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不倫判例百選㉚不倫に決意が必要なの?

0 はじめに

秋田地方裁判所において、令和2年1月7日に出された判決は、不貞行為の性質の判断に、「けじめに貫かれた」行為であるかを判示の一つの理由にしています。

不貞行為にけじめはあるのか。むしろその逆ではないか?なんて思ったり、ほかにも、証拠として「〇〇ちゃん(被告の氏名)」「いつもありがとう」なるびりびりに破かれた紙片を不貞関係を認める一つの指標にしている事例です。証拠は多様であることがよくわかります。

1 裁判例の検討-双方の言い分から

まず、原告と被告の主張は、正面から食い違っている事例であることを指摘します。不倫に対する謝罪があったとする原告と、不倫を疑わせるような行動をしたことを謝罪したと主張する被告の反論は、どう判断されたのでしょうか。

ポイントは、被告外出後に発見されたビリビリの紙片でした。

(原告の主張)
 被告は,夫と同じ職場で働いていたところ,平成28年頃から夫と交際を始め,平成29年6月8日,被告宅において夫と不貞行為を行った。原告は,被告と夫との不貞行為が原因でうつ病エピソードを発症した。同年12月21日,原告と夫は調停離婚し,同月25日,離婚届がされた。夫は,調停条項において,特定の男性と不貞を疑わせるような行動をしたことを謝罪し,原告に対して75万円の慰謝料支払義務があることを認めた。
(被告の主張)
 被告は,平成28年頃,職場の同僚として夫と知り合い,平成29年春から話をするようになり,次第に,原告との離婚協議が進まない悩みについて相談を受けるようになった。同年6月8日の午後,被告が,被告の母方の祖母方において祖母も在宅する昼間に,夫と会って原告との夫婦関係について相談をしていたこと,同年6月11日に被告と夫が被告の車の中で会っていたことはあるが,いずれも人目のある場所であり,不貞行為に及んだ事実はない。原告と夫の離婚調停においても,夫は不貞の事実を認めておらず,あくまで不貞を疑わせるような行動をしたことを謝罪しただけである。

2 判決文の検討

原告は,夫が1階の台所で手紙のようなものを書いているのを見かけたことから,何をしているのか聞いたところ,夫から「あんたに関係ないでしょう」などと言われた。不審に思った原告は,Aの外出後にゴミ箱の中を探したところ,書きかけの手紙をびりびりに破いたような紙片を見つけた。それらをつなぎ合わせてみたところ,「Yちゃん」「いつもありがとう」「〓」などの記載があった。

同年5月の時点で,夫が被告に対して「Yちゃん」「いつもありがとう」「〓」といったメッセージを送ろうとするような親密な関係であったこと,④同年6月には,被告と夫の二人だけで自動車に乗るなどして一定の時間(半日程度)行動を共にすることが複数回あったこと,⑤同月13日頃,原告がAに対し,調査会社に夫の行動調査を依頼していたことを告げた上で被告との不貞行為について追及した際,夫に明らかな動揺があったことが認められる。これらの事実関係に照らせば,被告とAとの間には,離婚成立より前の時点から性交渉を伴う交際すなわち不貞行為があったことが強く推認される。

「いつもありがとう」なる紙片だけをもって不倫があったことを認めているわけではありません。自動車で半日程度行動を共にすることが複数回あったこと、不倫を追及された際の動揺があったことも根拠とされています。

これら三つは、裁判実務の現場では、間接事実といって、間接事実の積み重ねによって不貞行為を推認した事例、などと整理されます。

被告と夫との間には,現在,性交渉を伴う真摯な恋愛関係があるところ,既に平成29年5月頃には恋愛感情に匹敵する親密な感情を伴う交際があったと認められるし,同年6月頃には,二人だけで車を使って数時間行動を共にすることもできた。また,Aは,離婚協議が進まないことの悩みを被告にも相談していたところ,その離婚協議において,原告は原告の夫に対し,離婚に応じる条件として,被告との間で不貞行為があったことを認めるよう求めていた。
このような事実関係の下において,仮に,被告と原告の夫がお互いに明確なけじめの意識をもって,不貞行為には及ばない(離婚が成立するまでの間は性交渉を伴う交際はしない。)という自律的行動を貫徹していたのであれば,両名において,初めて性交渉を持った時期やその経緯につき記憶していないはずがないといわざるを得ず,そうすると,翻って,離婚成立以前には不貞行為すなわち性交渉はなかったという証人A及び被告本人の供述は,信用することができない。

この裁判例は、実は裁判の基本に忠実な裁判例といえます。すでに指摘した3つの間接事実に合わせ技で、離婚が成立する前の間は性交渉を伴う交際はしないという自律的行動を貫徹していたのであれば、2人とも、はじめて性交渉を持った時期やその経緯につき記憶をしていない「はずがない」とまで判示していますが、これは、証人尋問という裁判の最終的な局面で行われる手続での被告らの供述から引用しています。事実関係として認められるのは先にのべた三つの事実ですが、その事実と相まって、被告らの供述が採用されています。

3 若干の疑問

個人的には、この裁判例の判示内容には疑問を感じなくもない。夫婦関係の破綻後の不貞行為であれば、慰謝料請求は認められないことはすでにご説明したとおりですが、明確な「けじめなる決意に貫かれた不貞行為や交際行為を問題にする必要はあるのか?

もちろん、これらの判示は、不貞行為の開始時期に対する争点の中ででてきている性質のものですが、破綻後、の行為であるかが重要であって、「けじめ」が必要な不貞行為なのではないのではないか・・?


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