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不倫判例百選㊲【番外編】典型的な結婚詐欺?

0 はじめに

不倫判例百選は、不倫慰謝料の裁判例をおおく扱ってきました。

しかし、当然ながら、不倫問題は、不倫慰謝料の問題ばかりではありません。読んでいただいている方から、できれば厳密に不倫ではないケースはどうなのか?不倫とは異なる交際関係に関する裁判例はないか、とご質問をいただきました。

今回は、愛人契約、結婚詐欺の事例のご紹介です。ちなみに、被告は、原告に対し、1030万8000円の支払いが命じられています。

1 原告の主張から

原告は,平成19年7月,横浜の男女交際クラブ(クラブ)の紹介により,被告と知り合い,男女交際を開始した。その際,被告は,原告に対し,「結婚しているが,離婚予定である。」と述べていた。
 原告は,被告から,数々の身の上話を打ち明けられて同情し,匿名ではない男女間の結婚を前提とした交際を希望するようになり,被告もそのような交際を仄めかし続けた。その結果,原告は,同年12月,被告に対し,被告が原告以外の男性と複数交際しているのであれば今後は交際できない旨の「別れ」のメールを送ったところ,被告は,原告に対し,交際相手が原告のみであること,今後も原告と交際を続けたい旨のメールを返した。
 そして,原告は,クラブに確認し,クラブのサイトから被告が脱会したことを確認し,新たに被告との間で通常の男女交際をし始めた。クラブでは,被告は,原告に対し,自分の本名,本当の住所地,本当の電話番号,本当の夫の存在を語っていたものである。
原告は,クラブに確認し,クラブのサイトから被告が脱会したことを確認し,新たに被告との間で通常の男女交際をし始めた。クラブでは,被告は,原告に対し,自分の本名,本当の住所地,本当の電話番号,本当の夫の存在を語っていたとありますが、本当の夫の存在、となると、不倫判例百選の一部をなしています。ここからも、慰謝料請求だけがすべてではないことがわかります。

 原告と被告は,その後も交際を続けたが,被告は,原告に対し,何度となく,「離婚できたら原告と再婚する。」と仄めかした。
 平成21年5月,原告は,被告に対し,結婚を申し込んだところ,被告は,原告に対し,泣きながら感謝し,これを承諾した。その時点で,被告は,離婚予定であって,離婚次第原告と結婚するとの合意が成立した。

ここまでを読むと、純愛に思います。泣きながら感謝した恋愛なんてあるでしょうか・・・?ここから、風向きが変わります。

 平成22年5月31日,被告から原告へのメールでは,原告と被告との将来を見据えた家具の購入の合意がなされ,同年9月25日,被告は,原告のクレジットカードを利用して家電製品を購入している。
 原告は,その頃,被告に対し,結婚を前提として交際している者として,両親に会って欲しいと依頼し,その都度,被告は,夫と離婚してから会うと引き延ばしていた。そして,平成23年4月以降,原告は,被告が前夫に支払う慰謝料として,1回30万円の合計300万円を渡している。
 その後,平成24年2月,被告は,原告に対し,離婚が漸く成立したと言ったので,原告は,被告の両親に挨拶することにし,福島県に在住する両親に会うための打ち合わせを同年3月25日にしたが,その後,被告から音信が途絶えてしまった。
  (2) 原告と被告は平成24年まで交際を続けたが,突然被告との連絡が取れなくなったため,原告は,同年4月,被告の住所として聞いていた場所を訪問したところ,被告の居住していた形跡はなく,同年5月には,被告から,原告に対し,「別れましょう」との発送先不明の速達が届いた。
  (3) 原告は,被告と交際していた5年間,被告に対し,下記のとおり,約1024万8000円の金員を渡した。しかし,被告は,原告に対し,6万円しか返済していない。   

不貞行為に及んでいる関係にはありますが、原告は、被告の夫に支払われる慰謝料であることを期待して、合計1024万円を貸し付けます。しかし、6万円の返済しか受けていないとなると、、もとより、原告から金銭を詐取するための交際であったのでしょうか・・・?原告は、そんなこと信じたくないでしょうが、訴訟の現場で認容判決をえるには、そのほうが都合がよくなてしまうのがまたジレンマです。

