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不倫裁判百選94 人目に触れて通報されるかもしれないリスクを承知の上で,敢えて車内での性行為に及ぶという大胆不敵で破廉恥な性的行動?

0 はじめに

不貞行為の存在を本気で争う事例では、探偵などの証拠が出てこない場合、間接事実といって不貞行為をしていてもおかしくないであろう事実を積み上げていき、最後は裁判官の判断になります。実際に立証に成功した事例はもとよりですが、立証に失敗してしまった事例にこそ、学ぶべき教訓がないか?東京地方裁判所において令和元年12月3日に出された裁判例は、原告の主張をひとつひとつ蹴り飛ばすスタイルをとっています。

1 争いのない事実

 ‥(前略)‥A(原告の配偶者)は,同月28日,午後零時頃から午後8時頃までの間,被告と行動を共にし,手をつないで公園を散策するなどした。(甲2の1)
ウ Aは,同年10月24日,午後4時半前から日をまたぐ深夜まで被告と行動を共にした。二人は,同月24日午後9時01分頃から午後10時36分頃までの間,Aの車を柴又運動場前第二信号付近の路肩に駐車し,約1時間半にわたり停車中の車内で過ごした。その後,二人は,短時間車を移動させて近所のコンビニエンスストアに立ち寄ってから,再び上記路肩に戻り,午後10時56分頃から同月25日午前1時53分までの間,約3時間にわたり停車中の車内で過ごした。それから,Aは,被告の住居付近まで車を移動させて,被告と別れた。(甲2の2)

ここまでは、当事者間で争いのない事実のようです。


2 争点及び当事者の主張

被告は不貞行為を認めていませんが、原告の言う事実が認められるのであれば、不貞行為は明らかではないでしょうか。そう思える内容です。

(1) 本件不貞行為の有無 (原告の主張)
   ア 本件不貞行為の存在

‥(前略)‥同年10月24日,Aは,車で外出して夕方から被告と行動を共にし,午後10時56分頃から同月25日午前1時53分まで約3時間にわたり,車を柴又運動場前第二信号付近の路肩に駐車して,密室の車内に二人だけで長時間滞在するという極めて不審な行動に及んでいる。
 後日車内の状況を原告が確認したところ,トランクには毛布が入れられており(同年11月30日),ダッシュボード内には大量の使用済みのティッシュが放置されている(同年12月4日)など,車内での性行為の存在を窺わせる不自然な痕跡が見受けられた。
 これらの事実関係を総合すると,被告が同年10月24日から同月25日にかけての夜間に,車内でAとの不貞行為に及んでいたことが推認できる。
 イ 本件不貞行為の存在を裏付ける間接事実
 (ア) 本件不貞行為前後のAの不審な行動及び痕跡
 Aは,平成26年12月24日に「アパホテルアンドリゾートトウキヨウ」で自身のクレジットカードを利用しており,この利用履歴はアパホテルの宿泊費用の支払と考えられること,同日はクリスマスイブであるが,原告はAとアパホテルに行っていないことからすると,同ホテルでの宿泊は,当時密会する関係にあった被告と一夜を共に過ごしたものである可能性が高い。
 また,Aは,同年3月19日頃から朝帰りをするようになり,平成27年8月29日に離婚したいと原告に告げてからは,夜間に散歩と称して家を出て,午前零時頃に帰宅するという行動が増加した。その後,Aの車内に香水の匂いが残っている(同年9月8日),ワイシャツの左袖にファンデーションを付けて帰る(同月21日),下着が匂う(同月16日),下着が濡れている(同年10月30日,同年11月14日),といった不審な痕跡も確認された。
 これらの事実は,Aが被告と継続的に密会し,男女関係にあったことを示すものである。
 (イ) 被告及びAの不貞行為を自認する言動
 被告は,本訴提起前の段階における原告代理人との交渉の際に,Aとの不貞行為の存在を認めていた。
 また,原告は,Aとの離婚調停において,Aの不貞行為の主張を行っていたところ,Aも調停の場では不貞行為があったことを認めていた。
 (ウ) 被告のAに対する親密なメール
 Aは,携帯電話に「B」の名前で登録した被告との間で,頻繁にメールや電話のやり取りをしていた。
 被告は,Aと深夜に密会していたことを窺わせるメールを複数送信しており(平成27年11月30日,同年12月6日),その中には「明け方まで,知り合った頃の話をして,爽やかな気持ちになりました。何故か,どうしても,ひとつになれない二人で…」(同日)という,Aとは深夜に二人で会うほど親密な仲にあるが,Aに妻がいることで一緒になれない状況にあることを示唆するような文面も存在する。
 また,被告は,原告の妻に言及する内容のメールも複数送信しており(同年11月13日,平成28年3月2日),特に同日の「Aさんは離婚することが,大変な事と思い知り,離婚やめたいんじゃない?楽な方に行こうとしてるんじゃない?だから私に何も云えなくて無視しているのでは?」「答えだけ言って!てないと,私眠れない」「どうしてそんなに,ヤキモキさせるの?待つ私の気持ちを考えてね お願いだから今言って。」などの文面には,被告がAの妻との離婚を進める話が全く進展していないことへの不満を抱き,Aが妻と離婚して被告と再婚等ができる状態になることを切望していたことが表れており,これは被告が既にAと不貞関係にあったことを示すものである。

