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離婚裁判百選㉓立証が足りないとはどんな場合なのか?

0 はじめに


 証拠がなくて負けてしまう。しかし絶対に不倫をしている‥
そんな悔しいことがあるのでしょうか。実際にあるので、敗因を分析してみましょう。証拠がすべてだとみる向きもあるかもしれませんが、証拠をどのように効果的に使うかは、分析次第なのではないでしょうか。早速やってみます。

1 事案の概要


 
東京地方裁判所において平成27年7月23日に出された裁判例は、原告の主張に対し事細かな反論をし、請求を棄却させているケースです。

 (1) 原告(昭和45年○月○日生)とA(昭和52年○月○日生,以下「A」という。)は,平成18年7月20日に婚姻した夫婦である。‥(中略)‥
 (4) 被告及びAは,a株式会社(以下「勤務先」という。)に勤務している。
争点及び当事者の主張
  (1) 争点1(被告とAとの不貞関係の有無)について
 (原告の主張)
 ア 被告とAは,以下の機会に,不貞関係又は原告に対する不法行為を構成する程度の異常な関係を持っていた(以下「本件不貞行為(ア)」から「本件不貞行為(キ)」という。)。
 (ア) 平成24年2月24日,東京・神田のホテルにおいて
 (イ) 平成24年5月25日から同月26日にかけて,沖縄・宮古島のホテルにおいて
 (ウ) 平成25年8月29日から同月31日にかけて,タイ・プーケットのホテルアナンタラにおいて
 (エ) 平成26年1月4日,東京都内のA宅において
 (オ) 平成26年1月12日から同月14日にかけて,被告及びAの出張先であるシンガポールのホテルにおいて
 (カ) 平成26年4月6日から同月11日にかけて,被告の出張先であるドイツのホテルにおいて
 (キ) 平成26年7月18日から同月21日にかけて,東京の丸の内ホテル911号室,箱根湯本温泉のホテルおかだ及び伊豆修善寺温泉の旅館菊屋において
   イ 以下の事情は,被告とAが前記アの機会に不貞関係を持っていたことを推認させるとともに,被告とAとの関係が原告に対する不法行為を構成する程度の異常なものであったことを示すものである。
 (ア) 平成25年9月ころ以降,Aの下着に,性交後につくような性的興奮を示す汚れが複数回にわたり見られた。
 (イ) 被告とAは,多数回にわたり,短時間の電話を繰り返していた。
 (ウ) 被告は,Aとの不貞関係と時期を同じくして離婚し,A宅の近辺に転居した。
 (エ) 被告は,Aに対して携帯電話のメールアドレスを尋ねたり,デートに誘ったりしていた。Aも,原告の海外出張中は被告に会えるなどと述べていた。
 (オ) 平成25年11月22日に被告とAはデートをしており,その際,被告はAの肩や腰に手をまわし,抱き寄せてキスをしていた。
 (カ) Aは,5000万円を超える被告の損害賠償債務の連帯保証人になろうとしていた。
(被告の主張)
   ア 以下のとおり,被告とAとの不貞関係は存在しない。
 (ア) 本件不貞行為(ア)について,原告の主張する日は,被告,A及び他の同僚の3名で飲食をしていたに過ぎない。
 (イ) 本件不貞行為(イ)について,被告は予定していた沖縄行きを中止しており,沖縄に行った事実自体が存在しない
 (ウ) 本件不貞行為(ウ)について,原告の主張する時期に被告がタイ・プーケットに行った事実はない。
 (エ) 本件不貞行為(エ)について,被告が平成26年1月4日にA宅を訪れたのは,使わなくなったテレビを運搬し,設置作業を手伝うためである。
 (オ) 本件不貞行為(オ)について,原告の主張する時期に被告とAが勤務先の出張でシンガポールを訪れていたのは事実だが,現地では多数人が参加する食事の席で顔を合わせた程度であり,不貞関係は持っていない。
 (カ) 本件不貞行為(カ)について,原告の主張する時期に被告がドイツに出張したことはない。また,同時期に訪れていた出張先においても,Aと会ったことはない。
 (キ) 本件不貞行為(キ)について,被告は,丸の内ホテル,箱根湯本温泉のホテルおかだ及び伊豆修善寺温泉の旅館菊屋を利用したことがない。
   イ 原告の主張する各事情は,いずれも存在しないか,存在したとしても被告とAとの不貞関係に対する推認力を有するものではない。