さて、1000万円以上の内訳をみてみると・・

ア 被告が借用書を作成したもの
 (ア) 平成21年5月31日 186万0000円
 (イ) 平成22年1月11日 40万0000円
 (ウ) 平成22年6月13日 80万0000円
 (エ) 平成22年10月17日 40万0000円
イ 被告が前夫Aへの慰謝料支払い名目で受領したもの
 原告は,被告に対し,平成23年4月27日から1回あたり30万円を10回に亘り合計300万円を渡した。しかし,Aなる人物は存在しなかった。
 ウ 家電製品代金相当分
 原告は,被告に対し,平成22年9月25日,家電製品を購入する代金として,20万8000円を出費した。
 エ その他
 原告は,被告に対し,平成23年4月27日から10回に亘り合計70万円を渡した。また,原告は,被告に対し,平成19年から平成24年までの5年間,合計300万円を現金で渡した。
(4) 原告は,被告と連絡が取れなくなったため,調査会社を利用して被告の身上を調査したところ,被告の氏名,住所,勤務先及び実家などがいずれも虚偽であることが判明し,加えて,被告がAと結婚歴がなかったことも判明した。
  (5) 原告は,被告から,いわゆる結婚詐欺により1030万8000円の金員を詐取されたものであるので,金員の貸与ないし贈与を取り消す。

原告の主張は、完全に結婚詐欺であると主張したいのでしょう。急に音信不通になったと思いきや、聞いていた住所は全部嘘とくれば、1000万円以上支払ってしまった原告は、どう判断されるのか。

2 被告の反論

被告が偽名Bを使用していたことは認める。しかし,クラブとは,いわゆるデートクラブ営業を指し,ある程度,年収及び社会的地位があり,金銭を支払ってでも女性と知り合い,場合によっては性的な関係を含めて交際の機会を持ちたい男性と場合によっては性的な関係を含めた交際を提供することを前提に金銭的な援助を受けたい女性とのそれぞれの思惑を結びつける場を提供している。したがって,その性質上,女性側の本名,住所,電話番号等は全て匿名ないし仮名とすることになっている。
 被告は,平成19年頃,配偶者の金銭問題が原因で生活に困窮していたところ,クラブの存在を知り,割り切った交際に応じることができる男性の紹介を依頼していた。そのような中で,被告は,クラブの紹介により,原告を紹介されたものであって,結婚する相手を紹介してもらう意思は毛頭なかった。
 そして,被告は,原告との間で,割り切った交際に努めていただけであって,月1回ないし2回の割合で,原告は,被告に対し,4万円ないし5万円程度の金銭的援助を行い,被告は,原告に対し,場合によっては性的な関係を含めた交際の機会を提供する関係を続けていたものである。その際,被告は,原告に対し,婚姻を求めたり,婚姻を仄めかしたりしたことは一度もない。原告は,通常の交際をしていたと主張しながら,調査会社の調査まで被告の本当の氏名及び住所を確認しなかったものである。被告は,クラブの在籍時の延長でBと名乗り続けていたに過ぎない。
  (3) 原告と被告との関係は愛人契約に他ならず,公序良俗に反して無効であり,愛人契約に基づいて給付された原告の主張する金員は不法原因給付として,原告は被告に返還請求できない。
  (4) 被告は,平成22年8月に離婚が成立し,新居費用,家電製品,生活用品等が必要となったが,割り切った交際に負い目を感じており,離婚後に生活に必要になる金銭等の援助を言い出せなかった。そのため,被告は,原告の提案に合わせる形で原告に出費してもらっていたに過ぎない。

被告はそもそも、割り切り交際で会った以上は、何も自分は悪くない、お金を返す必要はない、との反論です。

3 裁判所の判断

裁判所は、本件の争点を以下のようにとらえます。

双方の主張を踏まえると,本件における争点は,原告と被告との交際がクラブの延長である交際に過ぎなかったのか,それとも結婚を前提とした交際に変化したかである。

婚姻を前提とした高裁であれば、借りたお金を返さなくてよろしいとも読めてしまいそうなのは疑問です。ただ、この裁判例では、1000万円以上のしはらいを被告に命じています。