しかし被告は、ひたすらに反論を重ねます。

(被告の主張)
 被告がAと不貞行為に及んだ事実は否認する。
   ア 平成27年10月24日の行動について
 原告が主張する時間帯・場所において,被告がAと車内で二人だけで過ごしていた事実は認めるが,車内では直前に寄ったコンビニエンスストアで購入した菓子を食べながら,他人に聞かれたくない相談話(内縁の夫が亡くなったことや,その納骨をどうするか,といったことなど)をAとしていただけであり,不貞行為はしていない。
 原告が援用する後日のAの車内での毛布や使用済みティッシュの発見状況は,平成27年10月24日から1月以上が経過した日の車内の状況であり,問題の日の車内の状況と同一であるとはいえないし,これらの物品が車内で発見されたからといって,当時70歳に近い分別のある大人のAと被告が,交通の往来のある街灯も灯った道路脇に駐車した車内で,人目もはばからずに性行為に及んでいた事実を推認するのは無理がある。
   イ 原告が主張する他の間接事実に対する反論
 (ア) 平成26年12月24日の行動等について
 平成26年12月24日に被告がAとホテルで宿泊した事実はない。Aの同日のクレジットカードの利用履歴に表示された「アパホテルアンドリゾートトウキヨウ」とは,「アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張」のことを指すと考えられるところ,被告は,同日かどうかは定かではないが,Aと同ホテル内のレストラン街の飲食店で食事を共にした限度の出来事はあった。同ホテルの宿泊費用は,シングルでも2万円以上になるので,仮に宿泊したのであれば,カードの利用料金が1万円で済むはずがなく,Aが同日に同ホテルに宿泊したという前提自体が誤っている。
 被告は,他の日も含め,Aと不貞行為に及んだことは一切ない。
 (イ) 被告及びAが不貞行為を自認していないこと
 被告は,平成28年3月4日,原告代理人と電話で話した際に,従前の交渉の場では不貞行為に性行為(セックス)以外の行為(キス等)も含まれると誤信していたことを釈明しつつ,改めてAと性行為はしていないとして,不貞行為の存在を明確に否定していた。
 また,Aが離婚調停で不貞行為の存在を認めていたことを示す書面の記載はなく,仮にAが慰謝料の支払自体は認めていたとしても,これが不貞行為に起因するものなのかどうかは不明であり,Aの調停での主張内容が当然に被告との不貞行為を自認したものであるとはいえない。
 (ウ) Aとのメールのやり取りについて
 原告が援用する被告とAとの間のメールには,不貞行為の存在を窺わせるような記載は存在しない。‥(省略)‥


