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離婚裁判百選㉑夫婦関係の破綻の判断方法?

離婚裁判百選⑳では、夫婦関係の破綻に関し、離婚調停申立てを一つ重要な要素として判断した事例を検討しました。今回は、不貞行為後離婚調停を申し立てられていたケースにおいて、離婚調停申し立ての有無は夫婦関係の破綻において認定されていないと判断している事例です。

1 事案の概要

東京地方裁判所において令和3年5月21日出された裁判例は、原告が300万円の慰謝料を求めたのに対し、132万円の範囲で請求を認容しています。

(1) 原告とA(以下「A」という。)は,平成18年1月6日に婚姻の届出をし,長女をもうけたが,令和元年6月21日,東京家庭裁判所において,離婚するとの調停が成立した。(甲1,2,5)
(2) 被告とAは,バドミントンの趣味を通じて知り合い,少なくとも平成29年7月初め頃,性交渉に及んだ。

前提となる事実関係

2 争点及び争点に関する当事者の主張


  (1) 婚姻関係の破たんの有無

(被告の主張)
 Aは,被告に対し,平成29年4月頃,夫の浮気が原因で夫婦関係がうまくいっておらず,子供が生まれてからは性交渉をしていないという話をするなど,夫との関係がうまくいっていないことを話していた。
※Aとは、原告の元配偶者です。
 原告は,Aを相手方として,平成30年3月6日,離婚調停を申し立てており,これは,Aに被告との不貞行為を問い質した同月20日より前のことである。
 したがって,原告とAの婚姻関係は,被告とAとの不貞関係が原因で破たんしたのではなく,既に破たん済みであり,原告は,自己に有利に離婚を成立させるために,離婚調停においてAの不貞行為を主張したものと考えられる。
 (原告の主張)
 被告の主張は,争う。
 原告がAとの婚姻期間中に浮気をしたことはないし,長女が生まれてから平成29年4月頃までの間にいわゆるセックスレスの状態にあったことはない。
 原告は,平成29年9月頃,Aの携帯電話において,被告とのLINEのやり取りを読んだことをきっかけに,Aが被告と不貞行為を行ったことを知っていた。
 原告がAとの離婚を決意したのは,Aが原告を裏切って被告と不貞行為を行ったからという一点に尽き,原告とAの離婚の原因は,被告とAの不貞行為をおいて他にはない。

原告の主張と反論より引用

 被告は原告の元配偶者から夫婦関係がないと相談をされていたこと、離婚調停を申し立てたのは、不貞行為を問いただすより以前のこと、であることを論拠として夫婦関係の破綻は不貞行為が原因なのではなく、破綻は不貞行為前から生じていたと反論しています。

3 裁判所の判断

‥(前略)‥イ 被告とAは,平成29年3月末頃,本件サークルの練習の後,2名のみで飲食に行ったところ,酩酊した被告がAにキスをする等し,Aは,翌日の午前5時頃に帰宅した。(甲3の1,2) ウ Aは,被告に対し,弁当を作ってあげたい等と誘い,平成29年4月頃から,1週間に1回程度の頻度で,当初は近隣の公園において,同年5月頃からは被告方において,一緒に弁当を食べるようになった。‥(中略)‥オ 被告とAは,平成29年7月初旬,ホテルにおいて,性交渉に及んだ。カ 被告は,Aに対し,平成29年8月中旬頃,関係の解消を申し出て,Aは,これに応じた。(甲2の1,2,甲3の1,2)キ Aは,平成29年9月14日,被告との共通の知人である男性に対し,LINEにおいて,被告との関係について,「自粛期間から覚めたら様子がおかしかった こーいう関係は良くない終わりたいと言って来る様になってきた それなのにズルズルと会って身体が忘れられないとかエッチの相性が合うとか言っては変な事してたよ」等のメッセージを送信した。(甲2の1,2)ク 被告とAは,平成30年2月,本件サークルとは別のバドミントンサークルの練習終了後に飲食に行き,飲食が終了した後,Aが被告を投げ飛ばし,被告が右肩を骨折した。   ケ 原告は,Aに対し,平成30年3月20日,不貞行為に及んでいることについて問い質したところ,Aは,原告に対し,被告との間で,平成29年4月頃から同年8月頃にかけて,1週間に1回程度の頻度により性交渉に及ぶ等の関係を持ち,同月頃に関係を解消したが,その後も断続的に会い,平成30年2月21日に被告と会った際にも性交渉に及んだこと等を認める発言をした。(甲3の2) コ 原告は,平成30年2月頃,東京家庭裁判所において,Aを相手方として,夫婦関係調整調停を申し立て,令和元年6月21日,長女の親権者をAと定めて離婚するとの調停が成立した。なお,同調停の調停条項には,Aが原告に対し,婚姻期間中,被告と不貞行為を行ったことを認める旨の条項が設けられている。(甲1,4)

事実関係に対する判断

2 争点1(婚姻関係の破たんの有無)について
 被告は,Aが被告に対し,原告との夫婦関係がうまくいっていないことを話していた等として,被告とAが交際関係を持った時点において,原告とAの婚姻関係が既に破綻していたと主張する。しかし,本件証拠によっても,原告とAの夫婦関係に支障が生じていたことをうかがわせる事情を認めることはできず,一般に,既婚者が配偶者以外の者と交際関係を持つ場合,相手に対し,夫婦関係に特段の支障を生じていなくても支障が生じているかのように話すことも十分に考えられることであるから,Aが被告に対し,原告との夫婦関係がうまく行っていないことを話していたとしても,このことをもって,原告とAの婚姻が破たんしていたということはできない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

夫婦関係の破綻に対する判断

4 若干の検討


 
この裁判例では、離婚調停の成立・調停条項への不貞行為を認める事実の記載をもってしても、離婚調停を夫婦関係の破綻としては重視していないことが理解できます。夫婦関係破綻の事実に関しては、被告が交際者から夫婦関係がうまくいっていないと説明されたと主張しているものに対し、『不貞行為に及ぶ関係においてはよくあること』と説明されています。破綻の判断にあたっては離婚調停の事実は認定すらされていません。離婚調停の申立の有無が破綻において重視されるのではなく、離婚調停申し立ての『時期』が重要だと思われます。申立の時期、は、当事者にとっても揺れることが多いので、早ければよいというものでもないから、難しい。


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