 (1) 原告は,平成19年7月,クラブの紹介により,被告と知り合い,男女交際を開始した。交際の際には,クラブから3万円程度のお礼を渡すように指示されたため,原告は,被告との交際の際,4万円ないし5万円程度のお礼を渡していた。
  (2) クラブはいわゆるデートクラブ営業として,ある程度,年収及び社会的地位があり,金銭を支払ってでも女性と知り合い,場合によっては性的な関係を含めて交際の機会を持ちたい男性と場合によっては性的な関係を含めた交際を提供することを前提に金銭的な援助を受けたい女性とのそれぞれの思惑を結びつける場を提供していた。したがって,その性質上,女性側の本名,住所,電話番号等は全て匿名ないし仮名としても構わないことになっており,被告はBと名乗っていた(乙1)。
  (3) 原告は,被告から,数々の身の上話を打ち明けられて同情し,匿名ではない男女間の結婚を前提とした交際を希望するようになり,被告もそのような交際を仄めかした。その結果,原告は,同年12月,被告に対し,被告が原告以外の男性と複数交際しているのであれば今後は交際できない旨の「別れ」のメールを送ったところ,被告は,原告に対し,交際相手が原告のみであること,今後も原告と交際を続けたい旨のメールを返した(甲2)。
 この点,被告は,原告に対し,婚姻を求めたり,婚姻を仄めかしたりしたことは一度もないと供述するが,上記メールのやり取りやその後双方ともクラブを脱会していることなどに照らすと,原告に対し,結婚を仄めかすような言動をしていたものと認める。被告の上記主張は採用できない。
  (4) 原告は,クラブに確認し,クラブのサイトから被告が脱会したことを確認し,新たに被告との間で通常の男女交際をし始めた。クラブから脱退した後も,原告は,被告に対し,交際の都度,4万円ないし5万円を渡していた。被告は,原告との交際の中で,現在の夫と離婚できたら結婚することを仄めかすようになり,平成21年5月,原告は,被告に対し,「一緒になりたい」という趣旨で結婚を申し込んだところ,被告は,原告に対し,泣きながら感謝し,これを承諾した。

上記を前提とすると、結婚を前提としている交際であることを裁判所は認めています。

この点,被告は,原告から,「一緒になりたい」ということは言われたが,正式な結婚の申込みとは受け止めていなかったなどと供述しているが,被告の結婚への了解がなければ原告との交際は頓挫しているか,終了しているはずである。その後,平成22年5月31日,被告から原告へのメール(甲8)では,原告と被告との将来を見据えた家具の購入の合意がなされ,同年9月25日,被告は,原告のクレジットカードを利用して家電製品を購入していること,被告の原告の上記申込みに対する応答が判然としないことにも照らすと,被告の上記主張は採用できない。
(5) その後,原告は,被告に対し,結婚を前提として交際している者として,両親に会って欲しいと依頼し,その都度,被告は,夫と離婚してから会うと引き延ばした。
 平成24年2月,被告は,原告に対し,離婚が漸く成立したと言ったので,原告は,被告の両親に挨拶することにし,同年3月25日,福島県に在住する被告の両親に会うための打ち合わせを行ったが,その後,被告から音信が途絶えてしまった。そのため,原告は,同年4月,被告の住所として聞いていた場所を訪問したところ,被告の居住していた形跡はなく,同年5月には,被告から,原告に対し,「別れましょう」との発送先不明の速達が届いた。
 原告は,被告と連絡が取れなくなったため,調査会社を利用して被告の身上を調査したところ,被告の氏名,住所,勤務先及び実家などがいずれも虚偽であることが判明し,加えて,被告がAと結婚歴がなかったことも判明した。

慰謝料に充てると言って支払ってきた金銭は、そもそも、被告に配偶者がいなかったことが明らかとなり、そもそも発生していない金員であったことを認めています。

(6) 以上のとおり,原告と被告は,クラブでの交際が契機であったが,双方ともクラブを脱会した後,通常の交際を開始し,平成22年5月31日以降は結婚を前提とした交際を開始しながら,被告は,原告と結婚する気はなく,結婚に必要な金員を原告から出捐させ,双方の両親との面会日程が本格化すると姿をくらましたものであって,典型的な結婚詐欺である。したがって,被告の主張するような,原告と被告との関係は愛人契約ではないし,公序良俗に反して無効でもなく,不法原因給付にもならない。

裁判所は本件を典型的な結婚詐欺とまで言い切りました。

不倫判例百選であるこの記事では、実は不倫であると思っていたが不倫でさえなく、騙されて金員を交付されてしまった事例と位置付けられましょう。そうすると、ある意味、不倫判例百選にはそぐわないかもしれません。結婚詐欺の典型、とするのであれば、被告の積極的な関与、積極的な虚言はどのようなものがあったのか、明らかであるほうが好ましいようには思います。

そう考えると、真摯な構成であったかどうか、は争点の整理としては微妙ではなかったか・・と考えています。

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