3 裁判所の判断

 裁判所は、不貞行為の存在を認めることがありませんでした。

 (3) 平成27年9月28日のAと被告の行動
 被告は,平成27年9月28日午前11時46分頃,JR船橋駅前で待機していたAの車の助手席に乗り込み,Aの運転で横浜市内の中華街に移動した。
 Aと被告は,午後1時半頃,駐車場に車を停めた後,手をつなぎながら中華街を散策し,午後3時頃まで昼食を摂るなどして過ごした。
 二人は,次に車で公園に移動し,手をつなぎながら公園内を散策した後,近場の喫茶店で午後4時半頃まで過ごした。
 Aは,午後8時頃,被告を自宅まで車で送り届けて,被告と別れた。(甲2の1)

  (4) 平成27年10月24日のAと被告の行動
 被告は,平成27年10月24日午後4時19分頃,東京都葛飾区柴又1丁目の路上で待機していたAの車の助手席に乗り込み,Aの運転でファミリーレストランに移動して,午後4時半頃から午後8時45分頃まで4時間以上店内に滞在した。
 Aと被告は,その後同区柴又の柴又運動場前第二信号付近の進行方向沿いの路肩に設けられた車一台分の駐車スペース(以下「本件駐車スペース」という。)に車を停めて,午後9時1分頃から午後10時36分頃まで1時間半以上車内で過ごした。本件駐車スペースに接する道路は,片側一車線で,街灯が多数設けられており,付近は土手となっていて,歩行者や自転車がそこを通行することができた。
 二人は,その後いったん付近のコンビニエンスストアに車で移動し,午後10時40分頃から午後10時52分頃まで店内で買物を済ませてから,再び本件駐車スペースに同じ車の向きで戻り,午後10時56分頃から同月25日午前1時53分頃までの間,3時間近く車内で過ごした。
 Aは,午前1時56分頃,被告を自宅付近まで車で送り届けて,被告と別れた。(甲2の2)
  (5) 被告のAに対するメール
 被告は,平成27年11月以降,以下の内容のメールをAに送信した。なお,Aの携帯電話では,被告の名前は「B」の偽名で登録されていた。(甲7の11ないし19)
   ア 平成27年11月13日頃
 「私には,もう何も言わなくていいです。昨晩の私にくれたメールも11時半を(一字又は二字不明)ていたので奥さんと話が出来たと思って(以下不明)」
   イ 平成27年11月30日
 「遅くなってすみませんでした。そしてご馳走さまでした。逆になってしまって…もうそろそろ着くかしら」
   ウ 平成27年12月6日
 「明け方まで,知り合った頃の話をして,爽やかな気持ちになりました。何故か,どうしても,ひとつになれない二人で(以下不明)」
   エ 平成28年3月2日午前零時台から1時台(全5通)
 「Aさん 私,読めてきたわ。これだけメールしても無視しているのは Aさんは離婚することが,大変な事と思い知り,離婚やめたんじゃない?楽な方に行こうとしているんじゃない?だから私に何も云えなくて,無視しているのでは?昨日の〓で漠然と感じたのだけれど…」
 「私そういったわ。でも会うことはなるべくしない方がいいということで そんなことしていたら気持ち不安定になってしま(以下不明)」
 「答えだけ言って!てないと,私眠れない」
 「どうしてそんなに,ヤキモキさせるの?待つ私の気持ちを考えてねお願いだから今言って。私の言ったこと当たり(以下不明)」
 「明日〓でなく会えるの?」‥(以下略)‥
 2 争点(1)(本件不貞行為の有無)について
  (1) 車内での長時間の滞在行動が持つ推認力の検討

