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不倫判例百選㉘探偵費用は157万円

0 はじめに

探偵の報告書があるので、証拠はばっちりです。私、探偵さんに157万円も支払ってしまったので、弁護士に依頼するお金もありません。裁判で、全部取り返せますよね?探偵業者もそうやって言ってました。

実務上、判決に至る場合に調査費用や弁護士費用は、認容額の1割まで認容されることが多いと指摘できますが(100万円の慰謝料であれば10万円まで)、実は一切を否定しているものもあります(被告が不貞行為を認めているケースにおいて、東京地方裁判所平成22年2月23日に出された判決など)。

本件では、157万円満額の探偵費用支払いを命じたものではないも、100万円を認容したケースをご紹介いたします。

1 100万円の支払い義務?

東京地方裁判所において平成22年12月28日に出された判決は、100万円の支払いを認容しています。

 被告は,上記1(2)エのとおり,本件訴訟提起前には,Aと平成22年8月にホテルに入ったことは認めるものの不倫関係は否定しており,本件訴訟においても,当初は前提事実(3)イ,ウの各日時・場所においてAと面談したものの同人との不倫関係は一切なかったと主張し,後に前提事実(3)の各日にAとの男女関係があったことを認めるに至ったこと(記録上明らか),前提事実(3)及び上記1(1)ウ①ないし⑧の不貞行為は,いずれも原告に知られないように秘密裏に行われていること(弁論の全趣旨)が認められる。
 これらの事実を踏まえると,前記不法行為の時点において,原告がその立証のために探偵業者に調査を依頼することは,必要かつ相当な行為であったと認められ,本件訴訟においても,上記調査報告書は,被告が自白に転じなければ前提事実(3)イ,ウの不貞行為を立証する上で最も重要な証拠であったといえるほか,同不貞行為が行われた各日におけるAの手帳中の「Y」との記載と相まって他の不貞行為の立証においても一応有益であったといえる。したがって,原告が支出した上記調査料金のうち100万円を,上記不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

2 高額な調査費用?

 もちろん、原告は157万円の支払いをしていますから、100万円ではたりません。ただ、どのようなケースで高額の調査費用が認められるのか、この裁判例は示唆的です。

『不貞行為の立証をするのに不可欠であった』かどうかが一種の基準となりそうです。本件では、被告は不貞行為の存在を否認している状態でしたから、探偵証拠は立証に不可欠だという論理です。ただ、かといって、どうして100万円に制限されているのかはせつめいされていません。一応、理由を探索してみると・・

同不貞行為が行われた各日におけるAの手帳中の「Y」との記載と相まって他の不貞行為の立証においても一応有益であったといえる。したがって,原告が支出した上記調査料金のうち100万円を,上記不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

手帳Yの記載と相まっているのが、本件での探偵証拠の位置づけになります。仮に、手帳が存在しなければ、探偵証拠は不可欠の証拠となり、場合によっては「一応有益」ではなく「不可欠」な位置づけを得ていたようにも思われます。

そうすると、「不可欠」な証拠を得るために、調査費用を用いるのですから、100万円以上の結論に至る可能性もあったでしょう。実はこのケース『謹賀新年』でご紹介した判決と同一でした。

3 若干の疑問

立証に不可欠であったかどうかの基準はもちろん、重要です。ただ、立証に不可欠かどうかは、判決の段階で明らかになる事情であって、結果論に過ぎないのではないか。探偵費用は極めて高額に上るものであり、調査を依頼する時点においては今後被告が事実関係を争うかどうかは不確実な要素に依存します。探偵証拠がなくとも、あっさり認めるケースもあるわけですし、探偵証拠がなくとも、自分の配偶者が自白をすれば、あっさり認められる可能性も高まるわけです。

調査の必要性の判断を合理的にするために、できれば統一的な基準が求められるのではないか。100万円はどう算定されたのか、日記が存在しなければ、満額の認容がありえたのか・・・?


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