原告・被告間の主張・反論の抜粋

2 裁判所の判断


 
裁判所は、一個一個の出来事に対して、証拠の有無に対し認定できる事実を指摘しつつも、証拠がない箇所に関してはバッサリ事実ではないと切り捨てていることが理解できます。

認定事実
 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。‥(中略)‥
  (2) Aは,平成24年2月4日に,被告に対し,「明日以降なら夫の人がしばらく海外出張だからヒマなんだけどなー。」などとのメッセージを送信した。また,被告は,同月25日,Aに対し,「こんどはデートにしましょ」などとのメッセージを送信した。(甲15)
  (3) Aは,平成24年5月24日に沖縄で行われた知人の結婚式に参加し,同月25日及び26日は,宮古島に滞在した。上記結婚式には被告も参加を予定しており,被告とAは同月6日時点で,往復の航空券及び宮古島で宿泊するホテルの予約等に関し,メールでやりとりをしていた。(甲23,証人A(以下「証人A」という。))
  (4) 被告とAは,平成24年7月から同年9月にかけて,及び,平成25年11月から同年12月にかけて,相当回数にわたり電話をしていた。その中には,同じ日に短時間の通話を繰り返すこともあった。(甲6,8)
  (5) 被告とAは,平成25年11月11日午後9時30分ころから深夜にかけて,東京都新宿区内の居酒屋で二人で飲食をした。その帰途に,被告とAが手をつないでいたことがあった。(甲16)
  (6) Aは,平成25年11月21日に原告と同居していた家を出て,その後,東京都渋谷区〈以下省略〉所在のマンションに転居した。(甲11,17,原告本人)
  (7) 被告とAは,平成25年11月22日午後10時ころから深夜にかけて,東京都世田谷区内のレストランで二人で飲食をした。同レストランへの往復の際,被告とAが手をつないだり,被告がAの首付近に腕を回したり,被告がAの顔に自身の顔を近付けたりしたことがあった。(甲17)
  (8) 被告は,平成26年1月31日付けで,東京都武蔵野市内の前住所地から,東京都渋谷区〈以下省略〉所在の現住所地に転居した。また,同年3月に前妻と離婚した。(甲9,弁論の全趣旨)
  (9) 被告は,平成26年3月8日午後2時ころ,自身の運転する自動車にAを同乗させて,被告宅付近を走行した(ただし,被告宅に入ったか否かは明らかでない。)。(甲18,19)
 2 争点1(被告とAとの不貞関係の有無)について
  (1) 原告の主張する各不貞行為について
   (ア) 本件不貞行為(ア)

