為に準ずるものとして,それ自体,社会的に許容される範囲を逸脱し,上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から,不法行為の成否を判断するのが相当である。

手法としては、不貞行為を拡大して解釈するのではなく、そもそも論である婚姻関係の維持の利益の観点から考え、不貞行為に準ずるもの、という概念を用いていることが特徴的です。

⑵ 被告Y1の不法行為の成否について
  (1) 被告Y1が,Aとの間で,平成27年2月26日から翌日にかけて,LINEで別紙記載の内容を含むやり取りをしたことは争いがなく,その前後の部分(甲2の1)も併せてみると,やり取り①は,その内容からして,被告Y1とAが,従前,性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めるものであり,やり取り②は,前日のやり取り①も踏まえると,被告Y1が,Aに対し,性交渉を求めるものであると認められる。
 そして,上記のように,従前,性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは,不貞行為には該当しないものの,その記載内容にも照らすと,これに準ずるものとして,社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ,婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるというべきであるから,被告Y1の上記行為は,原告に対する不法行為を構成すると認められる。
  (2) この点,被告Y1は,やり取り①及び②は,Aと原告の婚姻前にAと性的関係を有していたことを踏まえた上で,冗談としてしたものであり,その内容をAに確認すれば,その旨が分かるから,婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性があるとはいえず,不法行為に該当しない旨主張する。
 しかし,被告Y1の真意はさておき,やり取り①及び②の内容は,上記のとおり,Aに対して性交渉を求めるものであるといえ,LINEのやり取りは,他の者が見ることを想定していないのが通常であるものの,夫婦間において,他方のLINEを目にすることもまれではなく,やり取り①及び②を目にした原告としては,Aと被告Y1が,性的関係を有したことがあり,そのことを前提として,性交渉を求めてやり取りをしていると理解するのが通常であると認められる。そして,その記載内容に照らすと,被告Y1との関係をAに問い質し,真意の確認を求めること自体,Aとの信頼関係に影響し,夫婦関係を悪化させるものであることは容易に推察することができるから,Aに確認をすることにより,冗談であるとの回答が得られたとしても,これにより上記不法行為の成否を左右するものとはいえず,被告Y1の上記主張を採用することはできない‥(以下略)‥

3 若干の疑問

 そもそも論に立ち返り、不貞行為が不法行為、すなわち他人の権利を侵害する理由から論証することには賛成です。

ただし、不貞行為に「準ずる」行為の範囲を考えるにあたって、本件裁判例は、従前,性的関係を有していたことを前提として,性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは,不貞行為には該当しないものの,その記載内容にも照らすと,これに準ずるものとして,社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ,婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する位置づけています

「性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求める行為」その内容によっては、場合によっては被告と原告配偶者Aとの間の不貞行為があったと認定できる場合もあるはずです。「準ずる」行為をLINE送信とまで取ってしまうと、逆に不貞行為の外延が見えにくくならないのか。「準ずる」といえば、たとえばキスをする行為などを想定しているように思われる。

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