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不倫裁判百選77不倫相手は未成年?

0 はじめに

慰謝料請求をするには、実は、不貞行為があった事実だけでは足りません。

不貞行為をしている認識=交際者に配偶者がいる認識=故意、もしくは、認識できなかったことに対する注意義務違反=過失、が要求されます。

どちらかを充足さない場合、請求は認められないルールなのです。

1 事案の概要

東京地方裁判所において平成29年10月12日に出された裁判例は、被告が19歳である事例で、交際当初既婚であることを全く認識できず、また、認識できないことに対して過失がない判断をしています。

‥(前略)‥被告(男性)は,平成25年12月ころにA(女性)と知り合い,遅くとも平成26年1月以降,Aと不貞関係を持つようになった。原告とAは平成26年10月3日,協議離婚をした(以下「本件離婚」という。)。(甲1)
 原告(Aの夫),Aと上記子らは,本件離婚日までは太田区所在の原告の自宅において同居していた。(甲10)‥(中略)‥
 その後,原告とAの間では,財産分与,慰謝料に関する調停手続が行われ,平成28年7月21日に調停が成立した(甲9)。当該調停においては,Aが原告に対し財産分与として100万円,慰謝料として150万円を支払うことが内容とされた。


2 争点と当事者の主張

(1) 争点1(不法行為の成否)について 

(原告の主張) 
被告(男性)はA(女性)が既婚者であることを知りながら,不貞関係を持った。 仮に,被告において,Aが既婚者であることを知らなかったとしても,遅くとも平成28年8月には,被告はAが30歳であることを知っていたことからすれば,Aの年齢に照らし,被告において,Aが婚姻していることを容易に知り得たというべきであり,Aが未婚であるか何らの調査もしなかった被告には過失がある。また,被告はAとセックスフレンドとして交際しており,かつ,交際期間中にAが他にも交際相手がいることを知ったのであるから,交際を続けていく以上,貞操権の侵害をしないために,ほかの交際相手がどのような関係の者であるか確認すべき注意義務があったのに,これを怠った過失がある。

 (被告の主張) 
被告はAと港区のクラブで知り合ったところ,知り合った際,Aも友人女性も既婚者であるとは一切述べておらず,Aの年齢についても,平成26年1月初めの交際開始までに24歳と聞くにとどまっていた。被告は同人と出会った時間帯や場所,自称する年齢や容姿などから,既婚者である可能性は全く考えていなかった。
 Aとの交際は平成26年夏から秋ころまで続いたが,交際期間中,Aは自らに夫や子がいるなどとは一切述べなかったし,被告に会う以外にも相当程度遊び歩いている様子を隠さず,昼夜を問わずLINEのやりとりをするなど育児中の母親である様子は一切なかった。
 被告が,Aが婚姻していた事実を知ったのは,Aとの交際終了後,平成27年1月ころに原告の代理人から本件に関する連絡を受けたときである。
 このように,被告は交際期間中においてAが婚姻していることを知り得なかったし,原告の主張するような注意義務を被告が負う者でもないから,被告が不法行為責任を負うことはない。

