見出し画像

不倫判例百選㊴【番外編】慰謝料請求は制限されていくのか。

0 はじめに

不倫判例百選では、不倫慰謝料請求の裁判を取り上げてきています。

裁判となると、判決になる場合には、いくら慰謝料を払えという判断が示されるだけです。和解手続に切り替え、接触禁止の合意をとりつけるようにする・機密条項を設定し、一連の不倫事件について口外しない、などの合意をすることは考えられますが、和解手続では、双方の合意が要求されます。

弁護士の仕事はこれだけなのか?答えはNOです。

1 任意の交渉による方法

 もちろん、裁判と両立する、並行して進めることが可能である方法に、裁判などをせず、任意に本人と話をする、本人が代理人を選任すればその代理人と折衝をする方法があります。

 この方法によるときのメリットは、柔軟な話し合いができること。柔軟な話し合いとは、慰謝料請求以外にも、たとえば配偶者との接触の禁止を合意したり、機密、本件を外部の第三者に話をしないなどの合意を形成することもありえます。分割などの交渉もありえましょう。

裁判手続と比較したデメリットをあげるとなると、裁判のように次の期日はいつ、その次はいつ、子の期日までに何をして、というのはありません(かといってそれが悪いとも指摘はしません)。裁判手続と比較したデメリットをもう一つあげるとすれば、執行力といって万が一裁判で判決を貰った場合に得られる効力を得られないことがあげられます。執行力とは、差し押さえができる効力のことです。給料を差し押さえたり、不動産を差し押さえたり、自動車(動産)を差し押さえたり・・ができないことがあげられます。このデメリットは、しっかり加害者側が支払いをしてくれるのであれば、乗り越えることができるデメリットであると指摘できましょう。

2 公正証書を作成する方法

執行力を得る観点からは、任意の交渉がまとまり、合意書にする方法以外に、公正証書を作る方法はひとつありえます。公正証書は、公証役場というところで、公証人の先生に合意書を作成してもらい、詳細に詰めていく方法になります。これが完成すると、基本的に差し押さえができる効力が得られます。いくつかデメリットがあるとすると、柔軟性は多少失います。また、期日を決めて、公証役場に出向く必要も生じてくるでしょう。また、費用も多少かかります。

ただ、不倫の慰謝料請求の局面では、公正証書にすることはあまり多くない肌感覚をもっています。なんでだろうか?と考えたことはあるのですが、双方とも早期解決・決着をとにかく望んでいること、じっくり書面にするより、暮らしの安全を得たいと考えていること、が理由の一つではないか?と思っています。

もう一つは、加害者側も、やはり自分もそれなりの加害行為を認識していることは前提になっている気がしています。ただ、実は、不貞行為の慰謝料請求は、自分の配偶者以外の第三者に対しては認めないとする見解が有力であることはご紹介した通りです。

3 ある疑問

 不貞行為があったなかったと議論している場合は別として、不貞の加害者は、やはり一定の後ろめたさはもっていることが多い。しかし、学説上は、第三者への責任は否定するべきだという説明が有力。このジレンマは、解消する必要があるのか?

私個人は、ないと考えています。ただ、最高裁は、不貞慰謝料請求を第三者に対する方向に関しては、一定の制限を課してきているのは事実です。平成8年の最高裁判決、平成31年の最高裁判決しかり、指摘をするとある意味きりがありませんが、正当な被害が生じたのであれば、慰謝料は請求はできるはずです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?