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文庫本を閉じて
振り返る
闇の中心で 
黒のスニーカーで思い出す
あの日 僕の革靴を見て
黒のスニーカーでもスーツと相性いいですよ
そう言われ
とりあえず よくわからないので
一緒に選んでもらった

部屋の窓に息を吹きかけ 
愛と書いて見る
真夜中の月が小さく外に浮かんでいて
営みが窓の外にあるのを感じる
黒のスニーカーは
あれからずっと愛用していた

営業で吐き潰し
もう一度あの店に行った
なにかを期待しているわけではないと言えば嘘になる
あの時スニーカーを選んでくれた彼女はもういなかった
同じスニーカーを買い レジで事務的に会計を済ませて ホテルの部屋に戻った

あの日 なにを思っていたのだろう
そう思いながら 窓に息を吹きかけ
バイバイと書いた
11月の外の世界は
いつまでも光が忙しく交差し
ビジネスホテルのシングルルームで
男が独り 景色の中で 誰にも見えない思いを抱いている そんな自分をいたぶりたくなる

真新しいスニーカーの靴紐を締め
他人の顔をして ドアを開く

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