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不倫裁判百選84日記の中で,被告との関係を「恋愛関係」と記載してある日記?


0 はじめに

ある試論を展開しました。

今回は、日記の内容を詳細に検討しつつも、慰謝料請求を認めていない事例を紹介します。日記はメールと違い、いつでも修正可能なように思われますが、裁判例では、結構重視しているものが多いです。

1 事案の概要

(1) 当事者等
ア 原告と原告の妻であるB(以下「B」という。)は,平成8年4月21日に婚姻し,原告とBの間には長女(平成11年○月○日生)及び二女(平成13年○月○日生)がいる。なお,Bは,岩手県釜石市出身である。(甲1,弁論の全趣旨)
イ 被告は,妻子と同居する男性であり,岩手県釜石市を本拠地として東日本大震災復興支援活動を行うボランティア団体(以下「本件団体」という。)を主催し,現在,一般社団法人a(以下「本件社団法人」という。)の代表理事を務めている。(甲2,3,弁論の全趣旨)
 C(以下,「C」といい,その証言を「証人C」という。)は,被告と共に本件団体の活動を行っており,本件社団法人の理事である。(甲3,弁論の全趣旨)

その後Bは,その後,実家のある岩手県釜石市に赴き,ボランティア活動に従事していたところ,同じくボランティア活動を行っていた被告と知り合ったとのことです。男性から男性への請求です。被告はボランティア団体の代表理事、不貞相手はボランティアにでかけていたようです。

2 争点に対する当事者の主張
被告とBとの不貞行為 【原告の主張】

 ボランティア活動で知り合ったBと被告は急速に接近し,被告が東京に赴いたときや,Bが岩手県釜石(市)に赴いたときに複数回,性的関係を持つようになった。このことは,①Bが作成した日記(甲7)に,被告がBと密会しており,被告とBとの間に不貞関係を認める旨の記載があること‥(中略)‥からも明らかである。原告が被告に対し,平成24年4月21日,Bとの不貞行為の有無を問いただすと,被告は不貞行為の事実を認めており,その際,Cも立ち会っており,その後,④Cは,被告とBの不貞行為を認めた上で交渉をおこなっていた。※Cは仲介人のような立場の方のようです。
【被告の主張】
 被告は,Bとはボランティアを通して知人関係にあっただけであり,不貞関係にはなかったものである。
 ①原告は,Bの日記をもって,Bと被告の不貞行為があったと主張するが,その日記は,被告を一方的に片思いするBの占いに基づく妄想が記載されているに過ぎない。そもそも,Bの日記には,被告との不貞行為,すなわち性交渉やその類似行為自体を示す記載が存在しない。

被告は、日記の記載を自分への片思いのしるしであると反論しています。ここまでくると、どんな内容が記載されているかが決定的であるように思えます。

2 裁判所の判断

裁判所は、不貞行為を認めていません。日記の記載を見てみます。

 Bは,平成23年7月25日から同年8月23日の作成日付で,概要,以下のような日記を記載した。なお,記載の中には,Bと被告とが性交渉や性交渉類似行為をしたことの記載はない。(甲7)
ア 平成23年7月25日付
 被告からBに対し,電話があって,被告が「今,釜石?」,「久しぶりに声きけて良かった。」,「また連絡する。」,「27日に釜石に戻るから。」旨述べ,とても嬉しかった,27日に釜石で会えると良いとする内容が記載されている。
イ 平成23年7月28日付
 前日,被告からBに対し,電話があったが,それ以降電話がないといった内容が記載された上,被告との関係や性交渉できる可能性などを占った結果のほか,被告もB自身もフリーにならないと祝福される関係にはないなどというBの願望が記載されている。
ウ 平成23年8月3日付
 Bが友人に占いをしてもらった結果やその感想,自分の性格を記載した後に,被告から電話がこないことを悩み,まずはB自身が離婚してフリーになることの決意が記載されている。なお,Bは,日記の中で,被告との関係を「恋愛関係」,「私との関係」と表現している。
エ 平成23年8月12日付
 Bが,平成23年8月5日から同月7日まで,気仙沼でボランティアをした内容,占いの結果を記載した後,被告から電話があり,被告は,現在の被告自身の仕事内容を伝えた上,「お盆はどうするの?」,「会いたいね。」とBに述べてきた,その後また占いをしたが,思うような結果が出ないといった内容が記載されている。
カ 平成23年8月22日付
 からBに連絡があり,ファミレスで1時間ほどお昼を一緒に食べた後,駐車場で抱きしめられ,キスをされたこと,車の中で被告がBの太ももを触ってキスをしてきたことなどが記載され,その後,占いをした結果などが記載されている。
キ 平成23年8月28日付
 Bの被告に対する思いや占いの結果などが記載されている。
 以上を前提に争点(1)被告とBとの不貞行為が認められるかを検討する。
  (1) まず,原告が主張する①(Bが作成した日記)については,確かに,原告が指摘するように,日記の記載の中には,原告とBの娘の行動に合致する部分や,被告の実際の活動内容と被告との会話内容が合致する部分は認められる。
 しかしながら,外部に提出を予定していない個人的な日記の性質,特に,前記認定事実1(2)のとおり,Bが作成した日記には,Bが行った占いの結果や,占いの結果をもとにB自身がどのように対応すべきか,Bの願望といった,正にB自身の内心に関する記述が数多くを占めていることに照らせば,記載の一部が事実と合致することによって,他の事実すべてが実際に起こったものということはできない。また,被告とBはボランティア活動の中で話をする機会は他にもあり,そのような機会に聞いた話を記載することも可能である。
 よって,被告との会話や被告と会った際の状況など,その信用性には疑問が残り,Bの日記(甲7)に記載されている内容について,被告との会話やキスなどの行為がその日に実際にあったものと推認することはできない。
 また,そもそも,Bが作成した日記の内容には,Bと被告がキスをしたこと,1回会ったこと,被告との関係を「恋愛関係」などと表現していることなどが記載されているに過ぎず,仮に,日記の記載内容どおりの事実があったとしても,かかる事実によって,被告とBとの不貞行為を認めるに足りない。

3 若干の検討

 この裁判例は、日記の記載をそのまま認定の基礎として用いることに躊躇しているように読めます。その理由に、「内心に合致する事実」が多いことが指摘されているのですが、内心への一致、こそ、真実が記載されているのではないか?もちろん、記載されている内心の一致を前提としても、Bと被告がキスをしたこと,1回会ったこと,被告との関係を「恋愛関係」などと表現したにすぎず、として不貞行為の存在を認めていません。

 ファミレスで1時間ほどお昼を一緒に食べた後,駐車場で抱きしめられ,キスをされたこと,車の中で被告がBの太ももを触ってキスをしたことまで記載されているのであれば、たしかに不貞行為までの立証には距離があるが、この日だけの関係という間柄ではない本件当事者間で、不貞行為を認めないとなると、ハードルが高すぎるのではないか?

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