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不倫判例百選㊱「愛している」「大好き」は不貞行為?

0 はじめに

「愛している」「大好き」のメールのやり取りは、不貞行為になるのでしょうか?宇多田ヒカルさんの曲のようですが・・・愛しているよりも大好きのほうが君らしいんじゃない?となどとやっていると、最後は裁判所で判断されると不貞行為になるのでしょうか?

1 原告の主張から
 東京地方裁判所において平成25年3月15日に出された判決は、本件について以下のように要約しています。

本件は,原告が,平成23年7月頃以降被告が原告の妻であるA(以下「A」という。)と不貞をはたらき,あるいはAとの間で常軌を逸したメールのやり取りを行い,その結果原告とAとの婚姻関係が破綻に瀕しているとして,不法行為に基づき,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成23年12月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原告は、「愛している」「大好き」は、常軌を逸したメールであると主張していることがわかります。「愛している」「大好き」は、親子関係などの親族間でもやりとりすることがあり、ただちに不貞関係には結びつかないとも思いますが、配偶者がある者どおしでは、不倫関係が怪しまれてしまう要素があるともいえましょう。

実際の現場では、これしか証拠がなかったのではないか?と考えられます。もちろん、こんなやりとりを超えた証拠が整っていれば、当然出ているはずでしょう。


2 裁判所の判断は?

1 主たる争点(1)(不貞の有無)について
証拠(甲3,4,乙2,原告)及び弁論の全趣旨によれば,被告(名古屋在住)とA(東京在住)は,a小学校の同級生であったこと,Aは,平成23年(以下,同年の記載は省略する。)8月20日,同小学校の同期会に出席するため名古屋に赴き,被告と共に同期会及び二次会に出席し,同日夜の新幹線で東京に戻ったこと,被告とAは,その前後頃から10月下旬頃までの間,頻繁にメールのやり取りを行ったこと,原告は,8月下旬頃から,Aが携帯電話を肌身離さず持ち,着信をしきりに気にし,着信に直ちに返信しているのを不審に思い,その後,Aの携帯電話の記録を見たところ,被告とのメールのやり取りを発見し,Aが被告と不貞をはたらいていると確信したことがそれぞれ認められる。

不貞行為に関する直接の証拠がない場合には、間接事実を積み上げる方法によるのが裁判の仕組みです。この裁判例も、間接事実を積み上げています。

小学校の同級生の関係にあること、同窓会に行くために名古屋に行ったこと、頻繁にメールのやり取りをしていたこと、携帯電話をあるときから肌身離さずもっていたこと・・・疑念は尽きませんね。間接事実の積み上げに関しては、以前にもご紹介していたところでした。


いかにも怪しいこの流れは続きます。

 (2) 原告は,①被告とAは,別紙記載のとおり,性交渉を強く示唆する内容のメールを頻繁にやり取りし,「愛してる」,「大好き」等の,親密な男女間でしかあり得ない愛情表現も頻繁に交わしていること(甲3,4),②被告が,Aに対し,被告からのメールや手紙を廃棄するよう指示しており(甲3・6頁〔8月22日〕,13頁〔9月2日〕),Aが,9月から1か月半ほどの送信メールを削除していること,③被告とAは,双方の家族の不在時を見計らい,電話でも頻繁に会話していること(甲3,4)から,被告がAと不貞をはたらいたことは明らかである旨主張する。

不倫相手である被告は、原告である妻の夫に対し、自分からのメールや手紙を破棄するように指示する、被告と不倫相手は双方の家族が不在であることを見計らい、電話でも頻繁にやりとりをしている・・など、怪しすぎますね。。ちなみに、この事例はw不倫であったことがわかります。判決は続きます。

しかしながら,メールは往々にして過激な表現になりがちなものであり,また,被告とAは,小学校の同級生であるという気安さから,気晴らしに際どい内容を含むメールや電話のやり取りを楽しんでいたとも考えられ,別紙記載のとおり,被告とAとの間で交わされたメールに性交又は性交類似行為を示唆するような表現が多数あるからといって,被告とAが実際にこれらの行為に及んでいたと断定することは躊躇される。 

急に風向きが変わっています。メールは往々にして過激な表現になりがちなのか??少額の同級生という気安さだと、気晴らしにきわどい内容を含むメールや電話のやり取りを楽しむか・・・?

私個人は疑問に感じています。

また,実際に性交又は性交類似行為に及んでいないとしても,異性との間でこれらを示唆するようなメールのやり取りをしていることを,相手の配偶者に知られたくないと考えるのは自然であり,被告がAに対し,これらのメールや手紙を廃棄するよう指示し,Aが送信メールを削除したからといって,直ちに性交又は性交類似行為の存在が推認できるわけでもない。
 さらに,被告とAは,名古屋と東京という遠隔地に居住しており,双方の家族に知られないように密会することは困難であると考えられる上,被告とAとのメールのやり取り(甲3,4)を子細に検討しても,被告とAが密会した事実をうかがわせるような記載は見当たらず,Aが被告との不貞行為を自認したような事情もうかがわれない。
 以上によれば,原告が指摘する上記①ないし③の点をもってしても,被告とAが,実際に不貞,すなわち性交又は性交類似行為に及んでいたとまでは未だ認めることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 

3 若干の疑問

では、当初の問いである、「愛してる」「大好き」は、不貞行為を立証することができる証拠になりえるのでしょうか?

答えは、ならない、でした。

2 主たる争点(2)(メールのやり取りによる不法行為の成否)について
 原告は,仮に被告とAが不貞行為に及んでいないとしても,被告は,原告の妻であるAとの間で,常軌を逸した卑猥な内容や,恋人同士でしかあり得ないような内容のメールのやり取りを頻繁かつ継続して行い,これにより,原告とAとの婚姻生活を破綻に導いた旨主張する。
 確かに,性交又は性交類似行為には至らないが,婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある他の異性との交流・接触も,当該異性の配偶者の損害賠償請求権を発生させる余地がないとはいえない。
 しかしながら,私的なメールのやり取りは,たとえ配偶者であっても,発受信者以外の者の目に触れることを通常想定しないものであり,配偶者との間で性的な内容を含む親密なメールのやり取りをしていたことそれ自体を理由とする相手方に対する損害賠償請求は,配偶者や相手方のプライバシーを暴くものであるというべきである。また,被告がAに送信したメールの内容(甲3)に照らしても,被告が,原告とAとの婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたとはいえない。したがって,本件の事実関係の下での被告の行為は,原告の損害賠償請求を正当化するような違法性を有するものではないとみることが相当であり,不法行為の成立を認めることはできない。

この裁判例は、怪しいはずの間接事実をこれでもか?という程度に挙げたうえで、不法行為の成立を認めていません。しかし、その理由付けには、疑問を感じざるを得ない。

メールは往々にして過激な表現になりがちなのか??少額の同級生という気安さだと、気晴らしにきわどい内容を含むメールや電話のやり取りを楽しむか・・・?ある意味、不貞行為の存在を厳密に立証することを求めるかのような裁判例でしょう。







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