 被告は,Aに妻がいることを知りつつ,平成27年10月24日午後4時半頃から翌25日午前2時頃まで約9時間半にわたり,Aと二人で外出して過ごし,このうち午後9時頃以降の約4時間半は,途中で一度近所のコンビニエンスストアに移動した場面を除き,本件駐車スペースに停車した車の中に長時間こもり続けるという,一見すると相当に不審な行動に及んでいる(前記認定事実(4))。
 しかし,車内での滞在状況を終始監視し続けていた探偵業者の調査報告書(甲2の2)によっても,車内で何が行われていたのかまでは不明であり,車内で人影が不自然な動きを見せたり,車体が不自然に揺れ動いたりするような状況が現認されたことを示す記録も存在しない。この点に関し,原告は,本人尋問において,車を監視中の探偵業者から,車が揺れ動く様子が確認できるとの報告を電話で受けた旨供述するが,仮にそのような明らかに不自然な停車中の車体の状況の変化が現認されたのであれば,不貞の有無の調査を行う探偵業者が,その旨の特記事項を調査報告書に記録しておかないことは考え難いというべきであるから,客観的な裏付けを欠く原告の供述はにわかに採用できない。
 一方,本件駐車スペースは,片側一車線の道路沿いに位置し,すぐ脇を車が通過していく車道に近い場所であること,周囲には街灯が等間隔で多数設置されており,深夜でも相応の明るさを保持していたこと,周辺は土手となっていて,夜間でも人や自転車の通行があったこと(甲2の2,証人A,被告本人)に鑑みると,たとえ深夜であっても,人目につきにくい環境であるとはいい難く,通行車両や通行人に目撃されないように車内での性行為を敢行するために適した場所であるとは必ずしもいえない。このような客観的状況に加えて,被告とAが当時67歳又は68歳に達していた初老の男女であることを併せ考えると,深夜の時間帯であるとはいえ,二人が敢えて人目に触れる可能性のある車道脇に駐車した狭い車の中での性行為を実行するという大胆不敵かつ破廉恥な性的行動に及んだものとは,一般論としても想像しにくい面がある。
 ‥(中略)‥これに対し,原告は,仮に人目を気にしつつプライベートな話を長時間したかったのであれば,カラオケの個室を利用するという合理的な選択肢があったにもかかわらず,深夜の土手沿いに停めた車内という状況を敢えて選択したのは,カラオケの個室以上に密室性の高い環境でなければ実行できない行動に及ぼうとした意図の表れであり,被告の弁解内容は不合理である旨主張する。
 しかし,仮に路上に駐車した車内での性行為を敢行するのであれば,事柄の性質上,人目に触れない環境であることが必須条件となるところ,Aが車を停めた本件駐車スペースは,深夜であることを勘案しても,一義的に人目につきにくい場所であるとはいい難いことは,前記(1)で説示したとおりであるから,そうである以上,原告が指摘する点は,被告の弁解の合理性を失わせる決め手にはならないというべきである。‥(中略)‥
 原告が指摘するとおり,類型的に虚偽供述に及ぶ動機が存在する立場の証人Aの証言の信用性を慎重に吟味すべきことはもちろんであるが,一方で,前述したとおり,70歳に近い相応の人生経験や経済力のある初老の男女が,ホテルに行こうと思えば行けたはずであるにもかかわらず,深夜であるとはいえ,人目に触れて通報されるかもしれないリスクを承知の上で,敢えて車内での性行為に及ぶという大胆不敵で破廉恥な性的行動に及んだものとは,常識的に考えて想像し難いこともまた否定できない。こうした素朴な疑問点と対比して考察した場合に,被告との不貞行為の成否に関して利害関係を有する証人Aの証言が全面的な信用に値するといえるのかどうかは‥(中略)‥ 

(5) まとめ

 以上によれば,原告が主張する種々の間接事実を総合しても,本件の証拠関係から推認できるのは,せいぜい被告とAが相当に親密な交際関係にあったという限度の事実にとどまり,これを超えて本件不貞行為の存在まで認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず,被告の原告に対する不法行為の成立は認められない。

4 若干の疑問

 不貞行為に対する評価を70歳に近い相応の人生経験や経済力のある初老の男女が,ホテルに行こうと思えば行けたはずであるにもかかわらず,深夜であるとはいえ,人目に触れて通報されるかもしれないリスクを承知の上で,敢えて車内での性行為に及ぶという大胆不敵で破廉恥な性的行動に及んだものとは,常識的に考えて想像し難いこともまた否定できない、と評価しています。

社内での性行為に対する評価としては疑問の余地があるでしょうが、大胆不敵で破廉恥な性的行動ではあっても、人目に触れて通報されるリスクがあることを、恋愛真っただ中にいる不倫の当事者間は意識するでしょうか。。。疑問が残る判断です。


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