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不倫裁判百選番外編 不倫事件orNOT

1 不倫事件?

野島梨恵『私の愛すべき依頼者たち 10のエピソード』(LABO、2017年)を読了しました。北海道は士別市(札幌から180キロだそうです)で、法律事務所をされていた先生がお書きになった書物です。読み進めていて、1時間くらい、考え続けて物思いにふけってしまった個所を引用してみます。

女心と秋の空とはよく言うが、激変する女心に翻弄されるのはおろかなオトコばかりではなく、刑事弁護人もまた然りである。
旦那が逮捕されて泣き崩れる妻ってのも、一か月後にはどうなっているのかわかならいものなのだ。嬉々として夫を刑務所にぶち込もうとするかもしれないのだ。いや、すっかり翻弄されてしまった。
しかし、あの時あの法廷で、奥さんを上場承認として立たせたことが、本当に良かったのかどうか、私は、今でも思い出しては考え込むのである。今だったら、そうしないかもしれない、と思う。正解はどちらだろう。わからない。

紹介されていた事例の要約は以下でした。

職場で知り合った女性と恋に落ちた。女性は既婚者であった。略奪愛が成功して婚姻した。北海道に移り住んだ。割のいい仕事を見つけたがおれおれ詐欺だった。旦那が逮捕された。妻は涙した・・。

後日著者の野島弁護士は、奥さんに、裁判の期日が決まったことを報告する電話をしたそうです。

「なんで私が裁判なんかにいかなくてはいけないのだ。」「私が悪いことしたわけではないのに。」「むしろ離婚の方法を教えてほしい。」

愛しているけど、おれおれ詐欺に加担をした旦那とは一緒に入れない。そんな意味にも取れます。蓋を開けると‥

「先生、ワタシ好きな人ができたんです。いま、その人と一緒に住んでるんです。結婚するつもりです。だからあのオトコのために、わざわざ裁判所まで行って証言するなんて、そんなめんどくさいことしたくありません。それより離婚ってどうやってしたらいいんですか。あのオトコと私とが離婚でもめたら先生にお願いしたいんですけど‥(以下略)‥。」野島梨恵『私の愛すべき依頼者たち 10のエピソード』75頁(LABO、2017年)

旦那さんは、実刑が確定したそうです。その後、野島弁護士が被告人と話をしていると、被告人は以下のように述べたそうです。

「先生、嫁はね、わかってたんですよ。俺が振り込め詐欺の一味になっちゃって、それで稼いでるってこと。俺、あの会社が何をやっているのか判ってすぐ嫁に言ったんです。『ヤバい会社だ、詐欺の会社だよ、こんなことしてたらオレ逮捕されちゃう、すぐに会社辞めてここから出ていこう、逃げよう』って。
そしたら嫁は、『会社辞めたら私の生活どうするのよ、あんた、今まで通り毎月30万、きっちり私に渡してくれるんでしょうね。あんたがやめようがやめまいがどっちでもいいけれど、必ず30万、私に渡してちょうだい。そうじゃなきゃやっていけないから。くれないんだったら、私、すぐあんたと離婚してここから出ていくから』野島梨恵『私の愛すべき依頼者たち 10のエピソード』84頁(LABO、2017年)

2 若干の検討

金の切れ目が縁の切れ目、惚れたものの弱み、、不倫裁判百選よろしく、本件は不倫事件としても切り出せるのかもしれません。

不倫をして、結ばれた。つかの間、不倫をされた。金の切れ目は縁の切れ目なのか、惚れたものは弱いのか、それこそ私にはわかりません。被告人は、1年の実刑を食らってしまったようです。

1年の重みはさておき、不倫事件orNOT。私の答えは、不倫事件そのもの、です。理由は、人間らしいからです。持論?では、トラブルは、人間関係か、お金、もしくは、その両方の要素から構成されると考えています。本件は刑事事件かもしれません。でも、おれおれ詐欺への加担の根本は、不倫ではないか。でも、私にも、まだわからない。人間とはなにか、を知りたくて、弁護士をしていることだけがわかった秋の夜が静かに更けていきます。


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