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不倫判例百選㉝不倫じゃなくて強制わいせつです - 詫び料1500万円?

0 はじめに

不倫をしていた。とがめられる行為とはわかっていたけど、後ろめたくても、続けていました。私はこんなことしたいと思っていなかった。無理やりだったこともあって、強制わいせつでした。

この相談も、本当によくあります。強制わいせつ罪は刑法上の犯罪ですが、本件の裁判例は、上記相談とは全然違います。

1 裁判例の検討

東京地方裁判所において平成28年10月12日に出された裁判例では、当初原告が債務不存在確認の訴えを提起しています。原告が被告Y1及び本訴被告Y2(以下「被告Y2」といい,被告Y1及び被告Y2を併せて「被告ら」という。)の経営するスナックの常連客となり,被告Y2に経済的援助を行っていたところ,被告らから,法的義務がないにもかかわらず家賃支援金の支払を請求されるようになった。これに対し,被告らに対し,家賃支援金債務が存在しないことの確認を求めています。

 その後、債務が不存在になると、急に、被告らは夫婦(夫婦でスナックを経営していた)であるところ,原告と被告Y2が長期間不貞関係にあり,被告Y1の権利が侵害されたと主張して,被告Y1が,原告に対し,慰謝料300万円及びこれに対する不法行為開始日である平成20年4月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めています。

有体にいいますと、不倫相手に家賃の補助をしていたのち、家賃の補助を停止した。しつこく家賃の負担を請求されたことに対し、もう支払わないと経営者夫婦を訴えた。経営者の一人である旦那は、うちの嫁に強制わいせつをしたのはお前なのだから、慰謝料を支払えと反論した事例です。

1 権利濫用?

当初旦那は、交際を咎めることはなかったのに、むしろ、それを容認した上で原告に経済的援助を求めていたようです。しかし、原告が経済的に切迫するやいなや,急に態度を変えて,原告に対し,不貞行為や事実無根の強姦・強制わいせつなどと主張し始め,それを原告の家族や原告勤務先会社に知らせるなどと脅迫した事実をもって、裁判所は、権利濫用の主張をみとめています。

すなわち,前記認定事実によれば,被告Y1は,当初,原告と被告Y2との交際関係を容認し,むしろそれを前提とした資金援助を積極的に求めていたにもかかわらず,原告が資金援助に難色を示すと,急に態度を翻して,強制わいせつ行為や不貞行為をしたことの詫び料として1500万円の支払を求め,さらには指定する期限までに1000万円を支払わなければ原告勤務先会社の社長,原告の妻,原告の子らに手紙を送るなどと述べて原告を脅迫するようになったと認められる。
上記の強制わいせつ行為に関しては,その事実があったことを述べる被告の陳述書(乙2)はあるものの,何ら客観的な証拠は存在せず,かえって,本訴の係属当初は任意の交際であったことを認めていたのに,本訴が係属して相当の期間が経過した平成27年7月に至って初めて,原告から性的関係を強要されたなどと供述するようになったこと,仮に強制わいせつ等の行為があったとすれば,原告に対して交際を拒否したり,警察に届け出る等の行為があってしかるべきであるが,そのような行為も一切なされていないことに照らせば,被告Y2の供述を信用することはできず,原告が被告Y2に強制わいせつ行為をしたとは認められない。
 以上のとおり,被告Y1は,原告からの資金援助が難しくなったときから急に,不貞行為や事実無根の強制わいせつ等を主張して,原告を脅して法外な金銭要求をし始めたものであって,原告と被告Y2との交際関係の事実をいわば金銭要求の手段として利用していたということができる。
 このような経緯に照らせば,被告Y1の慰謝料請求は権利の濫用に該当するといわざるを得ない。

2 若干の検討

どうも、経済的援助を目的として、当初の被告である旦那は、不貞関係を容認していたようです。

不貞関係を容認していた?価値観はさておき、不貞関係を容認する行為それ自体は、夫婦関係の破綻を意味するのではないか?

夫婦関係が破綻しているのであれば、そもそも、自らが慰謝料請求をすることは困難でしょう。言ってしまえば、自らが、慰謝料請求をするに足る状況にないはずであって、急に、家賃補助を得られないからといって慰謝料を請求する態度に豹変することは許されない、との判断です。

この判断は、名言こそしていないものの、夫婦関係の破綻には言及していません。

ただ、私個人としては、夫婦関係の破綻があれば、慰謝料請求できないルールが確立している以上は、金銭的援助が切れたことをきっかけとして急に言い出した強制わいせつや不倫慰謝料を持ち出すより、単に夫婦関係が破綻していたのだから、慰謝料請求はできない、と整理すればいいのではないか?と思わずにはいられません。夫婦関係の破綻を容認していながら、慰謝料請求は権利濫用である、ともいえましょうか。法外な金員の請求という意味では権利濫用になじむ議論ともいえましょうが、夫婦関係の破綻はあきらかでしょう。

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