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不倫判例百選判例百選㉞スーパー銭湯で不貞行為?

0 はじめに

その温浴施設で利用した個室はオープンな半個室でした。だとすれば、性交渉など行えば他人に容易に発覚するはずです。そのようなことをすることはあり得ません。

『オープンな半個室』ある種矛盾する性質を背中合わせに持つこの空間で、不貞行為はあったのか?不貞行為があったのかは、ほかならぬお二人しか知らないことなのでしょう。オープンなら、誰かがみるかもしれません。個室なら、二人しかわかりません。半個室なら?

疑問は深まるばかりですが、裁判所はどのように考えたのでしょうか?

1 双方の主張から

東京地方裁判所において平成30年10月4日に出された判決は、以下の事実までには争いがない、これは裁判上は事実であることを前提としています。

被告,平成28年11月25日,さいたま市内の温浴施設「湯屋敷 孝楽」(以下「本件温浴施設」という。)において,Aと約2時間程度面会した。(争いのない事実,甲5,8) 

約二時間程度の面会です。温浴施設で不貞行為・・はありえるのでしょうか・・?原告と被告の、この部分の主張と反論をみてみます。

(原告の主張)
被告は,同年11月には,本件ビジネスホテルを予約するなどして,Aと旅行をしようとしたことがあったほか,同月25日には,本件温浴施設において,Aと不貞行為を行った。

(被告の主張)
 被告はAと不貞行為に及んでいない。被告とAは,本件セミナーの活動などを通じて親しくなり,プライベートな会話もするようになり,Aからは原告との夫婦関係について深刻な悩みを打ち明けられていたため,そうした相談を受けていたにとどまる。‥(中略)‥同月25日の本件温浴施設での面会についても,被告がAから呼び出されて,原告との離婚に関する相談を2時間程度受けていたにすぎない。本件温浴施設で利用した個室はオープンな半個室であり,性交渉など行えば他人に容易に発覚するのであり,そのようなことをすることはあり得ない。

2時間程度配偶者のある者と配偶者以外の女性が、温浴施設で会っていた事実をめぐって、慰謝料請求をする原告は不貞行為があったのだと、慰謝料請求されている被告は離婚に関する相談を二時間程度していた、個室はオープンな半個室ですと・・離婚に関する相談をオープンな半個室でするか?はさておき、オープンな半個室、とは、オープンだという趣旨なのでしょう。離婚に関する相談はクローズドな気もいたしますが・・

2 裁判所の判断

訴訟の原告でも被告でもない、不倫相手の証言の信用性(Aの証言の信用性)を軸に、裁判例は検討を展開しています。不倫相手は、

 平成28年11月25日には,本件温浴施設の個室を予約し,被告と面会した。この日に会うことになったのは,被告から連絡があったためである。原告が警戒していたため,ホテルなどで会うわけにはいかず,個室の使える場所を調べたところ,本件温浴施設が見つかったため,自分が電話で,個室を予約した。ここでは,被告との性交渉はなかったが,被告とキスをし,体を触られた。

個室の使えるところを調べた、温浴施設が見つかった、個室を予約した、とのことです。細かな違いは置いておくとしても、被告と結構違うような違わないような言い分です。

原告からは,平成28年11月下旬,被告と二度と会わないよう厳しく言われ,被告からもしばらく会わないようにしようと言われた。それでもBを通じて被告と連絡を取り合っていたところ,平成29年1月初めに,原告にそのことがばれてしまった。原告は激怒し,ラインでの会話の証拠や本件温浴施設での密会の証拠などを指摘されて言い訳ができず,平成28年10月初旬から同月下旬にかけて,4回にわたり,渋谷や池袋のラブホテルで不貞関係を持ったことを認めた。
検討
‥(中略)‥平成28年10月28日に,被告と会っている最中に原告から頻繁に着信があり,気が動転して家に帰れなかったという点や,原告が警戒していたため本件温浴施設で会うにとどめていたという点も,それなりに理解できる行動であるといえる。このように,上記アからエまでの供述は,全体として,自然であるということができ,不合理な点は特に見当たらない。

訴訟の当事者ではないが、不倫の当事者であるAの供述は、全体として信用されています。判決文に葉記載されていませんが、ともすれば、自分にとっても不利益な状態に陥る可能性がある供述=不利益陳述をおおく含んだ供述をしているが信用性判断のポイントとも分析できましょう。

 ここでご紹介しておきたいのは、この不倫相手の供述を信用した以上、ことごとくこれに反する原告・被告双方の言い分は排斥されていく末路をたどります。

3 温浴施設での行為は?

被告の主張について
 上記のとおり信用性の認められる本件A供述によれば,被告は,平成28年10月中に,合計4回にわたりAと不貞行為(本件各不貞行為)を行ったほか,同年11月25日には,本件温浴施設においてキスをするなどの接触を行ったものと認めるのが相当である。
 なお,原告は,被告が同日にAと本件温浴施設において不貞行為を行った旨主張するが,この点は本件A供述に反し,認められない。

 原告は、不貞行為があったのだと主張していました。被告は、オープンな半個室で離婚相談をしていたと反論していました。

ここから読み取るべきことは、裁判所は、原告と被告のいずれかが真実を述べている、などと判断しているわけではないことです。もちろん、慰謝料請求を認容するかどうかは原告の主張・立証責任を果たしているかが問題になりますが、温浴施設において接触した事実までを認めていますが、同時に、接触した事実はキスをするなどの接触は、不貞行為ではないことも認めています。

長々ご紹介してきましたが、この裁判例では、温浴施設で不貞行為はない、と結論を出したのです。キスも不貞行為になりえる命題と多少矛盾する気もしなくありませんし、また、証人(不倫相手)の供述を信用するなら、半個室ではなくて個室だったようです。そうすると・・・真相は深まるばかりですね。。


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