 平成24年2月24日にAと飲食を共にしていたことは被告も認めているが,同日に不貞行為が行われたことを認めるに足りる証拠はない。
   (イ) 本件不貞行為(イ)
 Aが平成24年5月24日に沖縄での結婚式に参加し,同月25日から同月26日にかけて宮古島に滞在していたこと,被告とAがそのための航空券やホテルの予約等に関し事前に連絡をとっていたことについては前記認定のとおりである。
 しかしながら,宮古島へは複数の仲間と共に行くことを計画していたが,仲間の予定が変更になったため単独で行った旨の証人Aの供述の信用性を揺るがすに足りる事情は見当たらず,被告が上記時期に宮古島を訪れたものと認めるに足りる証拠もない(乙1によれば,同月8日ころの時点で,被告は沖縄行きを中止していたことがうかがわれる。)。
 したがって,被告とAが上記時期に宮古島で不貞行為をしていたものと認めることはできない。
   (ウ) 本件不貞行為(ウ)
 平成25年8月29日から同月31日にかけて,被告がタイ・プーケットに滞在していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告とAが上記時期にタイ・プーケットのホテルアナンタラで不貞行為をしていたものと認めることはできない。
   (エ) 本件不貞行為(エ)
 平成26年1月4日にA宅を訪れたことについては被告も認めている。しかしながら,使わなくなったテレビを搬入してもらい,その設置作業等を手伝ってもらっていたなどとの証人Aの供述の信用性を否定し,被告とAが不貞行為をしていたものと認めるに足りる立証がされたとは認められない。
   (オ) 本件不貞行為(オ)
 平成26年1月12日から同月14日にかけて,被告及びAが勤務先の出張でシンガポールを訪れていたことについては被告も認めているが,その際に不貞行為が行われたことを認めるに足りる証拠はない。
   (カ) 本件不貞行為(カ)
 平成26年4月6日から同月11日にかけて,被告がドイツに滞在していたことを認めるに足りる証拠はない。また,上記期間に被告とAが同一の場所に出張していたことがあったとしても,そこで不貞行為が行われたことを認めるに足りる証拠はない。
   (キ) 本件不貞行為(キ)
 原告は,自身の知人であるB(以下「B」という。)がその知人から受けた連絡の内容を根拠として,被告とAは平成26年7月18日には東京の丸の内ホテル911号室に,同月19日には箱根湯本温泉のホテルおかだに,同月20日には伊豆修善寺温泉の旅館菊屋に,それぞれ二人で宿泊していた旨を主張する。
 しかしながら,上記主張に関する証拠としては,原告がBから受けたとする連絡内容の一覧(甲28の1)があるのみで,その内容の信用性については何ら立証がない(原告はBを証人として申し出ていたが,同人に対する尋問事項とされていたのは「証人の経歴」,「被告と原告の妻が丸の内ホテルに出入りする写真を見ている事実」及び「被告が原告を攻撃している証拠を見ている事実」のみであり,上記連絡内容に関わるものは含まれていない。そして,直接の目撃者とされるBの知人については,氏名も特定されていない。)。
 したがって,被告とAが上記機会に上記各施設に宿泊し,不貞行為をしていたものと認めることはできない。
  (2) 被告とAとの関係について
   ア 前記認定事実(2)から(5),(7)及び(9)によれば,被告とAは単なる職場の同僚という関係にはとどまらず,相当に親密な関係にあったものと認められる。もっとも,被告とAは平成25年11月11日(認定事実(5))及び同月22日(認定事実(7))のいずれも,それぞれの当時の自宅に帰宅したものと考えられること,認定事実(7)の行動は飲酒の上でのものであったと考えられること,平成26年3月8日に被告とAが一緒に被告宅に入ったか否かは不明であること(認定事実(9)),被告とAはいずれも離婚に関わる問題を抱えていた状態であり(証人A),そのための相談という側面があった可能性も否定できないことなどからすれば,上記各事実から,被告とAとが不貞関係を持っていたとの事実を推認するには至らない。また,上記各事実自体が,原告に対する不法行為を構成するまでのものであるとも認められない。
   イ 平成25年9月ころ以降にAの下着に汚れが付いていることが多く見られたとの事実があったとしても,被告とAとの不貞行為を推認させるものではない。
   ウ Aと原告の別居時期と被告の離婚時期が近接していること,Aと被告の転居先が距離的に近い場所であったことなどの事情は,そのことのみから直ちに被告とAが不貞行為を行っていたとの事実を推認する根拠となるものではない。

3 若干の検討

 本件では、不貞行為に関する直截的な証拠がないことを、請求を棄却する根拠として複数回用いています。しかし、一方で、配偶者がありながら、他の異性と職場での関係を超えた親密な関係を用いていることも指摘しています。そもそも不貞行為の証拠となると、性交渉をしている証拠を必要とすることになります。これはそもそもの立証のハードルがあまりに高すぎます。合理的に考え、『被告とAは単なる職場の同僚という関係にはとどまらず,相当に親密な関係にあったもの』と指摘するのであれば、慰謝料を認容する判断をしてもよいのではないか。

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