交際相手は19歳のようでした。

仮に被告の反論が真実で、原告の代理人からの連絡を受け、初めて、交際相手が既婚者であることを知ったとすれば、衝撃だったのではないか。

3 裁判所の判断

1 被告とAの交際経過について
(1) 被告は,大学1年生(当時19歳)であった平成25年12月24日深夜ころ,港区麻布十番のクラブでAと知り合い,A及び同人と同行していた女性とLINEの連絡先を交換した。
(2) 被告は,AとLINEで連絡を取り合う中で,Aから何度も夕食に誘われるなどし,遅くとも平成26年1月初めころには肉体関係を持つに至り,交際を開始した。
(3) 当該交際期間中,Aは被告をセックスフレンドなどと称し,被告に対し,他に数人の男性とも並行して交際していることをほのめかしていた。
(4) 被告とAとの肉体関係を伴う交際は平成26年8月ころまで継続した。
 同期間においては,被告とAは月数回程度会っていたが,その際の時間帯は昼夜を問わず,深夜・明け方まで共に過ごすこともあった。同期間中,被告がAの自宅(原告宅)や実家等を訪れたことはなかった。
(5) 本件交際期間後である平成27年1月ころ,原告代理人が被告に対し,交際状況等の確認のため同一日に2回架電したことがあった。
(6) 被告は,同人の陳述書(乙3)及び本人尋問において,Aと知り合った際,Aや同人の友人は,既婚者であるとは一切述べておらず,「君より少し上かな」などと述べていたこと,被告は同人と出会った時間帯や場所,自称する年齢や容姿などから,既婚者である可能性は全く考えなかったこと,その後,Aから年齢は24歳であると聞き,更に交際開始から半年程度たったころに年齢は29歳であると聞いたこと,被告がAの婚姻の事実を知ったのは,平成27年1月ころに原告の代理人から本件に関する電話連絡を受けたときであることなどを述べている。
2 争点1について
  (1) 上記1のとおり認められる経過によれば,被告は遅くとも平成26年1月初めにはAの不貞行為の相手方となり,少なくとも同年8月ころまで継続したことが認められるが(以下上記期間を「本件交際期間」という。),本件交際期間において,被告においてAが婚姻していたことを知っていたものと認めるに足りる証拠はなく,故意による不法行為責任を認めることはできない‥(中略)‥
(2)ア 次に,被告においてAが婚姻していたことを知らなかったとしても過失があると認められるかを検討するに,原告は,被告において,Aとの特殊な交際態様で交際していたことを理由として,交際を続けていく以上,貞操権の侵害をしないために,ほかの交際相手がどのような関係の者であるか確認すべき注意義務があった旨主張する。
 しかし,Aが被告と単なる情交相手として交際し,他の交際相手がいたなどという事情は,かえって被告においてAが婚姻しているとの認識を持ちがたいことをうかがわせる事情ともいえるから,当該事情があるからといって,被告にほかの交際相手とAの関係性を確認すべき注意義務が生じるものと解することは困難であり,原告の主張は理由がない。
 イ また,原告は,遅くとも平成28年8月には,被告はAが30歳であることを知っていたことからすれば,Aの年齢に照らし,被告において,Aが婚姻していることを容易に知り得たというべきであり,Aが未婚であるか調査をすべきであった旨主張する。しかし,交際している男女間で,一般的に相手が婚姻していないことを確認するため調査をすべき義務があるものとは認めがたいところ,上記認定事実のとおり,被告とAがクラブで知り合ったという経緯,本件交際期間が8か月程度であったこと,その間Aと被告が会っていた頻度は月数回程度であり,その交際態様も,Aにおいて昼夜を問わずLINEのやりとりをしたり深夜に会うなどするものであったこと,被告とAは単なる情交相手として双方交際し,Aにおいてほかの交際相手も本件交際期間中にあったという交際態様及び被告の年齢・社会経験等に照らすと,Aの年齢が30歳であったことを理由として,本件で特にAが未婚であるかを調査すべき義務が被告にあったということはできない(原告は,被告の供述によってもAの年齢に関する説明の変遷があったことを理由として上記調査義務があるという趣旨の主張もするが,当該事情があったとしても,一般の男女の交際におけるやりとりとしてあり得ないものでもないことに照らすと,上記判断を覆すに足りるものではない。)。
 ウ さらに,原告は,Aの身体的特徴(妊娠線があること,出産時の会陰切開の跡があること)等からAが婚姻していることを容易に知り得たというべきであるとの主張もし,これに沿う供述をするが(原告本人),被告の年齢・社会経験等に照らし,原告の主張するようなAの身体的特徴自体を容易に判断できたものとも認めがたいから,原告の主張は理由がない。
   エ 以上に照らせば,被告において,Aが原告と婚姻しているとの認識を有していたことを認めることはできず,そのような認識を持たなかったことについて被告の過失を基礎付けるに足りる事情があったものということもできないから,被告の不法行為責任を認めることはできない。

4 若干の検討

裁判所は、原告の主張をことごとく排斥しています。ある意味で、現代の若者の交際状況に思いをはせるような判断ともいえましょう。

Aが被告と単なる情交相手として交際し,他の交際相手がいたなどという事情はかえって被告においてAが婚姻しているとの認識を持ちがたいことをうかがわせる事情ともいえると判断しています。

いろんなところに情交相手がいる=遊び人?的な認識で交際をしていることは、自分の恋愛が不倫であることを認識したり、注意することを要求することはできないとの判断です。

裁判所は、個々人の恋愛に対して、是非を判断することはないにせよ、不貞行為かどうかの判断に、交際当初の事情を重視している?交際に入った段階で気づいていたか、注意義務を果たしていたかに若干傾聴している?ような印象を受けます。ただ、交際中に交際者が実は既婚者であることは、交際が進めば進むほど、途中で認識しうることもあるのではないでしょうか?





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